43話 A6
リベンは部屋の明かりを消して、窓を開けて頬杖をついて遠くの煌々と輝く中心街をぼんやりと眺めながら考え事をしていた。外の新鮮な空気が頭をスッキリとさせた。コンクリートとガラスの摩天楼は相変わらずだが、春の頃と違い、通りには葉が茂って少し景色が変わっている。夜景を見て心を落ち着かせながらも街の光に心を静かに昂揚させていた。
ぼんやりと眺めるというのは、最初のうちは脳の整理が行われ、それが片付いてきた頃には新しく考えが湧いて来るものである。リベンの頭に少しずつ考えが浮かび上がっていった。
シロちゃんとの決闘は、復讐の後にするのでは捕まるか失敗して死傷してできなくなっているかもしれない。だから今はこっちを優先する。すなわち、まず7位を取り、その後6位のシロちゃんに挑む。
何かに夢中になれるのは基本的にはいいことだと言うけど、全てがそうじゃない。俺の場合は復讐のことや、復讐した後どうするかを考えるのが嫌で、逃げるように夢中になっているのだと思う。復讐を終えれば人生の指針を失い、まだ死にたくないからまだ復讐を終わらせたくないと何かと理由を付けて先延ばしにしているのだろう。これでは俺に復讐を託して死んだ母が報われない。
分かってはいるが…こんな気分では復讐どころではない。先に決着をつけてスッキリとしておきたい。いや、いつもそうやって気分が乗らないと先延ばしにしているだけか?そして引き延ばしている間に何か諦めがつくようなことが起きて復讐せずに済まないかを期待しているんじゃないか?
まさか。俺はそんな薄情者じゃない。今はこの学園の決闘ルールが目新しくてハマっているだけだ。シロちゃんに勝つという目標もある。飽きてきたら復讐に熱が入るさ。それに、パーリラやアペソン先輩から学園長のことをすぐ聞き出すと疑われる可能性があるから間を空ける必要があるんだ。
そう、シロちゃんに勝つための行動は待ち時間の有効活用。おかしくなんかないんだ。
そのためにまずは7位になること。すなわちフランク先輩を倒すことが当面の目標。
彼の戦い方は剣はほとんど動かさず、間合いを詰めてそのまま押し付けて来るような動き。喧嘩が得意という噂通り、体術の動きを基本として素早く詰めてくる。剣術相手という感じがしないんだよな…。どうやって練習しようか。身近にいる人はみんな剣の型が違う。お願いして再現してもらおうにもあのレベルは無理だろう。出来たらそいつはランキング7位になってる。
となれば、自分で真似して練習か。同じレベルは無理でも相手にしている時には気づかなかったものが見えてくるかもしれない。
リベンは方針を決め、窓を閉めてカーテンを閉めて部屋の明かりをつけ、フランクの決闘の動画を何本か見て頭に入れ、それを終えると眠りに就いた。
翌日、トレーニングの授業が終わり、全ての授業が終わった放課後、トモイに頼んで剣を受けてもらった。演技性選手を目指すトモイにとっては、不要な行動と思われるかもしれなかったが、意外にも快諾した。
「いいよ。7位リベンジマッチが楽しみだね」
上位ランキングの試合を見るのが好きなトモイにとっては、そのための練習に付き合うことは何の問題も感じて無かった。
「ありがとう。守備を頼む」
「了解」
2人は雪剣を起動し、リベンはフランクの動きを思い出しながら真似するように攻め込んだ。トモイは剣を防いで受け、再び距離を取って動画で見た何通りかの動きを真似して練習した。
それから何度も繰り返して動きに慣れて来たところでトモイが制止した。
「ちょっと待った。もう腕が痛い」
トモイは雪剣の刀身を消し、左手でだらんとした右腕を掴んでみせた。
「ああ、すまん。ここまでにしよう」
リベンは雪剣の刃を消してホルダーに戻し、トモイも雪剣をホルダーにしまった。
「少し分かってきた。ありがとう」
「どういたしまして」
「明日は一人でやるよ。明後日また頼めるか?」
「明後日か、いいよ。ふぅ…疲れた…寮に帰って風呂に入ろう」
「ああ」
2人は寮に戻り、しっかりと休息を取った。
そしてその夜、フランクの動画をまた見た。今度は真似して感じ取ったことを意識しながら見ることで、以前よりも理解度が高まっていた。
成程…重心の取り方がちょっと違ったか。バランスが取れているから動きのキレが段違いだ。自分で真似してみて隙があると思ったところも、俺の動きが鈍いだけのようだ。まあ初日ならこんなものか…。
余計なことを考えずに目標に向かって真剣に取り組める。本人は夢中で気づいていないがそんな幸せをしっかり味わっていた。
翌日、リベンは学園の端で一人で動きを真似て練習していると、見ている人の気配に気づいて止まった。そして気配の方を向くとミクロナとシュロンが見ていた。
「あ、ごめんね、邪魔しちゃったかな?続けていいよ」
「邪魔にならないようあたしたちはもう行くから」
「いや、ちょうどいいからちょっと休憩する」
リベンは雪剣をしまって近くの石の椅子に座った。ミクロナとシュロンはリベンに少し近づいて来た。
「フランク先輩みたいな動きしてたね」
「分かる?本人には到底及ばないけど。真似したら何か見えてくるかなと」
「あー、あるね。そういうの」
ミクロナはうんうんと頷いた。
「シロちゃんどうやってフランク先輩を倒し…いや、聞くのはよそう」
「そうだな。もしそれで倒せても面白くない」
「えー…まあ、2人がそれでいいならいいけど」
3人は沈黙し、何か別の話題をとミクロナが口を開いた。
「そうだ、シロちゃん。この前言ってた1週間が5日だったらってやつをベンちゃんにも聞いてもらおう」
「なんだそれ?」
「まあいいけど…眠くならないでね」
シュロンは言われて話を思い出して語り始めた。
「前にふと思ったこと。この世界の1年は365日、4年に一度は366日。1週間は7日ある。本当にこれは効率的か?曜日が年によって変わり、祝日の曜日が変わる。割り切れる1週間5日が効率的なんじゃないかという話。実現可能性なんて考えてないお遊びのようなものだから気楽に聞いて」
「ああ」
知的で好奇心の強いシュロンの考えそうなことだ。必要に迫られたわけでもなく、ふと疑問に思ったから考えてみたというもの。遊び感覚で自然と深く考える。
「1週間5日の1か月6週間で30日が基本。曜日は無い。曜日の代わりに1の列、2の列という言い方をする。例えば6日は1の列で、24日は4の列。2を除く偶数月に1日追加して31日まである。これで365日。うるう年には2月に1日足して全ての月で31日になる」
「何だか無機質というか均等で美しいな」
「うん。それで新年の1月1日は冬至、折り返しの7月1日が夏至が来るようにする。それぞれから45日前後に寒さのピークと暑さのピークが来るから、その辺りが冬休みと夏休み。基本的に5の列が休みで31日も休み。つまり新年休みと中間休みの前日に2日の休みで準備期間があることになる。休日数は祝日やら有給やら加えて120日程度になるようにする」
「成程。偶数月に31日目を振ったのはそういうことか。美しい」
「でしょでしょ?綺麗だよね?シロちゃん面白いこと考えるよね」
ミクロナはシュロンが褒められて嬉しそうに笑って、シュロンは気恥ずかしそうに微笑んだ。
「それでね、1月とか7月とか同じ言い方だと混乱を招くから、新しい名前を考えたんだよ。暗月とか明月とか、それから…。……」
その後、3人は楽しく話してリフレッシュできた。リベンは練習に戻り、2人は寮へと帰っていった。
翌日の朝の教室。リベンとトモイは決闘の話をしていてルシフェとの決闘の話が出た。
「そういえば前に4位のルシフェ先輩と戦ったんだろう?僕も見たかったな。そうだ、経験した4位の技を真似すれば7位を倒せないかな?そう簡単にはいかないかな?」
そう言いながらトモイの出したウィンドウには過去の決闘の映像が流れていた。
「同じ技でも使い手次第で強さが違うから、勝てるというわけではないだろうな。でも色々な技を取り込んで強くなりたい」
「成程ね。…こうして過去の決闘の動画を見てもあの人は突きを好むようだね。得意なのか好きなのか、はたまた突きという技が強いから使っているだけなのか」
「分からない。あの人が突きに信頼を置いているのは確かだ」
「まるで鎗との戦いだね」
「鎗…?鎗の突きとは違うな。あの片手持ちで腕を比較的大きく動かす動きは剣や短剣による突き。鎗はそんなに動かさなくて…ん?待てよ?」
「どうしたんだい?」
「そうか…いけるかもしれない」
リベンはあることを思いついた。フランクを倒す策を。
異世界だけどそこでは1年が365日で1週間が7日です。そういうことにしといてください。




