39話 E11
夜、リベンが勉強を終えて息抜きに部屋を出て寮の男子談話室前を通りかかると、ヴァンとトモイが向かい合って座り、ノートを開いて深刻に悩んでいたのが見えた。気になって声をかけることにした。
「よう、また話を考えているのか?」
「あ、リベン。その通りなんだ。聞いてくれよ」
「いいよ。どんな話?」
リベンは2人の囲んでいるテーブルから椅子を引いて座って話を聞くことにした。ヴァンの話は気が抜けるようなものが多い。何か深刻に悩んでいたようだが、空気を軽くしてくれるだろう。
「世の中には体格で階級別に分ける競技があるだろう?」
「ああ、あるね。ケンランには無いけど」
「体が小さいから運動は不向きと諦めなくていい訳さ。一方で、胸が大きくて運動に不向きと諦める人もいる。そこで考えたんだ。ブラのカップ数で階級を分ける競技の話はどうだろうかと」
こいつ本当に胸が好きだな。気持ちは分かるけど。
「面白い試みだな。いいんじゃない?」
「だよな。とりあえずA以下,B,C,D,E,F,G以上の7階級を考えている」
「フィクションとはいえ階級が多すぎないか?」
「そうかな?7つって多いか?」
「言い方が悪かった。A以下とG以上では該当する人が少なすぎないか?うろ覚えだがCとDが一番多くて合わせたら過半数超えてたような」
トモイはウィンドウを出して調べ、分布グラフを表示した。
「確かにA以下とG以上だと少ないかもね。B以下とF以上がいいと思うよ」
「うーん…確かにそうだけど、あんまり階級減らすと大きくて不利な子が不利なままなのは気になる」
「完全に公平にするのは無理さ。それでも無差別級よりは公平に近づくと思うね」
「…仕方ない。それで妥協しよう」
ヴァンは不本意ながらも一応は納得した。
「競技は?」
「ダンスバトルがいいかなって」
「成程、ダンスか…よく知らないけど激しい動きだから体格による影響が大きそうだな。見栄えも良さそう。いいんじゃない?」
「他にも色々考えたけど、やっぱダンスがいいね。胸が揺れて大きい方が不利だろうとイメージしやすい。これが例えば剣術だとイメージしにくいだろうから」
ランキング上位のシュロンもパーリラも胸が小さい。というか運動したら小さくなるんじゃないか?
「話のあらすじはこうだ。主人公は胸が大きく運動に不利で勝負に勝てなくてスポーツが嫌いになっていた。しかし、階級別のダンスバトルと出会い、スポーツの面白さを思い出して救われるんだ。ライバルとの戦いや、悪役の妨害を乗り越え、彼女の努力が報われる結末に至る話だ」
「人間は生存に関する話に興味を持つからね。苦悩や苦境をどう乗り越えるかに興味が湧く。自分には関係ないものだと興味湧かないから何かしらの共通点を持たせたいところ」
「へえー…色々考えてるんだな。馬鹿みたいな設定なのにすごくまともに聞こえる」
「よくあることさ。それで一つ懸念点があるんだ」
「運動したら胸が小さくなるのではという問題だ。話が終わってしまう」
「あ、それ、実は俺もそうなんじゃないかと思ってた」
「それでどうしようかさっきから悩んでいたんだ」
悩みはそれかよ。深刻な悩みかと思いきや、しょうもなかった。
「そんなのフィクションなんだしいいだろ。縮んで階級が変わると強い相手しなくちゃいけなくなるから、縮まないように気を付けて鍛えているってことで」
「そうか!それだけのことじゃん!なんで思いつかなかったんだか」
「後ろ向きな理由なのは少し気になるけど、まあアリだね」
「ずっと悩んでいると視野が狭まるからな。何か前にもあった気がする」
「悩んだら早く解決したいところだけど、一度寝るべきだね」
就寝が話題に出てトモイとヴァンは談話室にかかっている時計を確認した。もうすぐ11時になろうとしていた。
「そろそろ寝るよ。また明日」
「サンキュー。おやすみ」
「おやすみ」
3人は立ち上がって、それぞれ自室に帰って寝る仕度をして眠りに就いた。
一晩寝かせるのがいいとは分かっていても、スッキリしてから眠りに就きたかったり、早く解決しなければという焦りで眠れなかったりと、いつもうまくいくわけではない。
少し前のユリブラン学園の休憩時間。リベンたちの隣の教室で、メランドは友人たちと話をしていた。
「男子と2人で海行ったの?デートじゃん」
「海と言っても公園だよ?水着でもない。デートじゃないよ」
「公園だってデートスポットだよ。夜は2人で…」
「夕方には帰ったよ」
「なんだ…」
「いや、初デートでは緊張しやすく疲れやすい。短時間にするとはやるじゃない」
「流石リーザ、詳しいね」
「だからデートじゃないって」
リーザ・リッチリバー。経営コース志望。恋愛経験豊富。若干18歳で付き合った人数は2桁を超えている。長続きしていないだけとも言える。
「あれ?そもそも付き合っていいの?家柄の良い人以外駄目みたいなのなかった?」
「結婚相手にはそれなりの格が必要だと言われてる。でも付き合うだけなら何も制限されてないよ。今のうちに好きにしておきなってさ」
両親はそう言ってはいるが、心のどこかでは恋愛結婚を期待している。
「その格って、銘家じゃなくてもプロ選手ならいいの?」
「いいらしいけど…」
「そのリベンって人は一桁台でしょ?プロ選手になれる可能性高いじゃない?問題なし」
「いや、まだ分かんないよ?今は良くても追い抜かれるかも」
その後、友人たちは話が脱線してプロになれそうかどうかああだこうだ言っていたが、突然話が戻って来て、本当に恋愛対象じゃないのかメランドに聞いた。
「リベンは違うよ。恋人とかそういうのじゃない。近所の仲のいいお兄さんみたいな感じ」
「本当に?じゃあドキドキしないの?」
「一緒にいて落ち着く人。気を許して眠っちゃうくらい」
本当は時々リベンの逞しい体と匂いにドキッとすることはあるが、それを言うと性欲だけみたいで恥ずかしくて言えなかった。
「落ち着くならそれはそれでいいじゃん」
「一緒にいるとドキドキして落ち着かないとか、いつも考えてしまうとか、そういうのが恋愛じゃないの?私の頭の中に彼は普段いない。彼のことを思い出すのは、日常を過ごしていてこれいいなと感じた時くらい。彼にも教えてあげたいなと思い出す」
メランドは喋った後に、ここまで喋ること無かったなと思った。もしかしたら、本当はそれは間違いだと言われたくて、口が滑ったのかもしれない。
「リーザ大先生、どうなんですか?」
「ドキドキしないなら恋愛感情じゃないんじゃない?慣れてくると冷めるよね」
「やっぱりそうだよね」
「いやいや、リーザは普通と違って恋多き乙女だから。メランドには当てはまらないと思うよ」
「恋愛経験豊富な人がそう言ってるなら正しいんじゃないの?」
「それはそうなんだけど…ほら、人によって千差万別?」
「それ言ったら何にも決まらない…」
友人たちは上手く言えずに別口から解決を試みてみた。
「彼に近所のお兄さんとしてじゃなくて恋人として求められたらどうする?」
「付き合うってこと?拒否はしないけど、ちゃんと期待に応えられるかな…。まあ結婚じゃないんだから、試してみて駄目なら別れればいいだけだし」
「メランドの方からは告白しないの?」
「だからドキドキしてるわけじゃないから違うんだって」
「じゃあ彼が他の人と付き合って、もう2人きりでは会えないと部室の鍵を返して、一緒に過ごせなくなってもいい?」
「それは…」
メランドは一瞬であらゆる場面を想像して、喪失感を味わった。
「それは寂しいかな…」
「やっぱり恋愛対象なんじゃないの?」
「でもそれは友達にだって言えるよ。仲良く遊んでいた友達が恋人と過ごすようになって、一緒に遊べなくなったら寂しい…。でも友達の幸せを邪魔しないよ。寂しさは乗り越える」
「うーん、いい子」
リーザはメランドに抱き着いて頬ずりした。
「えへへ」
メランドは嫌がらずに甘え声を出してリーザの好きにさせた。
友人たちは最初、メランドはリベンのことを恋愛対象だと見ていると思って冷やかしていたが話しているうちに段々と分からなくなってきた。自分には関係のない話だが、自分のことのように真剣に考えてくれている。
「そもそもの確認だけど、彼に好かれたい?」
「そりゃ、リベンにだったら好かれる方がいいよ」
メランドは迷いなく答えた、パーリラとは真逆の答えを。2人を分けたものは一体何か。




