27話 C6
「でも死んだ親の夢を引き継ぐという話はよくあるじゃないですか。とても感動的で俺は好きですよ」
「それはロマンチックではあるけど、無理して叶えることじゃないと思うな。聞こえがいいから良くも悪くも引き下がりにくくなるよね。それが困難に打ち勝つ支えになるならいいと思うけど、不幸になるようならやめた方がいいと思う」
先輩は肯定も否定もしないわけか。どちらかと言うと否定寄りだけど二元論ではないようだ。先輩の言う通りかもしれないが、俺には確信が持てない。
「つまり先輩はパーリラが演技性選手の道に進まず、親の期待に応えなくてもいいという考えですか」
「そういうことね」
「契約違反だと学園長に違約金支払いが生じませんか?」
「そこを心配してくれてたの?大丈夫よ。私の家との約束はこの学園にパーリラを入れるべく育てること。選手にしないといけないという厳しい条件は付いていない」
「それならいいですが…」
「尤も言ってないだけで無言の圧というものはあるけどね。でも気にすることないよ」
アペソンは苦笑しながら小さく手を振って無い無いと示した。
「先輩が学園に来たのはパーリラを演技性選手に誘導するためかと思ったこともありましたが、どうやら違うようですね」
「うん。私が選手になりたいからこの学園に来たの。エジンさんから見せてもらった試合は、あの子じゃなくて私が魅了されちゃった。エジンさんは違う期待をしているかもしれないけど私には関係ないよ」
随分と自由だな。それで大丈夫なのか?逆に俺の責任感や使命感が強すぎるだけなのか?皆が皆、同じであることもないが、自分とは違うと思考停止するのも良くない。まあ、今度考えよう。
「それにしても本当に演技性ケンランが好きなんですね。そこで気になったのですが、以前に主役を目指すのを止めたらいいのではないかと言ったことあるじゃないですか」
「あれは私の呪縛を解く言葉だったな、ありがとう」
「どういたしまして。それで、気になったのですが本当にそんな簡単に主役を諦められるものなのですか?劇のことはよく分からないですが、劇が好きなら主役を目指したいものなんじゃないかなと思って…」
「うーん…何を求めるかじゃないかな?キャッチボールが好きだけど、大会に出て優勝したいという訳じゃない人がいるように、一番の花形を目指すだけが全てじゃないと思う。それに私は元々ヒーローよりも救われる側に憧れていたから」
救われる側…?
「命の危機から助けられたり、政略結婚されそうなところを攫って行ってくれたり…。いいなあ、私にも救ってくれるヒーローが現れないかなぁなんて思ってたりして。私もパーリラもそういう夢見がちなところあるね。救われるのは主役級だったり脇役だったり、その演目によって異なるけど、一番目立つ役じゃないことが多い。だから、私は主役を諦めても悔しくないのかもね」
話しぶりを見るにどうやら本当に演技性ケンランが好きで、演技性選手を目指すのは自分の夢のためらしい。
「そうそう、不幸な主人公が救われていく話も沢山あるじゃんと言うだろうけど、大抵その主人公は人を救う立場でもあるからね」
「ああ、確かに…そうですね」
リベンは補足に相槌を打ちながら思考を整理した。
「先輩が演技性選手志望だとよく分かりました。ありがとうございます」
「こちらこそ。初心を思い出すいい切っ掛けになったよ。ありがとう」
2人はお茶を飲んで一息つき、椅子に深く座り直した。
「次に移りますが、パーリラは母に親らしいことをしてもらってないが親の立場を利用するようでしたが、先輩から見てもそうでしたか?」
「そうね…。エジンさんは生活費は出すし、時々家に来て交流するから親らしいことしてないわけじゃないと思うけど…あの子には足りなかったかもしれない。一緒に遊ぼうとしても忙しいからすぐに行ってしまったり、またすぐに会う約束はできなかったり、誕生日はプレゼントは贈られるけど会うことはできなかったり…段々と期待しなくなっていった」
「成程…」
俺にはよく分からないが、人から聞いた話では出張で中々帰って来ない親を持つ子の話がそんな感じだった。しかし、親が帰って来ると子は喜ぶし仲は険悪ということも無かった。他に何かあるのか?
「殴る蹴る、暴言を吐くなどは無かったのですか?」
「そういったことは無かったと思う。そもそもあまり会ってないから、どこまで大丈夫か分からず手探りのぎこちなさを感じたもの」
「先輩の知らないところでという可能性は?」
「可能性は低いと思うよ。あの子は私を頼って何でも喋るもの。何かあったら私に喋るし、仮に喋らなくてもすぐそばにいた私は気づいたと思う」
「じゃあ不仲の原因を聞いていますか?」
「それはリベン君があの子から聞いた通り、親らしいことをしてもらってないが親の立場を利用することに腹を立てているからだと」
「そうですか…」
怒らせる更に別の理由があるわけではなく、交流が足りないことによるものか。他の人から聞いた話と似たような話と思っていたが、頻度や濃度が違うのだろう。パーリラはエジンに愛されていないと感じているようだが、それは事実だろうか。
「エジンさんからパーリラへの愛情はあると思いますか?」
「正直に言うと、無いわけではないけど希薄な感じがした。でも不器用なだけかもしれない。あの親子は素直になれない性格だから、本当は愛情深いかもしれない。でもやっぱり私がそう信じたいだけかも」
先輩から見ても愛情が希薄に見えたか。事実なのかもしれないな。さてとどうしたものか…。
「貴重なお話ありがとうございました。理解が進みました」
「これからもあの子の力になってあげて」
「ええ、もちろん」
「それから私はこれでもあなたたちよりお姉さんだから、困ったこと聞きたいことがあったらどんどん頼ってね」
アペソンは頼り甲斐がある姿を見せようと余裕のある笑みを見せた。彼女は元々頼られること、甘えられることが好きな性分である。
「はい、その時はお世話になります」
アペソンはにっこりと笑って頷いた。
その後、解散して2人はそれぞれ男子寮と女子寮へと別れて自分の部屋に帰っていった。そしてリベンは自室のベッドに仰向けになり、頭の中で情報を整理した。
パーリラとエジンの不仲は簡単には解決しなさそうだ。それも程々の距離を取っていて問題になっていないようだから、何事もなければ続きそうだ。アペソン先輩も仲直りさせようとしているわけではなく、自然な成り行きにまかせている。それでいいのかもしれないな。
話をした印象としてはパーリラからエジンの話を聞き出すのは期待できないが、アペソン先輩からは聞き出せる可能性があるな。
ただ、パーリラに殺す気なのではないかと疑われたばかりの今、エジンの行動パターンを聞こうものなら、やっぱり暗殺タイミングを狙っていると思われる可能性がある。もう少し間を置くべきだろう。パーリラは先輩を頼って何でも喋るようだから、急いでは2人に疑われかねない。
それにしてもパーリラもアペソン先輩も親の期待を気にしていないようですごいな。いや、パーリラは期待をわざと裏切ろうとしている節がある。そういう意味では気にしているか。本当に競技性選手になれたら反抗心だけで虚しく感じてしまわないだろうか。…きっかけが反抗心だったとしてもその頃には様々な思いや人々の期待を背負っていて虚しさはほとんど感じないかもしれない。
家業を継ぐ気のメランドはどうなのだろう。多分期待に応えるためだよな。でも嫌々ではなく自分がやりたいからといった様子だった。今度聞いてみよう。
とりあえず少し間を置く必要があるから復讐は一時中断だ。
リベンは起き上がって大きく伸びをした。使命から一時離れることを決めて軽やかな気分となった。一時中断の決定には彼自身は感情の入らない損得で考えているつもりだったが、深層の部分ではアペソンの考えやパーリラの態度が影響していた。




