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サイドB-62 マーマンたちの誤算

「まさか異国のマルティ殿からおにぎりをいただけるとは...いやしかしうまいですな、このお米」

「ええ、『つや姫』という品種のお米で、口ほどけがよいのが特徴です。具材ともよく合うんですよ」

「なるほど。この中の魚の身をほぐしてマーヨネで味付けされているの合いますね」

「その通りです。この国にもマヨネーズがあるんですね」

「マーヨネの事ですか?呼び方は違いますが、この味はそうだと思いますよ」


3つ目の設置場所での作業を終えて、少し移動しての空き地で昼食をマルティたちはとっていた。

装置のすぐそばでの昼食は、ディー・エッグFのステルス機能でみえないものの、臭いは消せないのでそれでマーマンたちが近づいてくるとも限らないからのと警戒からだ。


マルティはこの国にはお米があるとカロン王子から聞いていたので、トクマもおにぎりなら抵抗ないだろうと、作り置きをストレージからだしてふるまっていた。

それだけではちょっと物足りない食べ盛りのメンバー、とくにカエデ・ツバキのためにも、鶏肉によく似ているといわれるブラッディ・サーペントの唐揚げもつけ添えている。


「それにしても驚きだ。魔道障壁装置の修理もできてしまうんですね。対応可能なのは魔力炉だけとうかがっていたんで。以前にも作られた事があるんですか?」

「ま、まあそんな感じです...」


トクマが言っているのは、2つ目と3つ目の修理作業のことだ。

その両方ともたんなる故障ではなく、マーマンたちの襲撃をうけての徹底した破壊に対する修復だった。

マルティは、これに対してはあいまいな相槌しかうてないでいた。

というのも..


(やっぱり無断で『構造解析』したことがばれちゃ、さすがに姫様も怒るよな...)


そぶりはみせなかったものの、実は最初の装置設置場所の作業の合間に、こっそり魔道障壁装置の『構造解析』を行ってしまっていたのだ。

なので後ろめたさがあるものの、マルティ=北斗にだって言い分はあった。


(だけどあそこでそれをしていたから、そのあとの設置場所で壊れた魔道障壁装置を修理できたんだし...それに最初の設置場所の装置だって、じつは一部壊れかけていて、修理するにはどうしても解析必要だったし...)


実際興味本位ではあったが、装置の一部が熱で変異しかけていたのだ。

その部位に書き込まれてあった魔法式は消えていて、主要回路は動いていたが、全体の出力は少し低下していた。


マルティの『構造解析』をもちいても、喪失している部分までは復元できない。

なのでコピーできたとしても、その消えた部分に関しては本来復元できないのだが、マルティはそれを他の部分の写しで完全に復元してしまっていた。

というのも魔道障壁装置の魔法式の作り方には、見覚えがあったからだ。

おそらくだがこの魔法式を作った人またはグループは、あの4割効率の魔力炉とおなじメンバーだ。

その作り方は、汎用性のある単位をモジュール化して、組み合わせで全体を構成させるやり方だ。

若干のパラメータの違いで似たような部分は、引き継ぐパラメータを変更して使いまわす手法なので、接続されている魔法式から想像してそれらしいモジュールをコピーしてあてはめ、渡すパラメータを2~3回変えたら100パーセントの動作になったというわけだ。


いずれちゃんと動いている魔道障壁装置を再確認しての答え合わせは必要だろうが、まず間違いはないと北斗は確信している。


(でもな、やっぱりこの方式は組込み用としては非効率なんだよな。もっと各パーツを専用に作った方が効率も速度の少ないリソースでできるから、もっと小さい魔法式で作れるだろうし、効率だってもっとあげられるはずだ)


いまは時間がないが、そのうちそういう作業も行ってみようとマルティ=北斗は決心するのだった。


「それにしてもマーマンの破壊はひどかったね。同じようにゴーレムを配置したんで襲撃されても問題ないとは思うんだけど、彼らまだこの大陸にいるのかな」

「その可能性はあると思います。なのでマルティさんの対応は、まあ過剰防衛ぽい気もしますけど...必要です」


若干最後がディスっているサーフライト姉妹が交わしている会話が聞こえてきたマルティは、そうなんだよな、と心で相槌をうつ。


「なあ、道中それらしい気配を感じなかった?」

「いや、それなりには警戒していたんだが、とくには」

「うちも同じにゃ」


察知スキルのレベルがマルティよりも高い傍らにいるカスミ、ミヤビ、マツリに問いかける。

マルティの言っているのは、マーマンたちの事だと即座に察したカスミ、ミヤビは明確に答えた。

マツリは唐揚げを食べるのに夢中で、答えは返ってこない。


「やっぱりね。僕の方でもクラウドの端末を広く展開させながら移動していたんだけど、魔物や魔獣以外察知しなかったし...」


マルティが言っているのは、クラウドの周辺索敵用端末のことだ。

直系1ミリメートルの球体一つ一つが浮遊・索敵が可能で、その範囲はクラウドを中心に範囲10キロメートルにも及ぶ。

クラウドの本体に100万機内蔵しているうちの30万機とやや多めの数を進行方向にむけて展開しながらの移動をしていたのだけど、それらしい影は今のところ察知できていない。


「先日の37人で全部だったのかな?」

「ちょっと思ったんだけど、陸の森の中にはいないんじゃない?彼らは海で生活してるんでしょ?ならば潜んでいるのも海の中とおもったほうがいいような気もする。ほら、魔道障壁の守る範囲も1キロは海が含まれているし」


カスミの推論は、いわれてみればそうだとマルティ=北斗も納得する。


「だとしたら、海の中も探索させないとだけど、さすがにこの速度で移動しながらでは無理かな」


クラウドの端末は海の中でも索敵が可能だが、水圧の高い深海ではやはり移動速度が遅くなってしまうので、検索範囲の距離オーバーでロストしてしまう。


「まあ、これだけ気配がないんだから、のこっていても前回の襲撃ほどの規模はないんじゃない?少数ならあれだけの戦力を護衛として配置してるんだから、そうそう突破はできないだろうし」

「そう願いたいけどね。ぼくらができるのは、ひたすら修理と拠点防衛力の配備かな」


★★★


「ハフ、大変だ。障壁が復活していたぞ」

「なに、本当か?」


本国に伝令に行ったはずのホロが、スクーターのエンジンが収まるのも待たず降りて、慌てた様子で報告をする。


「一昨日みたときにはなかったが、今日は完全にふさがれていた」

「ヒューマンどもに修理されてしまったか...」


そこはカスミの予想通り、海の中であった。

海岸線から600メートルほど離れた海流の流れの少ない窪地に、彼らはいた。

彼らは3人で、ここから50キロほどの先にあるマーマンの国の軍人であった。


事は半年前にさかのぼる。

ヒューマンの国の海岸線より遠いところに、魔法による防御壁が広範囲作られているのは、以前よりマーマンの国でも認識できていた。

もちろん壁をたどっていけば途切れる端も認識してはいたのだが、それは彼らの主要都市からは大きく離れており、陸上の移動が苦手な彼らとしては、主要都市にちかい防壁が途切れる部分を探り続けてきた。


その努力あってか、一部急に壁が欠損している部分が見つかった。

それ以前に、そこにも壁が存在していたことから、その壁を作る装置が破損したと想定し、すぐにそこから侵入してまずはその装置を探し出して壊すことを決定する。


皇帝のトップダウン命令が早かったため、決定から半月で20人のマーマン部隊が結成され、数か月で障壁装置5ヶ所の破壊が実行された。

破壊する過程でだいたい10キロメートル単位でそれが設置されているのがわかったので、次の装置を壊そうと試みたのだが、ヒューマン側もマーマンたちの動きに気が付いたのか、守備隊がその装置の設置場所に配備され始めた。


各拠点に20人ずつの配備で、さすがに同数での強襲は陸上という不利も含めて断念したが、相当するの兵が配備されていたため、その出所である都市は手薄になったのではと判断し、国から強襲艦1隻が派遣され小都市を襲ったのがつい先日だ。

その目論見は、予想通りで都市からの反撃もすくなく打撃をあたえられそうであった。


もとより占領まで可能な戦力ではないことはわかっていたので、反応をみるという点では成功したものの、思いのほか小都市からの反撃がなかったので、城門やぶりまで敢行仕様とした際に、それらは現れた。

周辺監視として背後に仲間4人と控えていたハフは、二つの影を強襲艦の側でみつけた。

それはとっかかりのない艦の側面をすいすいと上り甲板に消え、それ以降艦が沈黙してしまった。


しばらくすると同族と思われるマーマンたちが艦のそばに並べられ、あろうことか艦が突然消失した。

唖然としたハフたちではあったが、このままそこにいてもなにもできないことを悟り、早々にその場を離れた。

この事態を国に知らせる必要があるため、自分たちは捕まるわけにはいかなかった。


拠点にしているスクーターがある窪地まで戻ってきた彼らは、早速一人を本国につかいにやる。

海中ではそれなりに速く泳いで移動できる彼らだが、よりはやく移動でき体力を消耗しないという点で水中スクーターを利用しており、それを使えばよほどのことがない限り1時間半もとばせば本国へ到達できる。


本国からの連絡をまつ彼らであったが、それが1週間経っても何の応答もない。

どんなに遅くても伝令だけであれば2~3日でそれがないのがおかしい。

そこでホロを追加で本国に伝令に出したのだが、それが半時もせず返ってきて、先ほどの報告となる。


「本国司令部からの伝令がこないんじゃなくて、障壁で来れなくなったんだ」

「どうする、ハフ」


ホロとヘレが慌てたように問う。

ハフことハフ・ガーは同僚と位は同じだが、一応ここの場所でのリーダーとなっている。

強襲隊がつかまって、かつ障壁に退路を絶たれたいまとなっては、彼の判断がここの方針だ。


「ここら一帯の障壁は破壊してあるはずだ。壁に沿って移動して確認したか?」

「...それは、おもい浮かばなかった。だが、やってはみるのはよいが、同じことを帰ってきた伝令も考えたのではないか?」


たしかにそれはそうだ、とハフは思う。

そういう場所があれば本国からの伝令たちがすでにここにたどり着いて、その事実を報告しているはずである。


「...よし、以前破壊した装置をもう一度壊そう」


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