サイドB-59 九州地方かよ
「ここが王都ネオハカタです。そして私たちが今いるのがここカラツシティになります」
ネネ王女の説明する地図は、日本の九州地方の都市名とまったく符合する。
そのほかの都市は地理が苦手だった北斗でもわかるものが多く、位置する場所もだいたい同じと来ている。
キタキューシュ、クルメ、ヤメ、サセボ、ナガサキ、オオイタ等々。
「そしてこのハカタシティの南50キロメートル以内に、あの魚人たちの王国があることがわかっています」
ネネ王女はなにか苦いことでも話すように、ネオハカタの南の海の一帯を指先で円を描く。
「具体的な場所はわかっておりません。ですが建国当時からその国とのいさかいがあったのは事実です。あちらの国のほうが先にあったので、あとからきた私たちが疎まれるようになりました」
大きな問題は漁業領域であろうと思われた。
この海域は暖流と寒流がぶつかりあうまれな海域で、漁場としては珍しく多種の魚がとれた。
それがかぶってしまったのが諍いの一番大きな原因と考えられた。
争いといっても戦争ではなく、こちらの魚船を沈められたり、海岸近くの街を襲撃されたりと一方的な侵入であった。
サーマルス・ロード王国側でも何度か平和的解決をと交渉を試みたものの、相手側の敵視は留まらずそこまでに至らなかった。
「そこで出口の見えない抗争をやめるべく、海岸線から1キロメートル付近にマジックシールドによる網状の防御壁を大陸南全域にかけたのです」
と、地図の南全域を指でなぞる。
それは日本でいえば北九州の瀬戸内側から、長崎の佐世保あたりまでをぐるりと取り囲んでいた。
「これは、すごい魔法壁ですね。想像もつかないくらい。防御壁はたぶんですけど海底から空まで続いてるんですよね?」
「いえ、さすがにこれほどの範囲ですのでそこまでは...水上は10メートル程度しかありません」
「それを支えているのが、例の魔力炉なんですね。ですけどおかしいですね。それほど大事な防御壁なら、メンテナンスは怠らないと思うのですが、それが急にどうしてこの時期に重なってしまったんでしょう」
「それはですな、王都からの指令でいままでの交換期間を、1年以上できる限り延ばすようにという通達のためです」
ここで男爵が代わりに説明する。
「その通達があったのが1年前です。なんでも定期交換用の魔力炉の補充がちょっと滞ってしまうため、続命あるまでこれまで3年で交換してきたそれを、最低1年、できれば動く間は交換はしないようにとの通達でした。もちろんわれらもその命をうけ、定期的に魔力炉の状態を監視はしておりました。ただ最高出力で使っている魔力炉は前触れもなく止まってしまうこともありますので、毎日点検していても止まってしまっては交換までに複数日空白期間ができてしまうわけでして、そういうのとたまたまここらで使っている魔力炉の寿命がほぼ同じ時期に複数台止まってしまったのが重なって、今回のようなスキをつかれたものと...」
「そうですか...それは運が悪かったのと相手の監視が優秀だったと言わざるをえませんね...。それにしてもそこまで制限してしまうと、せっかくの漁場がフルで使えないだけでなく、海流の妨げになってしまうのでは...おいしく多種のお魚がとれなくなって、痛手でしたろうね」
「ま、まあそうですな。ただ南側はあきらめるとしても、オオイタ・クマモトあたりの漁場もそれなりに豊富で、それなりに食をみたせる部分はありますので...」
不憫に思う点が少々的外れなマルティにも、男爵は説明を丁寧に続けた。
「それはそれで分かりましたが、なぜ正規兵がいまはほとんどいないのですか?」
「先ほど稼働している魔力炉が襲われていることをお話ししましたが、それはとりもなおさず今動いている魔力炉が襲われる可能性があることを示しています。ゆえにこの都市に近い主要な残っている魔力炉を護衛させるために、出陣させているからです。主要なものだけでも10箇所ありますので、それぞれに20人ずつ計200名が防御に出てしまっているからです」
ファビオ男爵の判断は間違いない。
ただこの都市が直接攻められる可能性を低く見積もりすぎていたというだけだ。
「わかりました。ちなみにその補充用の魔力炉はいつ届く予定ですか?交換非推奨令はあっても、足りない場合は申請できるようになっていたと思いますが」
「それはそうなんですが、その....要請のための使者を5人ほど送っているのですが、行ったきりでなんの反応もないのです。使者も返ってこず、状況が分からず困っております」
「なっ、それは本当ですか?」
これ以上供給できないという返事があればなんとなく状況は理解できるが、使者が返ってこないというのはおかしな話だ。
「本当です。ここから王都までは馬車で早ければ3日の距離です。一週間もあればなにかしらの情報を持って帰ってきてもおかしくないのですが、返ってきません。これは..」
「使者を5人送ってかえってこないとなると、王都でなにか起きたと思うのが普通ですね。ネネ様、提案よいですか?」
マルティが男爵の言葉尻をとって、続けた。
その傍若無人さにマルティの背後のにいるカエデとツバキがあせって、マルティにちょっとあんたと声をかける。
「どうぞ、お願いします」
「目の前の課題は二つあります。ひとつはこの町の防衛の強化。もうひとつは王都の様子を見に行くことです」
「それは、そうですね。で提案とは?」
「まずこの都市周辺の魔法壁を作っている魔力炉および魔法障壁装置の修復とメンテナンスをすべて僕が短期間で行います。そうすれば当面この地域の安全は保たれ、この都市在留の正規兵たちが戻ってこれることになります」
「そうですね。そうしていただけるとありがたいです。で、もう一つは?」
「それが終わったら、私どもですぐさま王都に向かいます。僕の馬車なら半日あればつくと思いますので。それで王都にもどりネネ様たちに状況を確認してもらいます。あと可能性なのですがここと同じように王都が魚人たちに攻められていた場合、魔法壁の装置を修理しつつ、できる範囲で撃退にご協力いたします」
「ありがとうございます。ご提案がなくても、私もお願いをするつもりでした」
「ネネ王女殿下、それは、この青年に可能なことなのですか?」
マルティの提案にファビオ男爵が驚いて声を上げる。
かれも王族から退いたとはいえ、元王族の一端を担っていただけあって魔力炉の事はよく知っている。
それが門階不出で、かつ高位の魔道士でしか付与できないことを。
「可能です。それも恐ろしいくらい確実に。細かい事情は話せませんが彼には魔力炉の解析を依頼して、それがなされています。また錬金によりそれを再現するのも見せていただいてます。問題はありません」
ネネ王女はきっぱりと宣言し、側面に立つ双子の弟もそれを証明するかのように力強く男爵に向かってうなづく。
「し、信じられませんが、王女殿下がそこまで言い切るのであれば、事実なのでしょうな....マルティ殿、なにとぞよろしくお願いします」
本来であれば出所の分からない冒険者に男爵といえども上から依頼はすることはあってもお願いするなどはあまり例がない。
状況的に男爵に危機的状況に追い込まれているのもあるだろうが、ネネ王女たちのマルティに対する態度によるものが大きかったといえる。
「はい、任されました。ところでネネ様、僕は冒険者です。タダで仕事をするわけにいきません」
「それはそうですね」
この言葉で先ほどの態度とはうってかわって、男爵がマルティにカチンとくる。
いわく冒険者風情に足元を見られたと、ここにきて貴族のプライドが復活してしまう。
「おい、調子にのるんじゃ...」
「ファビオ男爵、よいのです。かれらも命をかけて行ってくれるのですから、当然です。で報酬はいかほどに?」
いきり立ちそうな男爵をやんわりとネネ王女が制止し、マルティに先をいわせる。
「ありがとうございます、ネネ様。報酬といっても金銭的なものではありません。要望は二つです」
「聞きましょう」
「ひとつめは、この国への『カメヤマシャチュウ』商会の店舗出店の許可をください。それも特別待遇で売り上げ利益の税金をいまこの国で商家からとっている半額に3年間限定で行うこと」
「税金については女王や宰相にお願いが必要で確約は難しいですが、出店についてはこちらの利益にもなります。私がなんとかいたしましょう。もう一つとは?」
「簡単です。僕たちに報奨として爵位やこの国の土地を絶対にあたえないこと。かわりに客人としてどこでも通用するこの国の身分証明書をメンバー全員に与えることです」
「そのようなことで良いのですか?」
どちらも報奨と呼べるものではないことが、ネネ王女には引っかかったが、マルティはこれに力強くうなづいた。
「ほんとうです。特に二つ目は確実にお願いしますよ」
北斗の本気の願いであった。
この国が外部から隔絶されているとはいえ、面倒な爵位にはつかないこと、領地を管理するようなことは絶対にさけるという、今まで守ってきた絶対方針であった。
マルティたちの実力をまだすべて把握していなかったのでしょうがないが、この件はあとで王宮を非常になやませる事となる。




