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サイドB-58 マーマンの襲撃

甲板には3つの大弓らしき形状ののものと、それを取り巻くように動いている7体の生物がいた。

北斗にはなじみがなかったのだが、それはバリスタと呼ばれる大弓装置で、中世で主に攻城兵器としてよく使われているものだった。

それぞれの取り付けられた防御壁のうらで、ひとつの大弓に二人がはりついて、弓引きや装填、さらには火矢の先端点灯などを行っていた。

一体は背後のこれまた弓除けの後ろで、それぞれに指示を出しているみたいだった。

武装の重装さからして、弓引きのそれにくらべて背後の人物は、上位指令者であることが一目瞭然だ。


人というか、全身鱗におおわれたそれは、北斗の記憶ではひとつの種族にすぐに思い至る。

海を住処とする獣人?のマーマンである。


「魚にゃ」


マツリは初めて見るマーマンに、若干とまどっているが、すぐに行動に移す。

マツリのひと動作でいましも発射されそうなバリスタが、粉々に砕け散る。

お得意の次元斬である。


マルティも魔糸をもちいて、マーマンたちの足首手首、さらにはそれほ連結してくの字にして転がしていく。

魔物を退治するのはこの世界にきて慣れたがさすがに対人、この場合対マーマンのようなヒューマノイドを殺傷するのには、現代人である北斗にとってはきつく、そのような対応となる。


甲板は一瞬で制覇され、火矢の砲撃がやんだ。

聞こえるのはマーマンたちの怨嗟の叫びだけとなった。


「続けていくぞ」


マルティは甲板から船内に続くとびらをあけて、中に飛び込む。

二人ともパッシブスキルの索敵が働いているので、船内にあと30体ぐらいのマーマンがひそんでいるのはわかっている。

敵中に飛び込むのに躊躇はどちらにもない。

鑑定で相手のステータスが、中級魔物並み程度しかないのが確認できていたからだ。

ただステータスの差に物をいわせても制覇できるだろうが、そうするととっさの出会いに必要以上に力を込めてしまって、相手をケガさせてしまう可能性を考慮して、隠形スキルで気配を絶ちつつ内部にすすんでいく。


(まるで潜水艦の内部だな)


棒線状の機体内部は通路がせまく、厚い壁で区画がこまかく分断されていた。

この機体がマーマンが活用しているものであれば、陸上だけでなくおそらく水の中も進めるであろうことが、理由と考えられた。

深度が深い水圧に耐えうるには、自然こういう構造になってしまうのだろうと、北斗は想定した。


ひとつ大きな違いがあるとすれば、通路はすべて水浸しである事だろう。

いまは重量をそぐために水を排出しているのだろうが、エラ呼吸のできる彼らにしてみれば、水の中での活動が有利なはずで、かつ呼吸のためにも水を外部と循環させる必要がある。


肺呼吸だけの生物とは異なり、潜水艦を作ったとしても酸素供給システムが必要ないのは便利だ。

浮上に空気は必要かもしれないが、それも魔法でなんとかなる話だった。


船内の制覇もそれほど時間がかからなかった。

攻撃が止まったのを確認に上がってくる船員マーマンに対して、マツリが体術でいなしてマルティが魔糸で縛るの連携技で淡々と進んだ。

最後の棒線状体の制御室と思われるところで、マツリの縦横2倍はあろうひときわいかついマーマンがいたが、こがらもマツリにかるく投げとばされて壁いっぱいの制御機械に激突し、気を失った。


マツリもミヤビと同じ体術スキル、『秘拳「月夜見闇透拳」(皆伝)』なのだ。

本来団体との交戦に役立つそれは、1対1の攻防にもなんら遜色なかった。

マルティとマツリはしばりつけたマーマン37体を、船外に運び出した。


「なんだ、もう終わったにゃ」


ミヤビが短距離転移にて、ひと段落ついたマルティたちの場所まで飛んできた。


「ああ、思ったほどの部隊ではなかったんで。マツリ悪いけどこのユニットタイプの機体ストレージにいれといて。生きてる生物は全部運び出したんで、たぶん入ると思う」


マツリはこくんとうなづくと、次の瞬間大きな船体がかき消すように消えた。

これには悪態をついていたマーマンたちも、ぎょっとして一瞬静かになる。


「げっ、なんにゃこいつら?さかなきゃ?」

「マーフォークとよばれる人魚族だと思う。海と陸両方で生活可能だけど、基本海で過ごすタイプの獣人、かな」


ミヤビもはじめてみた魚人にたいし、やや困惑の表情をうかべる。


「でも人魚みたいに足がしっぽじゃないにゃ」

「たぶんだけど、地上で活動しやすいように魔法で足に変化させているんだと思う。そういうことができるという伝承(北斗が知っているのはゲームシステムの中での話だが)もみたことあるし」

「ふーん。で、こいつらどうするにゃ?」

「うーん、どうしよう」


街が攻められていたためあわてて対応したマルティだったが、いざ事態を納めてみると40体ちかい彼らはどうしてよいものか、持てあましてしまう。


「とりあえずネネ様に聞いてみるか。彼らのことと戦闘していたことに、なにか心当たりがあるかもしれないんで」


ミヤビは了解とばかり馬車のところまでもどって、馬車ごと移動してきた。


「なんと...まさか」


マーマンたちを見た王女たちは絶句する。


「彼らをご存じみたいですね」

「...はい。ですが先ほどのような乗り物まで用意して、海から近いとはいえ戦を仕掛けてくるとは...」


それ以上王女は言葉を続けず、黙ってしまう。

そのタイミングで、攻撃がやんで倒れているマーマンを前に話をしている人物たちを遠目に見て、警戒しながらもでてきた街の衛兵たちがマルティ達と合流した。


★★★


「ネネ様ほんとうに助かりました。ありがとうございます」


街を統括する領主の館に案内され、開口一番に領主から出た言葉がそれであった。


「お久しぶりです、ファビオ男爵。タイミングがよかったとはいえ、ご協力出来てなによりです」

「いえほんとうに。それにしてもネネ様の護衛の方々ですか?いや本当にお強い。さすがは次期王女のお声が高いネネ様ですな」

「そのような夜迷い事、口さがない連中がうわしているだけです。それにこの方たちは護衛ではありません」


と背後のマルティたちを紹介する。


「こちらはノースランド連邦で活動されている冒険者の方たちです。ゆえあって今回王国に協力いただいております」

「おお、これがかの噂に上がる冒険者ですか」


ファビオと呼ばれた男爵は、マルティたちを珍し気にながめる。

獣人がまざっていることといい、女性メンバーもいることから、正規のへ近衛兵ではないことは一目瞭然だ。


「マルティさん、こちらはこの都市、カラツシティの領主のファビオ男爵です。私たちとは遠縁にあたる方です」

「初めまして、マルティといいます」


紹介されたマルティは、ネネ達の背後に少し離れてお辞儀をする。

マツリを除くメンバーはマルティのお辞儀を真似して、慌てて頭をさげる。

ミヤビはそういう思考ができているのか、マルティとほぼ同時に頭を下げていた。


距離をとっていたのは、北斗が貴族制度がよくわからないからだ。

ふつうなら握手の一つもするのかもしれないが、日本の制度がこの国にもあって無礼打ちなんかされようなら、ややこしくなるからである。

ネネ王女やカロン王子は一応距離近く接してくれているが、他の貴族や王族がそうとは限らない。

が、このファビオ男爵というのはそこまで気難しくないらしく、マルティのところまで進んでくれて握手をもとめた。


「いやほんとうに助かりました。ありがとう。あのまま押し切られれば、被害は家の4~5軒ではすまなかったでしょう」


ほんとうに感謝しているらしく、眼が真摯なひかりをともしていた。


「それなのですがファビオ殿、この都市には衛兵とある程度の部隊が駐留していたはずですが。たしかにあの戦車は強力そうでしたが、あの程度の数ならなんとかなったのではないですか?」


この言葉にファビオは苦い顔をする。


「おっしゃる通り、通常であればあの程度の部隊は押し切れたのでしょうが...いまこのカラツシティにはほとんど正規の軍隊がいません。町人の衛兵が数人の指揮官に従っているだけでして...」


ファビオ男爵の説明はこうであった。

半年ぐらい前から、魚人をちらほら目撃されるようになった。

不思議に思い、この国の海に対するセーフティネットの魔法壁が機能しているか確認しに海岸の施設にやったところ、魔力炉が数か所でこと切れていることが判明した。


地方都市では交換はできても修理が不可能なため、補用品の魔力炉で交換をしたのだが、それにしても数が足りず、しかも日を追うごとにそれは寿命ではなく施設そのものが破壊されるという事態に陥りだした。


「たぶんですが海から来たやつらが、施設を見つけては壊しまわっているものと思われました。セーフティネットの動力がきれたところを見つけて、そこから侵入しているものと推定されました」


男爵の説明する真実に、ネネ王女一同は黙り込む。

魔力炉の不足がこんなところで弊害を生み出している事実に、自分たちの捜索に時間がかかったことにたいする重みがかわってしまう。


「ちょっといいですか?そのセーフティネットというのは、なんですか?」

「ああ、そうですね。セーフティネットというのは、この国の南側の広範囲に張られているマジックシールドのことです」

「広範囲?」

「ええと、ファビオ男爵。この国の地図はありませんか?」


ネネの要請に対し男爵の指示のもと、地図が持ってこられた。

それを机の上に広げたとき、北斗はまたしても内心でうなる。


(こりゃ、確かにネオハカタと言いたくなるわけだ...)


その地図は北斗にとってとてもよく見覚えのある地図だった。

目の前に広げられた地図にかかれたそれは、九州地方をそっくり時計回りに200度ぐらい回転させたのと、ほぼ同じものだった。

実際の九州とは詳細な海岸線に違いはあるかもしれないが、大方九州地方の地図といってよいものだった。

ネネ王女はそれをもとに説明していく。



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