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サイドB-57 サーマルス・ロード上陸

「陸地が見えたにゃ」


魔道方位器に表示される矢印がだいぶ短くなったため、マルティはセント・ニコラスmkⅡ号の高度を7000メートルから3000メートルにおとし、速度も時速800キロから時速500キロまで落として飛行していた。

それで前方を前方を映し出す前面モニター越しに監視していたのだが、目ざといミヤビが雲の合間にある緑の陸地を発見した。

確かにそりは前方にかすかに見えており、次第に横いっぱいに広がりだしたので、サーマルス・ロード王国の陸地と思われた。


「ネネ様、カロン様、あれがあなたの国と思っていいですか?」

「はい、たぶん方位表示装置の矢印の長さからして間違いないかと」


ネネ王女が少し興奮している。


「しかし、本当に半日で到達できてしまうとは...」


ネネ王女が驚くのも無理はない。

半日どころか飛び始めてまだ6時間程度しか経っていない。

北斗は最大で10000キロメートル飛ぶことを想定していたのだが、実際の距離はノースランド連邦から5000キロメートルぐらいだったらしい。

北斗に海での船の平均的な移動速度が感覚的にわからなかったからの読み違えで、逆算するとネネ王女たちは一日に300キロ程度しか進まないでノースランド連邦へたどり着いたということだ。

まあ、実際は海流の向きや海の状況によって進む速度も一定にはならないだろうし、夜寝る際には船は停泊していただろうからそんなものでもこの世界では早い方なのかもしれなかった。


「あれがどこら辺か私たちでもよくわかりませんが、矢印の残りの長さからして陸地であと数百キロといったところでしょうか。首都の一部は海に面しているので、海岸線沿いに飛べばつくと思います」


カロンが方位表示装置の矢印をみつつ、説明する。

まだ遠いが矢印の指す方向の陸地には都市的なものは見えないので、首都とやらは陸地を越えて反対側なのだろう。


「聞いてませんでしたけど、首都の名前はなんというのですか?」

「ネオハカタです」


ここでマルティ=北斗がずっこけそうになる。


「ハ、ハカタですか?」

「ええ、ネオハカタです。どうかしたのですか?」

「いえ、ノースランド連邦ではないのですが、ぼくの故郷の近くに似たような土地の名前がありまして...」


先ほどとは異なり、こんどはマルティが言葉を濁す。

それ以上追及されると、マルティの出自を根掘り葉掘り聞かれそうだ。


(どういうことだ?サーマルス・ロード王国ではお米が普通に食べられているというし、まるで日本にゆかりのある場所みたいじゃないか?)


北斗の頭の中では、疑念にたいする思考がフル回転でされていた。

以前からあった、この世界に北斗以外の誰かがログインしている、もしくはログインしていた形跡を見つけたような気がしたのだ。


(ただそれだとおかしいよな?たしか最初にもらったスキルポイント3億点は、この世界の登録者第一号とかだったと思ったが...)


ネオアンバー・ソメイユワールドのゲームシステムといったらよいか、最初にもらった特典の表示には確かに最初の登録者と表示されていた。

北斗は何回か別のログイン者のことを疑って、ログも見直してみたがたしかに第1号と書かれていた。


可能性としてはふたつ。

日本と同じような歴史を歩んだ国が、この世界に存在するということ。

ネオアンバー・ソメイユワールドの位置づけが北斗としてはまだ全く分かっていなかったが、たとえばパラレルワールドのひとつであると想定すれば、その仮説も説明できなくもない。


もうひとつは、やはり別の誰か日本人が北斗よりも先にこの世界に来ていて、やり方は異なっても現実世界の知識とおそらく与えられたであろうチート能力を使って、何かしらの勢力を作り出している、もしくは作り出したのだろう。


(だとしたら、それは今よりもずいぶん前ということになる。サーマルス・ロード王国はたしか建国150年といっていたよな...)


もし誰か別の日本人がサーマルス・ロード王国を作り出したとしたら、かれらの過去を知ることで何らかの手がかりがつかめるかもしれないと、北斗は心の中で独り言ちた。


「サーマルス・ロード王国は、街道は整備されていますか?」

「全国土というわけにはいきませんが、王都ネオハカタに通じる街道であれば、大きな道が4方向に整備されています。どうしてですか?」

「いやできたら王都には地上を走る馬車として入りたいので。その、飛ぶ馬車としてはあまり知られたくないので」

「ああ、そういうことですか」


以前に乗った時にもマルティが、空飛ぶ馬車のことはなるべく広めないでほしいと言っていた。

たしかに空を飛んだままの方が王都には早くつけるであろうが、見たことも聞いたこともない空飛ぶ馬車がいきなり現れたら、怪しさ100パーセントだろう。

無難にたどり着くには、引き馬が珍しいゴーレムであろうと地上を走って正門から入るのが常套である。


「ならばやはり海沿いにはしってください。ここら辺が王都の東方向だとすれば、百キロぐらい手前から主要街道が出てくるはずです」

「了解」


カロンの説明に、マルティは陸を斜め切る方向から海岸線沿いに変更する。

陸が近いので誰かに見られる可能性も高くなるので、マルティとしては早くおりたいところだった。

と、ミヤビが声を上げる。


「前、ずっと向こう、煙が上がってるにゃ」

「煙?」


ミヤビの指す方にそれっぽいものが見えなくもないが、いまいちはっきりせず、マルティはモニターをそこだけ拡大させる。


「ほんとうだ。煙が上がってる。しかも相当な火力の煙だ。火事かな?」

「どうしますか?」


ネネ王女も前方に来て、モニターを確認した。


「この国は火事の対処用の職業の方はいらっしゃいますか?」

「はい、水の魔導士がその任にあたることが多いです。ですが...」

「小さい村などには、配備されていない事も多いです。街道が現れていないとなると、結構な地方になるので、そこにはあてにしないしなくて住民が自力で消すしかないかと...」


日本をまねているなら、消防組織ぐらい置いていそうなものだが、まあそんなことも言ってられないので、とりあえず近くまで行くことにする。

何か役に立てるかもしれない。

と、馬車を操作してそちらに近づく。


その町は低いながらも城壁をもっていた。

ここまで近ずくと煙柱もはっきりと認識できた。

海に面した城門らしきところで、何やら人だかりもできていた。

先ほどの小さな村というのはあてはまらないから、消化する部隊はいるのだろうが、あまり変化がないということは、火力が大きいかそれどころではない状態なのか。


「何にゃ、あれは?」


ミヤビがさすところ、城門の外側のところに、何やら魚の形をした大型の乗り物が見えている。

そこから火矢らしきものが都市へと発せられていた。

それが城壁を越えて、街の建物にあたっているらしかった。


「なにかに、街がおそわれている」

「えっ、本当ですか?」


マルティの報告に、ネネ王女が声を上げる。


「相手はわかりませんが、あの船?みたいな乗り物から攻撃を受けているようです。この国の乗り物ですか?」

「いえ、あのような形みたことありません...」


とおびえたようにいいながらも、ネネ王女はなにかを想定しているような顔をしているのを、マルティは見逃さなかった。


「すくなくとも私たちの国の乗り物ではありません」

「わかりました。じゃあ、なんとかしましょう。マツリ」


と、ずっと席で眠りこけているメンバーを呼ぶ。


「ふにゃ、なににゃ。ついたのかにゃ」

「ああ、寝起きで悪いけど仕事だよ。僕と来て。ミヤビは街から少し離れた場所を探して、馬車を地上におろして」

「えっ、うちがいかにゃいのか?」


マルティの決定に居残りを言われて、ミヤビがちょっとおどろく。


「馬車をおろすのは、マツリにさせればいいにゃ」

「そうもいかないよ。この馬車を操作したことあるのは、僕と君だけなんだから。未経験のマツリだとこの馬車が墜落しかねないよ」

「うー、わかったにゃ」


少し楽しそうだと思ったのか、やや不満気味だが、了承する。

本当はマツリ・ミヤビのコンビで行かせることもちらりと思ったのだが、状況が不明で誤った判断であとでいざこざになるのも困るので、マルティ自身が行く必要を感じての決断だ。


「すぐに行くから、面白いことあれば、残しとくにゃ」

「いや、近くには来ても待機だよ。王女たちがいるんだから。カエデ・ツバキも王女たちの護衛に置いていくから、地上におりても距離をとっておくんだよ。マツリ、ぼくといっしょにあの乗り物の後方の森に飛んで」

「了解にゃ。手をとるにゃ」


と、マツリはマルティの手を取って書き消すように消える。

次の瞬間、マルティの指示した場所にマツリの短距離空間転移で二人は現れていた。

目の前数十メートル先にそれはいた。

それは全長数十メートルの棒線状の乗り物だった。

足にキャタピラがついた無限軌道タイプののりものだった。

高さが5メートル程度あり、前方は甲板になっていて、そこから砲撃がされていた。


「けっこうでっかいにゃ」

「よし、とりあえず砲撃をとめよう。甲板からせめる。あっ、多少のダメージはいいけど基本殺しはなし。武器破壊と戦闘不能に指せるぐらいだよ」

「なんにゃ、この寸胴の乗り物を真っ二つにぶった切っちゃいけにゃいのか?」


物騒なことをさらりという。

彼女の持つ次元斬であれば、鉄だろうと鋼だろうとお構いなしにできてしまうところが、こわい。


「だめだ。それだと内部の生物も真っ二つにしてしまう可能性があるから。いくよ」


目の前にぶった切れるものがあるのにと、残念そうにするマツリをともなって、ふたりで甲板まで跳躍する。


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