サイドB-56 パーティメンバー残り二人紹介
「えーと、あなたはつまりホクトの入れ替わり?それともマルティの入れ替わり?」
「マルティからホクトになった姿を見せた時に話したが、私もそれ同様二人とは別人格だ。経験や記憶を共有して思考形態は似ているが、別人と思ってもらっていい。なのでホクトの入れ替わりでもありマルティの入れ替わりでもある」
ミネルバは低い声で淡々と説明する。
基本は北斗というのは変わらないのだがキャラが異なると性格も若干変わるようで、ミネルバはどちらかというと明るい印象のホクトやマルティとちがって、声質やしゃべり方で暗い印象をあたえる。
「そして、もう一人が」
とミネルバの姿が霞のように消え、そして今度は金髪の女性が現れる。
「おなじくおふたりには初めまして。私の名はクリスティーネ。見ての通りのエルフで、白魔法使いよ。治癒と付与魔法もこなせるわ」
姉妹が二の句も告げないでいると、その姿は描き消すように消えて、またマルティの姿にもどる。
以前は入れ替わるときに変身ポーズみたいなのをとっていたが、それがない。
たぶんだが、あれは姉妹にわかりやすいような身振りだったのだろう。
「というわけさ。だからパーティーメンバーは一度に介すことができないのさ。わかってもらえたかな?」
「...ええ、状況はのみこめたわ。その変わる能力には、まだまだ納得できていないけど...」
「その、登録パーティーメンバーは8人というのはわかりましたけど、マルティさん、ほんとうはもっとその..入れ替われる方々は4人でおわりですか?」
飽きれるツバキにたいして、なかなか鋭い突っ込みをツバキがする。
それは北斗のもっている話せない範囲の秘密なので、ドキリとするが顔に出さないようにする。
ここはとぼけるしかない。
「うーん、どうだろう。じつは僕にもわかっていないんだ」
「わからない?」
「そう、この能力なんだけど、ぽっと、ほんとうにいつのまにかホクトに身についた能力で、最初はぼく、つぎにクリスティーネ、最後にミネルバと、いつの間にか増えていたんだ。なので...」
「いつまた何人かが増える可能性もあると?」
「そうんなだよ。こればかりは予測がつかない。でもレベルから言ったらホクトが一番下で、順にクリスティーネ、ミネルバ、僕なんだけど、一番下のホクトがLv.3000を越えているんで、みんな化け物みたいにつよいから、どの個性で冒険しても問題ないんだよね。増えてもなんだかなとは思うけど、増える分にはいいかな」
入れ替わり枠がいつどのくらい増えるかは、この世界の(いればの話だけど)マスターの気まぐれもしくは計画によるため、北斗自身にもわからないので、これだけは本当のことを話している。
ただ、いまのところ4人分のステータスをもっているということは、体力や魔力についても4人分のそれを持っているに等しく、北斗もある意味USRでLv.12000のカスミキャラに匹敵する。
あるキャラが体力や魔力を消費していても、他のキャラにはその影響がなく、入れ替わっている裏ではそれらキャラの回復も並行して行われるので、たとえばホクトキャラがが消耗して魔力が尽きて危機的状況におちいっても、マルティなどの別キャラに入れ替わってしまえば、入れ替わったキャラは体力・魔力満タンですぐに対応でき、かつホクトも裏で体力・魔力が回復できるという算段だ。
「じゃあさ、その時には隠さず増えたことを教えてくれる?」
「も、もちろんそうするさ。それがパーティを組むってことだろうし」
「ふーん、どうだか...約束よ」
なんでこんなに詰め寄られなければならないのかと北斗はげんなりしたが、それを疑わせるほど北斗の能力は異常で、それを自覚していないギャップのせいであった。
そういう意味では北斗もそれをすんなりと受け入れている香澄もまた、ゲーム感覚でこの世界にいる証左であった。
「で、どうするの?サーマルス・ロード行は?同行してくれるの?嫌ならこのダンジョンでエギルの案内で効率よいレベルアップしてもらっていてもいいけど」
話をもとに戻そうとマルティが改めて問い直す。
「...いくわよ。ツバキもいい?」
「うん、おねえちゃんがいいんなら」
あっさりと承諾した。
「あんたみたいな謎だらけの男とパーティ組んでるんだよ。外国に行くことぐらいなによ、それと比べたら不安要素なんて霞みたいなもんよ」
あまり誉め言葉ではないその言葉で、サーマルス・ロード行のメンバーは決定した。
★★★
マルティいわくセント・ニコラス号mkⅡ(マークツー)は、上空7000メートルを時速800キロにて移動していた。
前方に平面上に一瞬発生して3秒後に消えていく魔力壁は、発生すると青白く輝き次第に消えていくため、遠くから見ると尾を引く光の帯のようにみえる。
ただあまりにも高度が高すぎて、地上から見上げても昼間は雲に隠れたり、晴れていても空の色に紛れたりして視認は難しい。
せめて飛行機雲ぐらいの軌跡があれば良いのだろうが、馬車の周りに発生する気流はすべて摩擦係数ゼロの魔法壁によってほとんど空気が素通りしてしまうだけでなく、ジェット機のように雲のもとである水分を含んだ排気ガスがでるわけでもないため、その軌跡は数十メートルと極端に短い。
マルティはサーフライト姉妹にダンジョンを案内する傍ら、新しく得た魔力炉を組み込んでセント・ニコラス号を改良した。
ヘラジカタイプのゴーレム4頭にそれを組み込んだのだが、魔力炉自体の大きさが小さくなってその分原動力である魔石を詰めるスペースが増えただけでなく、効率も4倍以上になっているため、同じ速度で飛ぶ場合には航続距離が前回の1頭あたり3000キロの4頭で12000キロから、8倍の96000キロと地球なら1周を軽く超えてしまえる航続距離を獲得していた。
ただせっかくなので、消費量が3割程度多くなるが速度も最大で2倍の時速1000キロまであげれるようにゴーレムたちを改良した。
10頭だてにしているのは、そのうち4頭は従来の旧式魔力炉を積んだものを配置しているからだ。
いくらマルティでも初めてのものでぶっつけ本番の長距離に使う度胸はなく、もしもの場合のバックアップ用に、実績のあるゴーレムも配置している。
旧来の魔力炉でもふつうの速度で飛べば12000キロと、サーマルス・ロードまでの想定片道10000キロを制覇できると考えたためだ。
そこら辺は用心深いマルティの性格を表しているのだったが、2時間ほど飛んでいるが最大速度ではないものの出力も安定していて全くアブなかしくなく飛んでいた。
想定通り8000~10000キロの飛行であれば、王女たちに約束したように半日でサーマルス・ロードの地は踏めることだろう。
「大丈夫?」
新しい魔力炉を使っていることをあらかじめ伝えられていたので、カエデが心配して声をかける。
「ああ、今のところ何の問題も発生してないよ。これでも魔力炉の80パーセントぐらいの負荷だしね。高空なんで外気が寒い分、魔力炉から余剰に放出される熱も冷やされて熱暴走の心配もないよ」
「熱暴走?なんかわからないけど、まああんたがいうんだったら大丈夫何だろうけど,,,。それよりもこの下、ずっと海なんでしょ?同じような景色ばかりでちゃんとただしくサーマルス・ロード王国に向かって進んでいるってわかるの?」
「ああ、そうだね。人間の感覚ではどちらに向かっているかはわからなくなるよね。でもそれも問題ない。ネネ様に方向のわかる魔道具をかりたから」
とマルティのわきに置いてあるこぶし大の半球状の物体をさす。
球状の表面はガラスのような光沢の黒体で、その中心に三角状の物体が数本浮くようにして記されている。
そのひとつの三角の先端、矢印はセント・ニコラスmkⅡ号の進行方向をさしていた。
三角の矢印は、全長がマルティたちがノースランドを飛び立った時より全体的に短くなっている。
「これはわれわれサーマルス・ロード王国の方向を指しています。より厳密にはサーマルス・ロードの王都を。矢印の長さはそこまでのだいたいの距離をあらわしていて、近いほど短くなっていきます」
背後からカロン王子が補足するように説明をした。
マルティが聞いたところによると、これはこの表示装置に呼応する魔道具がサーマルス・ロードの人間か訪れた土地に設置されていて、その設置された装置の方向を示すようになっているらしいのだ。
その一つがサーマルス・ロード王国の首都に設置されているということだ。
北斗は最初この魔道具を見たとき、現実世界での羅針盤のような経度緯度をはかる機器かともおもったが、そうではないらしい。
いわく魔法的な灯台を標的とした方向と距離を示す方位専用の機器なのだ。
ゆえに彼らが訪れたことのない、目印の魔道具が設置されてない土地には、この機械は反応しない。
矢印が数本浮かんでいるのは、その訪問して魔道具を設置した彼らからして海外の土地が数か所あるということになる。
数本あるうちのひとつはいま向かっている方向とは全く逆で、こちらはどんどん長くなっている。
「こちらの矢印が、ノースランド連邦の首都イオニスに近い森に設置されたものに反応しています。ほら真反対でどんどん長くなっているでしょ?昔から私たちもノースランド連邦には数回訪れるものがいまして、それで今回赴いたというわけです。対応できる方がいるかどうかまでは把握できていなかったので、一種の賭けでしたがうまくマルティさんたちに会えてラッキーでした」
「ふーん...あれでもこれ同じ方向に矢印がもう一本あるじゃない?こっちのほうが矢印もどんどん短くなっているから、ノースランド連邦よりも近かったんじゃない?」
とカエデが矢印のひとつをさす。
たしかにもう一本微妙にサーマルス・ロード王国からはずれているが、ほぼ同じ方向にどんどん短くなっている矢印があった。
「ああこれですか...この国は確かに近いですが、国交どころか私たちの国のもので訪れた人間はいません。ただ、必要にかられて目印として魔力の目印を設置しています」
と渋い顔で答えた。
ネネ王女もその説明には似たような顔で黙して、そして二人からはそれ以上の説明はなされなかった。




