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サイドB-55 サーフライト姉妹羊乳をのむ

「あの牛もどき、ジャイアント・アース・カウはね、約1000頭放牧している。魔物とはいえ牛だから気性はやわらかくてね、ダンジョンの魔物だから決められた範囲から脱走もしないんで、飼育は楽だよ。搾乳量も一日約2000リットルだしね、お肉にすれば2~3トンにはなるし、ほんとよい魔物だ。他のと比べると、格段にね」

「他のというと...」

「マルティから牛の他に豚、羊、鶏、ヤギ、馬、ガチョウも飼っていると話したと思うけど...」


エギルは、ぽりぽりと頭を掻きながら説明する。

そのしぐさが、美しいエルフのそれでありながらなんとなくおっさん臭さをだしていて、姉妹は少し親近感がわいた。


他の畜産動物も、基本的にはダンジョンで生成される魔物らしく、豚、羊、ヤギも牛同様巨体であるらしい。

ただ、欠点というか牛にくらべて気性が荒いらしく、集団で特定地域に住まわせていると気が付くと勝手に個体同士で争って、ドロップ品になっていたりするらしい。

特に羊はブラック・インフェルノ・シープという魔物で、巨体に加えて羊特有の湾曲した角が3重に生えており、先端が鋭利で突進力もすごいため、飼っている中では一番獰猛らしい。


なので、他の畜産魔物にくらべて広域を指定しているものの、それでも羊同士で衝突は起きていて、しかも認知できてない範囲での衝突なので、いつのまにかドロップ品の大量の羊毛や羊の肉、乳などがちらばっているなど、日常茶飯事だ。

衝突でいなくなった地域には、自動的に次のがブラック・インフェルノ・シープがリポップするので、踏み荒らされていてしかもこの階層はドロップ品なんかの自動吸収機能がないので、掃除しなくてはという。


「ドロップじゃなくて、生きたまま搾乳したり毛を刈ったりもいるんだけど魔法で眠らせてじゃないとまあ討伐するしかないくらい手が付けられなくてね...」


口ぶりで大変さがわかるようだった。


「あと鶏は魔物とはいえ、サイズは普通の鶏より一回り大きいくらいで、どう猛ではなく卵も普通の鶏よりも多く産んでくれるんだけど、特性がね...」


聞くと生い茂った森の木の上でしか生活せず、寝床も木の上にしか作らないため、卵を回収するのがひと手間だという。

生存する森の位置が決まっているとはいえ、3万羽いる鶏もどきの魔物は固定した巣を作ってくれる個体ばかりでなく、すべてが回収できていないという。


「そうなると、あの巨体牛さんは非常に優秀な家畜なんですね」


ツバキが得心したようにつぶやく。


「そうなんだ。まあ家畜の素材を回収するのは、そういう仕事に特化させたゴーレム達なんで、ルーティン化した今ではそれほどでもないんだけどね。軌道に乗せるまでが、けっこう大変だったよ」


そのあとは歩いてもなんだからと、エギルが出してくれたゴーレム馬車で農園内にいくつか立つ集積所兼休憩所の様な建物に案内され、そこでここでとれる果物をふんだんに使ったパウンドケーキやパフェにプリン、果汁100%のジュースなどをふるまわれた。

机の上にはこの階層の説明用にサンプルとばかり、数十種類の果物や野菜、キノコ類、くわえて1体1体が大人でも抱えられないような魚の類も数種類どんと積まれていた。


「マルティ達にもふるまわれたと思うが、この菓子に使われている卵や乳は100%ここで取れたものだ。とくにとれたての牛乳や羊乳はおいしいぞ」


と、ジュースとは別にそれぞれの乳を冷えたコップに用意してくれた。

ふたりはそれを口にすると目を見張った。


「なに?牛乳ってこんなに濃厚な味だっけ?これがとれたての味?」

「羊乳てはじめてのんだけど、牛乳よりおいしいかも...」

「牛乳はほんとうにとれたてだと菌の心配もあるんで、一応ゆるい浄化魔法で人間に害がないくらいに滅菌してあるけどほぼそのままだし油分も残ってるからそんな味さ。あと羊乳はめったにのまれないけど、じつはこっちの方が人間の胃にやさしかったりもするから、おいしく感じるかもね。そうかおいしいか」


褒められたのがうれしいのか、エギルがウキウキして答える。


「あとこの羊乳のヨーグルトとマンゴーから作ったラッシーもおいしいぞ。いや、そうなると黄金桃ラッシーやあまおうラッシーも外せないか.....」


さらに自分のストレージから備蓄している飲料水を取り出そうとしているエギルを、マルティが止める。


「こらこらエギル、二人の胃袋が水分でパンクしちゃうよ」


エギルといえども中身は北斗なので、彼の悪い癖、自慢の食べ物・飲み物を勧めないではいられない癖でてしまい、歯止めが利かなくなる様子を見かねて、マルティが声掛けする。

エギルも、あっという顔をして、また次の機会にと言葉を濁す。

この世界でエギル自身はあまり外部との接触がないため、外部の人間に会えて暴走しかけたという感じだ。


おなかの具合はともかく、好意からの待遇だったのがわかっているので、エギルの歓待をふたりは好意的に受け入れていた。

もちろん、その多種のラッシーもいつかは飲んでみたいとも思いは残ったが。


「ありがとうございます。さすがにちょっといまは飲めなさそうなんで、またの機会におねがいします」

「うん、ツバキにおなじ。今度おねがいね。でもね、こういうの感謝してる。マルティ達にあってなんというか、最近は食事が生きていくうえで大事だなということを実感している。これまでは食事なんて腹を満たせる量さえあれば、あんまし文句は無かったんだけど、こう連続していろいろ充実した食事をとらせてもらうと、なんかそれだけでも明日の活力につながるというか、そんな風におもってる。ありがとね」


カエデがそれまでのホクトたちの提供してくれているものに対して、素直に感謝を伝えた。


「そういってくれると、こちらもうれしい。ホクトがいったように、我々の食の懐はまだまだ奥が深い。これからも楽しみにしてもらっていいよ。そして末永くよろしく」


それはエギルの最大限の姉妹に対するメンバー受け入れの言葉だった。


「ところでさ、話はかわるけど、今後のこといい?」


一件落着とした雰囲気のところ、マルティが急に話題を変える。


「さっきネネ王女に伝えた通り、彼女たちの国サーマルス・ロードに行こうと思う。滞在期間は相手次第なんで決めていないけど、それほど時間をかけないで行き帰りは可能と思う。というか行きだけで、帰りはミヤビかマツリの転移で帰ってくるつもりなんで、実質時間がかかるのは行きだけなんだけど。どう?」

「どう?って、なにが?」

「いや、君たちも来てくれるのかな?パーティとはいえ国外だから、君たちの意思も聞いておこうと思って」


姉妹は顔を見合わせる。

たしかにこの国を出るのは初めてだ。

アースワンのダンジョンに誘われた時もそうだったが、同じパーティーだからと強制的に同行をせまるでもなく、ちゃんと相談してくれるのはありがたかった。


「どうしようか...たしかに国外は初めてで、少しこわいかも」

「うーん、私はマルティさんたちと一緒なら大丈夫な気もするけど」

「あんたね...」


不安がるカエデに対して、妹のツバキは姉がびっくりするほどあっけらかんとしている。

マルティたちといることで、少し危険に対しての感覚が鈍っているのではと心配するカエデに対して、ツバキは確認を続ける。


「ちなみにメンバーは私たちだけですか?カスミさんは?なんかダンジョンだけでしか活動できないとか言われてましたけど、今回は同行しないんですか?」

「いや、そうでもないかな。たぶんついてきたがると思うんで、外国だし同行できると思うよ。もっとも現地について呼ぶと思うけど。あとはミヤビとマツリかな。クラウドと黒鬼・赤鬼は持っていって現地で展開するし」

「マツリ?」

「おねえちゃん、だぶんあの方だよ」


ツバキはエギルの横に佇む茶ぶちの体毛を持つ猫人をさした。


「ああ、そういえば紹介してなかったね。彼女がマツリといって、ぼくらのパーティメンバーの一人だよ。マツリ」


マルティはマツリをよんで紹介する。


「彼女はマツリ。見た通りの猫人で僕らの登録パーティーメンバーだよ。マツリ、二人はカエデにツバキ。『アンバーチャイルド』パーティに新規登録した方たちだから、覚えてね」

「よ、よろしく」


姉妹が挨拶するも、マツリは無反応だ。

内部には従者憑依で現実世界の猫が入っているので、意思がないわけではなかったが、もともと警戒のつよい動物なのですぐに受け入れられてないだけだ、と北斗は解釈した。


「マツリはいままで別行動をとっていたんだけど、今回のサーマルス・ロード行が決まったときに合流するようにしたんだ」

「そうなのね。ところで、聞いてなかったけど、パーティーにはあと何人登録者がいるのかしら?」


カエデが少しぴりっとした口調で確認する。

聞かないでパーティ登録した自分のせいではあるけど、こうポコポコ知らない人間がでできたのではたまらない。

マルティの口ぶりでまだパーティに別の人間がいそうなので確認する。

それを察したのか、マルティの表情が少し後ろめたいものになる。


「いや、隠してたわけではないんだけどね。混乱しないようにと思って、おいおい話すつもりではいたよ。えーと君たちを除く現登録メンバーは僕と僕の入れ替えであるホクト。ミヤビにマツリ、それとあと二人いる。...その二人は基本的にはカスミのように常には同行できない。条件によっては一緒に同行できるんだけど、ちょっと特殊な条件なんで。というわけで今のギルドに登録しているパーティメンバーは君たちを入れて全部で8人だよ」

「なにその条件て」

「えーと、前に話したと思うけど、僕とホクトは同一の人格で入れ替わりで出たり入ったりできることは覚えているよね」

「ええ、不思議な事なんで忘れるわけないけど」

「そのね、残りの二人は、ホクト、つまり僕の入れ替われる人格なんだ...」


と、描き消すようにマルティの姿がぼやけ、一瞬でマルティよりも長身で黒長髪の頭まですっぽりと灰色のマントをかぶった人間に入れ替わる。

胸に輝く真っ赤なこぶし大の魔石をあしらった、太いワンドを持つ人物だ。


「はじめまして。私は名をミネルバといい職業はサモナーをしている」


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