サイドA-54 ダンジョンを守護する者たち
「対象が消えた。移動手段が説明できるものはいるか?」
「ウズが可能。結界のすぐ外での転移検知。おそらく空間系魔法を利用した移動」
「了承」
アズは口を動かさず仲間でのみ可能な通話方法にて、ウズからの回答を得た。
ウズ自体も、末端の仲間からの検知報告を通話で得ての回答である。
その内情は数百年ぶりに訪れた外界からの訪問客に対し、検知以外の認識はない。
ただ、主人かどうかの問いに答えず立ち去った来訪者に関しては、目的を知りたかった。
主人でなければ聖域を侵すものとみなし、次は撃滅せねばならない。
聖域を守るものとして、この領域を犯そうとするものは、すべて抹殺する内なる絶対命令がある。
アズは浅黒い肌に黒い長髪、碧の瞳をもつ少女の形をもつホムンクルスである。
小柄で身体もほっそりとしており、か弱いイメージしかないが、仲間内では最強の魔力を誇る指導格のホムンクルスであった。
この里のホムンクルスは全部で1200体存在し、その指導格はアズを含めて4体存在する。
アズに等しく浅黒い肌、黒い瞳に黒髪の長身の男性ヒューマンタイプのフィズ。
全身黒色でおおわれた金眼の男性獣人タイプのメズ。
病的な白い肌に青の瞳と長髪をもつ長身の女性エルフタイプのウズ。
この四体で全ホムンクルスを統括している。
アズをのぞくリーダー格3体はそれぞれが特色を持ち、思考形態も異なる。
剣術のフィズ、武術のメズ、魔術のウズとそれぞれが得意分野でそれに寄り添った思考形態をするように製作者、つまり主人に作られている。
対してアズは戦闘術にはその三体すべてにおとるものの、各ステータス値としてはそれら3体を合わせたよりも多くが割振られている。
とくに知能に特化した個体として作られており、三体のリーダーがだす推測や結論を統合して、ホムンクルス全体の方針を決定づける役割を与えられている。
つまりアズの決定した事柄に、部落全体が従うシステムとなっていた。
「主人の回答をせず、立ち去った理由の推測と今後の対応をのべよ」
「主人ではなかった。ゆえに立ち去った。次に訪れるとすれば聖域の侵略が目的の可能性がたかく、引いたのも加勢を引き連れてくる目的のためと考えられる。ゆえにその時点で排除の必要アリと判断」 とフィズ。
「主人ではなかったが、主人の仲間の可能性あり。主人を伴うために一旦引いたと判断する。ゆえに次に訪れた時に他の者がいれば、主人の判断をすべき。そうでなければ排除すべし」 とメズ。
「主人の子孫であったが、われらの数に躊躇してひいたものと判断。次に訪問があれば再度主人の証を問うべき。それで証が記されなければ、排除の必要アリと判断」 とウズ。
三者の回答を念話で得て、思考を開始。
それらの傾向として主人もしくは主人の縁者である可能性が高いと判断。
同時にそうでなかった場合、聖域保護のために追い返すのではなく殲滅の必要性ありとも判断した。
三者への問いからアズが結論を出すまでは、わずか1秒にも満たない間に完了する。
感情や倫理を伴わない思考形態のため、聖域保護の目的がはっきりしている彼らにとっては迷いはない。
このようなことをアズは作られてから1000年以上繰り返してきている。
なぜ?という理由はしらない。
ただ聖域に主人以外の人間を近寄らせないことのためだけに、彼らは存在していた。
アズは彼らの中でも特別製であった。
他の個体は300年程度で朽ち果てるのが通常であった。
リーダー格の3体にしても500年程度が限界で、現時点ではフィズとメズが三代目、ウズが2代目であった。
かれらの寿命は核となっている魔石の寿命に等しく、リーダー格は一般個体にくらべてより大きい魔核を持っているのだった。
アズはその中でも特大の魔核を3つもち、かつ自身で入れ替えも可能な能力を持っていた。
アズはさらに、主人が用意した数万個の魔石をもちいて、寿命で朽ちる個体やもしくは聖域奥から発生する魔物や外界からの脅威に対抗する戦闘で失った個体の追加生成をするスキルを持ち、常にリーダー各3体と一般個体が1200体になるよう保持する管理も行っている。
この生成スキルには、各個体の消滅した記憶や思考を継承できる機能もふくまれており、ゆえに個体消滅にともない再生成したとしても消滅前の個体とまったく同一の生体をつくれる。
そうやってアズはただの一体の特別な個体として、部落の維持をしてきたのだった。
「主人の再来訪をまち、再度問う。結果主人でなかった場合、里から出さず撃滅とする」
その意思決定は、3体のリーダー格だけでなく、里全体のホムンクルスたちに伝わった。
★★★
ホクトはカスミたちが見つけてきたダンジョンと、それを守るように配置されているホムンクルスの集団に再接触するべく、いろいろと準備をした。
まずは彼らの存在や彼らが言う主人とやらが、この世界でなんらかの伝承や風聞がないかファーラーンに限定してではあるが調べた。
こういうことに聡い吟遊詩人などにも聞いてみたりしたが、結果としてはそれらしいものは出てこなかった。
彼らが言う主人とやらはおそらく彼らを作った本人で、すでに他界しているものと思うが、世には出ていない人物かもしくは最初からベルゼ大樹海の奥に引っ込んでいた人物もしくは種族と考えた。
これといった手掛かりがないので、その人物もしくは種族がなぜそのような場所、厳密にはダンジョンのまわりで暮らしていたのかや、そもそもなぜそこをホムンクルスに守らせているかも不明だった。
ダンジョンは攻略する対象でかつ魔物が溢れないように監視する対象であり、とても守るようなものでホクトの感覚としてない。
だがその主人とやらは、戦闘力の高い部隊を作ってでも外界から封印して守る必要があったということなのだ。
ダンジョンが特異なのか、はたまたダンジョンの奥にホクト同様他を寄せつけてはいけない理由があるのかのどちらかと北斗は考えた。
ホムンクルスはホクトの知る限り、会話や思考は可能だが、それは主人のベースの命令を遵守することが前提である。
基本の命令は、ダンジョンに主人以外を通すなというのは想像できるが、それを主人以外で強行しようとした場合にどのような行動を規定されているかが問題となる。
それは追い出せなのか。はたまた撃滅せよなのか。
聞いた範囲でのホムンクルスの能力を聞く限り、後者の可能性が高いような気もした。
気になる点はそれだけではない。
ミヤビたちの次元魔法が封じられていたという事実だ。
ミヤビたちの次元魔法は、この魔法が主流の世界においても稀有な能力だ。
すくなくともいままでそれらを扱える魔法士にホクトはあったことがなく、噂もきかない。
唯一聞いた無い様だと、それはいまは絶滅した魔族の上位種の身使えたと冒険者ギルドにて教えてもらった。
その稀有な能力のみをダンジョンへの侵入を防ぐという目的のためだけに敷設できる能力者とは、いったいどれほど魔法に精通していたのかと思う。
マルティのホムンクルス生成のスキルとくらべても、生成されるホムンクルスの戦闘力は、あちらのほうが上なのだ。
主人とやらが実力が抜きんでている魔法学者もしくは魔法士だったことを、これら事実が物語っていた。
「まあ、しょうがない。今後のことを考えて正面から挑んでみますか」
「力押しするのか?」
あきらめたホクトの言葉に、カスミが怪訝そうに問いかける。
「いや、まずは交渉して、やばそうになったら逃げる。でもねカスミ姉、なんでそこまでして守護してるかは知りたくない?」
「そりゃーまあ、知りたいかな」
「そういうこと。まあ、とにかく万全を期しましょう」
こんかいは相手との繊細な交渉が必要そうだと考え、メンバーはすべて意思のあるキャラとした。
いったんアンバーソメイユワールドからログアウトして、『多重自我憑依』で今空きがある3つすべてに北斗の意識を憑依させてログインする。
一方香澄のヒューマノイドだからできれば倒したくないという意見にも賛成な北斗は、いざという時に相手を傷つけてしまいすぎないように、手加減ができないゴーレム群、クラウド、黒鬼、赤鬼を同行から外す。
人の数は増やすが、それ以外を絞ることで相手の数的優位性を顕著にさせ、油断させると同時に敵意がないことを意思表示する。
そうしてそろえたメンバーが、ホクト、カスミ、ミヤビ、マツリ、クリスティーネ、ミネルバ、ザンバの7人であった。
白魔法士であるクリスティーネは何回か憑依させたこともあり、なじみもややあるものの、ミネルバとザンバについては初見でこちらはもうURキャラというただそれだけで選んだ。
ミネルバはハイヒューマンの男性で、レベルが6000(UR)のサモナーである。
ザンバはライカンスロープ(半獣半人)のこちらもオスでレベルが5000(UR)の武道家である。
使い慣れていないという不安はあったものの、逃げることを想定すればレベルは高い方が少々のダメージでも耐えれるので、対抗せず都合がよい。
くわえてその二体も初期装備がレジェンド級のものばかりなので、なおさら都合がよい。
オリョウも加えようか迷った北斗であったが、あちらはすでに露天で商売を始めていたので、継続した方がよいと判断して今回のメンバーからははずす。
エギルについては、もとよりダンジョン・マスターはダンジョンから出られないので、はなから外されている。
今回のメンバーで一番レベルが低いのがLv3517のホクトとなる。
『多重キャラ割当』でLv.8000のマルティをかぶせているが、先のことを考えて交渉はホクト・キャラで行いたく、その旨を伝えカスミたちも納得してくれた。
香澄も弟を守る気でいたし、最悪マルティキャラに変化すればよいという逃げ手段もあったためだ。
準備を整えたメンバーは、ミヤビの次元転移にて件のベルゼ樹海ダンジョン近くにマーキングした地点まで飛んだ。
「こっちよ」
カスミの手招きにより、森の奥へとすすむ。
景色の変わらないまま、前方にホムンクルスたちがちらほらと見え始めた。
遠巻きに見る彼らを横目に、一行はより奥へと進んでいった。




