サイドA-53 新たなダンジョン
「やればできるじゃん」
「まあ偶然ダンジョンの宝箱アイテムにあったのが大きいけどね」
魔法式改良という大発見から3日後、ホクトの北の自宅にて約束していた日時に戻ってきたカスミたちに、早速『旅人の大地図』を渡す。
地図はファーラーンのダンジョンの出口を基端に描き始めてあるので、いまはファーランとホクトの家までがいつも使う道沿いに半径500メートルで描かれていた。
「時間停止タイプのストレージ内にいれておいても記録はできることを確認してあるから、同行するだれかのストレージにいれておきな。ところで探索は人数増やしたことでベースアップした?」
「全然、魔獣の群れの処理時間が若干早くなった感じかな。森の中では方向感覚が狂うから、それを修正してまっすぐ進むのに時間をとられているから、人数が増えたとてあまりかわらなかったかな」
ホクトからうけとった『旅人の大地図』を自身のストレージにしまいながら、香澄が渋い顔で説明する。
「とにかく樹齢の長そうな大木ばかりでね。根元は日が届きにくいから苔類以外はあまり草とか生えてはいなくて見通しはよいんだけど、木々の密度もそこそこでまっすぐすすめない。魔獣たちの獣道もあるけどそれは直線ではないから、あまりあてにもならないし。というわけでペースとしてはミヤビと二人のときとあまりかわらないかな」
騎獣タイプのゴーレムの黒鬼と赤鬼の走破力はあまり足元の悪さを気にしないので、それをカスミたちに与えた時にはもっとはかどると踏んでいたのだが、ダンジョンを探す行為や方向を見定めるのは人間が行うしかないので、カスミたちが道行で楽にはなったものの、スピードを極端にあげれるというわけでもないようだった。
「ただこれをもらったからね、適当に高速で走ってときたま地図を視ればよいだけになるからね。たぶんだけど相当探索スピードは上がると思うよ」
「それは助かる。じゃあひきつづきおねがいします。あっ、マツリは残していって欲しいかな?数時間とはいえ、意外とファーラーンとの行きかえりで時間がかかったんで。またすぐにあの町にもどらないといけないんで」
「それはいいけど、何してるの?」
「いまオリョウが手始めに露天販売をあの村でしているんだけど、今彼女が泊っている宿屋はいつまでも拠点にできないんで、商会の基礎となるような店舗兼住居を立てようとおもって。ついでに僕たちのパーティの家も建てとこうかなと」
北斗の言葉に香澄が眉を染める。
「たてるって...こちらの世界の土地事情はよくわからないけど、それって区画を購入してということなの? こちらの世界に登記システムとか都市計画解かないんじゃない? 確かこの国って連邦制であの村の領主というか支配層はいるの?」
「それなんだけど、あの村ははっきりした支配者がいないんだ。ただ連邦に属するということで、南の港町ミュートラムの下に一応区分されている。ミュートラムの支配層は港の管理者がそのままなっていて、そこに既定の税金をファーラーンの村民に徴集しているらしいよ。だけどカスミ姉のいう通り、あくまで税収のみの管理なんで、土地の管理なんかしていない。住める土地を広げる努力は冒険者ギルドが中央執政府の依頼で行っているけど、広げるだけだしね」
「じゃあ、どうやって土地区分するの?」
「それがさ、信じられないかもしれないけど、早い者勝ちというか、空いている土地に建物をたてた人間が所有者になる、そんな感じなんだ」
「まさか、いやいくらなんでも。それトラブルの元じゃない」
「僕もそう思うけど、ほんとうなんだ。特にこんな辺境の村では開拓したもの勝ちが暗黙のルールで、だからあのダンジョンの周りを以前僕たちが森を切り開いたんだけど、まだほとんど建物もたっていないんで今のうちに建てちゃおうかなんてね。どうせだからダンジョンを中心とした城塞都市にしていけたらとおもってる。幸いというか前日のサブ・キャラ棚卸で、そういうクラフトに特化したドワーフキャラも見つかったしね」
たぶんクラフトに関しては凝り性の弟だから、全部自分で区画を設計して街の大部分作ってしまうであろうことが、香澄には容易に想定できた。
「ふーん。まあ私はあの町には今のところ立ち入れないから、関係ないんですきにすればいいと思うけど。ゲームの感覚で全部自分の思い通りクラフトとかしない方がいいわよ。それでなくても目立っているだろうから」
無駄かもしれないが、香澄は一応釘をさしておく。
「はい、自重します」
本当に実行できるかどうかはともかく、北斗は姉の言葉に素直にうなづいた。
★★★
『旅人の大地図』の効果はすぐに現れた。
ホクトたちがファーラーンで、サブ・キャラでエルダー・ドワーフのサロモンの能力をかりて、さっさとダンジョンまわりの城壁とその近くにオリョウの販売店兼住居と自分たちのパーティの店舗を3日間でつくって、自宅に戻ってみると帰宅していたカスミが待ち構えていたのだ。
「見つけたよ、新たなダンジョンを」
「ほんとに?」
それまでの調査の日数を考えると信じられない発見時間である。
「どんなダンジョン?もう中に入ってみた?」
「まだよ、というかちょっと説明がいるから聞いて」
食い気味の弟に対して、カスミは抑制をかける。
「ダンジョンは見つかった。だけど中には入っていない。もっというと入る許可がもらえていない」
「許可?だれの?まさかベルゼ大樹海のなかに、だれか住んでいたの?」
それはそれで重要な情報である。
北斗は少しばかり、その言い回しに興奮する。
「いた。だけど人とかの生物ではない。いや厳密に言えば生物か。大量のホムンクルスがいた」
「ホムンクルス?」
カスミの話はこうであった。
『旅人の大地図』で、とりあえず地図の認識範囲を広げるために、黒鬼と赤鬼をかってとにかく高速で走り回っていた。
それもいままで来た範囲をもう一度舐めるようにして、隙間がなるべくないようにと走り回ったのだ。
そうすると、いままで通り過ぎたと想定される範囲に名前が「????」と不定のダンジョンマークがあるのが確認できた。
半日ぐらいは戻らないといけない場所であったが、それでもやっと見つかったダンジョンである。
カスミたちは目前に現れる魔物たちを、黒鬼と赤鬼で蹴り飛ばして素材も回収せず、急行した。
するとそこには、ダンジョンの入り口と思しき小山と、見渡す限り埋まってカスミたちを迎えたホムンクルスたちにあったというわけだ。
ダンジョンのまわりは住居と思しき小屋も乱立しており、飼いならされているような亜竜もちらほら見えた。
「集団で出てこられてね。しかも意思疎通ができたのよ」
「で、許可が得られなかったというのはなに?」
「長らしいのが4人、先頭にたってたんだけど、私たちにここは自分たちが主人からの指示で守り続けている場所です。ですから入りたければ主人たる証を示せと、こういうわけ」
「主人たる証?なんだそりゃ」
ダンジョンを守るホムンクルス集団。
なんとなくいわくありげな状況に、ホクトはイベント?という言葉が頭に浮かぶ。
「でも、カスミ姉とミヤビなら簡単に突破できるんでしょ?」
「いや、さすがにああヒューマノイド然とされていれば、本当の生物ではないとわかっていても倒すのはちょっと。傷つけないように突破もできそうになかったし」
「ええっ、ふたりでも」
「ええ、彼らのレベルはすべて2000を越えていてね。しかもリーダー格とその取り巻き連中は3000を越えていたの。鑑定で確認した範囲では武具も色々と付与付きの業物ばかりだし、魔法や武技、武術スキル持ちもありえないくらいいて、あちらが本気で対抗してくれば傷つけずに突破というのはさすがに無理があったんよ」
カスミがエルフの美しい顔で、あきれ顔でいった。
「それににゃ、ちょっと厄介な仕掛けもあるんにゃ。そのダンジョンのまわりでは、短距離の転移もできなかったんにゃ」
「短距離の転移もできないって、どういうこと」
ミヤビがいうには、抗戦をさけたいカスミの意をくんで、ダンジョン入り口まで短距離の転移を提案して、カスミもそれに同意した。
そうすれば抗戦しなくても中に入れると踏んだのだが、それができなかった。
「次元系魔法が封じられていると思うにゃ。まったく魔法が発動する気配も無かったんで」
「というか、私の魔力も若干だが抜かれている感じがした。どうもそういう結界魔法がしかけられているとしかおもえなのよ」
ふたりは思い出しながら、どういう仕掛けかもわからないままだったという。
もちろんカスミの貯蔵している魔力を大量の魔力をもってすれば、その結界も壊すことも可能のような気もしたけれど、その結果こちらから交渉する意思を放棄するのに等しく、相手も実力で妨害する可能性が高かった。
ミヤビの短距離転移で移動できたとしても、ダンジョン内に確認できていないホムンクルスが潜んでいる可能性もあったので、どうも一筋縄ではいきそうになかった。
「その主人たる証以外に、なにか別の方法はないかと聞いたんだけど、それに関しては沈黙しか返ってこなかったからね。どのみちダンジョンアタックにはあんたも同行したいだろうから、とりあえず相談しようとおもってそのまま返ってきたってわけよ」
「ふーん。で、実際数としてはどのくらいいたの?」
ホクトはカスミに確認する。
「正確にはわからないけど、ざっくり見える範囲で500以上?」
「うんにゃ、もっといたにゃ」
同意をもとめて視線を動かしたカスミに、ミヤビは否定の言葉をだした。
それにしてもと、北斗は思う。
主人を名を受けてダンジョンを守る大量のホムンクルス、しかもスキル持ち!!
人工生物にもスキルが付与できるんだという、あらたな認識。
打開策が見つかっていないながらも、なぜかそのシチュエーションにわくわくする北斗であった。




