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サイドA-50 ワールドアイテム『イザナミの指輪』

「把握できていなければ、一度全部洗い直ししてみたら。サブ・キャラとアイテムの棚卸よ。10年たったんだから、一旦立ち止まって見直すのもありかもよ。そうすれば直接は自動マッピング機能スキルにつながらなくても、間接的にもしくは代替えの機能が見つかるかもしれないじゃない?もしくはそういう魔道具を作り出せる機能があったりしたりするかもだし。前に話していたじゃない、普通の錬金術師だと思っていたら、『エリクサー』生成に確率100パーセントで成功できるキャラがいたって」

「ああ、ミミコのことか...」


確かにそういうことはあった。

北斗は引き当てた当初、ミミコをSSRの薬師に特化した錬金術師としか認識していなかった。

ホクトたちのキャラは基本ポーション等の補助アイテムをあまり使う場面がなく、ストレージにもガチャで引き当てたポーションがたくさんあったので、それらを作るキャラを無意識に重要視できておらずスルーしてしまっていた。


ミミコが『エリクサー』生成に特化していると気が付いたのは、今後増えるであろうダンジョン・マスターをどのサブ・キャラに割り当てるかで選定しているときだったのだ。

ダンジョンマスターにするにはある程度の戦闘力が必要とはいえ、永久的にダンジョンにとらわれてしまうため、どちらかというとレベルの低いSSRキャラでかつ固定スキルの少ない、もしくは戦闘に特化していないものから選定しているときに、偶然見つけたのだった。

香澄はつまりそうい見落としている能力がないのか洗い出しをしろと言っているのだ。


「ひょっとしたらそういう魔道具を作れたり、一人では無理でも合わせ技でそういう風にできるサブ・キャラもいるかもしれないじゃない。いっかい整理すべきよ」

「まあ姉さんのいうことも一理あるよ。でもなー」


北斗は理系は得意だが暗記がすごく苦手だった。

現実世界の仕事でもプログラミングは得意なのだが、苦手なのが変数パラメータの名前つけとそれを記憶しておくことだ。

変数は通常使う用途の詳細までを表すほうが可読性がよいとされている。

たとえばAブロックで時刻の秒を格納する変数としたら、ablock_time_second みたいにつけるのがよいのだろうが、北斗はこれが覚えられないうえに、打ち込む手間もおしむため、a_tsec のような短縮したのをつけてしまう。


そんなんだから、姉のいうことはわかるものの、サブ・キャラすべての能力の記憶などできるはずもする気力もなかった。

かといってすべてを把握するために、それぞれのHELPや鑑定をするのにも数が多く、ましてや見たものの次に移ったら、前の見たキャラの特性を頭の中で比較することも、同じ理由でできそうになかった。


「俺にそれができると思う?」

「ああ、あんたそういうの得意じゃないもんね。だったらあれみたいなのをあちらの世界でも作るしかないんじゃない?」


と香澄は北斗のPCテーブルのほうを目で指した。


「攻略ノートね...」


北斗は自分の記憶力のなさを昔から認識していたので、情報が多いものについてはゲームであれ仕事であれ、なるべくノートにまとめるようにしている。

『ネオアンバーソメイユワールド』についても、こちらの世界である程度はまとめているのだが、現実世界にもどってくると記憶が薄い印象になってしまうのと、こちらからこのノートを持ち込める手段もないため、まとめる内容は今後の生産品の計画や立ち上げる商会の方針、攻略していくダンジョンの順番や各階層にもたせる特徴のまとめなどであった。


「まあそれしかないか。たしかノートや鉛筆を作れるスキル持ちもいたような気もするしな」


あちらの世界は中世異世界もので定番である、紙や筆記用具は貴重品であった。

活版印刷なんかもないため、本などもほとんどなく、数少ないそれらはもっぱら人の手によって書かれたものばかりである。

北斗の持つサブ・キャラには、これらを木とノリなどから簡単にしかも上質に作り出すスキル持ちもいるため、ノートはすぐできると思うが、ペンが主流の世界で鉛筆がスキルリストにはいっているかどうか...。


「なんならタブレットみたいなもの作ってみたら。魔法で記憶しておいて記録は言葉をそのまま文字列化できるような。もしくはタッチペンのようなもので書き込めるとか」

「たしかに、それならできるかもな。さっそくあちらの魔道具作りキャラたちのスキルを洗いなおして、そういうものがつくれないか検討してみるか」

「棚卸もよ。マップ自動作成アイテムもしくはスキルは絶対にダンジョン探しに必要だからね。あんたはわたしより全然長くあちらに滞在できてるんだから、それくらいの時間は作りなさい」


香澄がソーセージを半分ぱくついて、ブランデーロックをちびりとして、ふうとため息をつく。

普通の豚の腸に亜竜の背肉と香草を混ぜて作った、ホクトグループオリジナルのひとつだ。

今から立ち上げる『カメヤマシャチュウ』で販売するものの候補の一つだ。

風呂上がりで顔色は少しは回復しているとはいえ、香澄は北斗からみて若干のお疲れ顔である。


「なんか疲れてるね。仕事忙しい?」

「まあ9月だからね。半期取りまとめの時期なのよ。あんたは個人事業主でクライアントも少ないだろうけど、こちらは複数いるからね。いろいろ納期が重なっていて、対応にてんてこ舞いよ。部下はみんな私におんぶに抱っこしてていまだ独立した人材はいないし、上司は上司で別の大口顧客で手いっぱいで、こっちでできることはこちらでこなさないと回らないしね。今月は末までバタバタね」


ため息とともに、つぶやく。

使えない部下を独立できていないとやわらかい言葉で置き換えて、愚痴の対象にしない香澄のこういうところが北斗はすきだ。


「そんなら無理して毎週かよわなくてもいいよ。実質片道3時間は必要だろ?新幹線とかでも寝れるけど、あれでは疲れはとれないみたいだし」

「なにを、馬鹿を言いなさい。あんたほどじゃないかもしんないけど、私も結構な時間あちらについて色々おもってるのよ。あのスーパーエルフは自身でありながらもまだまだ未知の使えていない能力があるし、使えて気でいるスキルだって使いこなしている自信なんてないわよ」

「そうかな?外から見ていると使いこなしているように見えるけど」

「タイプSのスポーティ仕様カーをスーパーの買い物の往復にぐらいしか使っていない感覚なのよ。もっともっと使って、自身のものにしたいけどこればっかりはね。私もあんたみたいにここで暮らせればいいんだけどさすがに通いは無理だし、リモートワークが仮にできたとしても部下が回せないから無理なのよ。けどね」


ホークに刺した次のウィンナーを北斗にむけ、宣言する。


「体の疲れはともかく、心の癒しにはあの世界が絶対必須なのよ。先月まではそれが小説だったりゲームだったりしたけど、いまはあの世界が私のストレス解消法。そのためには少々きつくても時間の許す限り通うわよ。まだまだ若いし回復は睡眠とあんたにもらった『快鮮100』で大丈夫よ!」

「若いね...」

「なによ、その含みは」


北斗は若いと宣言する三十路を越えた姉に、おもむろに小箱を取り出す。

手に収まるほどの小箱は、貴金属を納める箱だった。


「はい、これプレゼント」

「なっ、なによこれ」


弟の突然の場違いなプレゼントを、おそるおそるうけとる。

ふたを開けると、小指の爪程度のオパール石をあしらった指輪が入っていた。


「ちょっとあんた、姉弟で気持ち悪いわよ、これは」

「そう?たしかにこれを俺が現実世界の貴金属店で姉貴のために購入してきたらそうかもだけど、これはあちらの世界で手に入れたものだから。俺だって実の姉弟に親族以上の気持ちなんか気味悪いよ」


姉の言葉を完全否定して、うけとるように促す。


「どうゆうこと?」

「じつはね、さっき話したワールド滞在10年目の特典なんだけど、もうひとつワールドアイテムと称してこれが2つもらえたんだ。名を『イザナミの指輪』。効果はこれを身に着けて眠った人は、どこにいてもあちらの世界に俺がログインする時に参加候補としてあがること」

「それってつまり....」

「そう、姉貴は自宅にいてもこれをつけて俺より先に眠れば、俺がログインする時にこの部屋でと同じように随伴者として登録可能ということ。ここに通わなくても、もしくはここを生活拠点にしなくても、あちらに行きたい夜に参加できるようになるということ」


『イザナミの指輪』の出現は、同じタイミングで得た『多重キャラ割当』と同じくらい衝撃のをうけたアイテムであった。

これの効能はすなわち香澄の毎晩参加を確約するアイテムだったのだ。


「じゃあ、これで毎晩あんたより早く眠れる日には、わたしもあちらの世界に入り浸れるてことよね!」

「そういうこと。気持ち悪いからいらない?」

「冗談、何が何でももらって帰るわよ」


さっそく指輪を取り出して、左手の人差し指にはめてみる。

測ったわけではないだろうが、香澄の指にはまることが決まっていたかのように、ゆるすぎずきつすぎつぴたりとはまった。

しばらくはめたまま、左手を上げてそれに見とれる。


北斗は受け入れてくれてよかったと、胸をなでおろした。

香澄のあちらの世界への入れ込みようが北斗の部屋に通う度に増していたので、いつかは一緒に住むと言い出しかねないとひやひやしていたのだ。

嫌いな姉ではないが、30も越えて一部屋に姉弟が一緒に住むのは不健全、というか嫌いな姉でなくても北斗が無理と思っていた。


姉がそろそろ強行手段に訴えなるのではあせっていたタイミングだったので、渡りに船、北斗の要望をあの世界の管理者、どんな存在かは知らないが、が解決策を提示してくれたとしかおもえなかった。


喜んでいる姉をみながら、自分の心理を悟られぬよう、安堵する北斗だった。


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