サイドA-49 姉弟ワールド談義
「先日でたんだよ、若草姉妹」
「へぇー、やっぱり職業は農夫だった?」
週末に北斗の部屋に訪れていた香澄は、弟との小宴会での報告にうなずいた。
机の上には、相変わらず異世界の収穫物で作られた料理が並んでいる。
お酒を割っている水や氷でさえ、ダンジョンで取れたミネラルたっぷりのポーション水だ。
純粋に現実世界で購入しているものは、お酒と炭酸水と食器だけとなる。
「うん、固有スキルは微妙に違うんだけど、職業は農夫だった。レベルは相変わらずそれなりに高いんだけど」
「まあ、あの世界の一流冒険者でも、最高でレベル500前後とかだからね。前の二人とおんなじくらいだと、Lv3700前後かな?」
「よく覚えていたね。エリザベスはLv.3800でエイミーはLv.3700だった」
北斗はさらに、ふたりの固有スキルに関して熱弁する。
末娘のエイミーに関しては、ジョセフィーヌと同様の『植物育成促進にかかわる魔法(極)』で、種子や苗の生成も可能なのだが、その生成できる種類が大部分は重複してはいるが違う範囲の傾向が少し異なっていて、樹木や花に関するセレクトがおおかった。
いままで北斗はたべれるもの中心に考えていたので、このスキルの顕現はちょっと以外だったが、ダンジョン第78階層のリゾートホテル近辺には、そういう趣向もあった方がよいと思い始めていた時期だったので、タイムリーなスキルであった。
さらに三女のエリザベスについては、『菌類と海藻育成促進にかかわる魔法(極)』という、これまた他の農夫キャラとは異なる固有スキルであった。
菌類といえば言わずと知れたキノコ類だが、そのバリエーションは通常食べる野菜の種類に匹敵する、ややすると菌類の種類の方が多いので、他の三姉妹を上回る能力といってもよかった。
菌類はキノコだけに限らず、納豆菌や麹、乳酸菌や酵母(イースト菌)、酢酸菌などの生成も可能である。
つまりは味噌や日本酒、納豆やヨーグルト、チーズやパンの生成が容易であるということだ。
この世界にもそれら菌がいるのだろうが、明確に目的の菌を探し出すことなく、手前で用意できるのはありがたい。
さらに海藻については海洋領域にてわかめや海苔、昆布などの海藻を作り出すことはもちろんのとこ、サンゴやイソギンチャクなどの非食用の植物についても生成可能であった。
そしてなぜか海藻ではないが、牡蠣や真珠、ホタテなどの貝類の子種も生成できた。
「すごいじゃない。これであんたのクラフト系のできることが大幅に広がったわけよね。けど思うけど、あの四姉妹、強さだけでいったら農夫だけさせておくにははもったいなくない?」
「いや、あれでいいと思う。冒険とか対人対応だとどうしても俺がはいらないと使い物にならないけど、農業といういわゆるルーチン作業だけであれば、NPCでも初期の指令だけ与えておけばその範囲で自立してくれるし、ダンジョンの奥ということもあって人には逢わないんで、変な反応の人と思われる心配もないしね」
北斗が『ネオアンバーソメイユワールド』に強制的にログインさせられるようになって、半年が過ぎた。
その間にあちらの世界で過ごした年数は10年を越えていた。
香澄についてはあちらの世界で北斗が8年目に参戦して、現実世界では1ヶ月が過ぎた。
香澄の生活拠点から新幹線で1時間かかるため、週末しか参加のチャンスはないが、それでもリアルMMOを体験できるとあって、毎週欠かさず訪れていた。
北斗も香澄のために、平日のログインはほどほどに、といっても滞在最低1週間はいるのだが、としてなるべく香澄の知らない期間が少ないようにはしていた。
なので週末はたっぷり3~4ヶ月はあちらの世界で暮らすようにした。
最初香澄はさすがにそこまで滞在が長いと、現実世界の思考のつながり、つまり直前の週に何の仕事をしていて、案検や持ち越しがどのくらいあるか覚えていられないのではと心配していたが、それは北斗が絶対の自信をもってして保証していた。
「どういう仕組みかわからないけど、こちらに戻ってくると向こうでの記憶より現実世界の思考が強烈になって、一晩寝たのとおんなじなんだ。あちらの経験を忘れるわけではないけど、なんていうかかすんでしまって、逆に昨日のことは普通の前日の記憶になるんだ」
それを実証しようと、北斗は徐々に滞在期間を長くしていって、最高半年あちらに滞在したことがある。
それでもログアウト、つまり起床したときには同じ感覚で過ごせたことを、香澄に説明した。
「どうだか。個人差なければいいけど....それよりもこの一週間、たぶん二か月はたっていると思うけど、なにか状況に変化はあった?ダンジョン見つかった?」
「うんにゃ、残念だけどいまだベルゼ樹海のダンジョンは未発見だよ。ホクトの知識にない亜竜にはであったり、アケビに似た木の実は発見したりしたけどね。もっと簡単に見つかると思ってたけど、そうは問屋が卸さないらしい」
北斗は牡丹餅を箸で半分にちぎって口にほおばりながら伝える。
もち米も栽培しはじめたので、小豆や砂糖も含めてすべて異世界産だ。
ホクトのスキルとして、和菓子もまだ低レベルながら習得したので、この程度の物は簡単に作れるようになっている。
「あのさ、今のローラー作戦ではダンジョン発見は無理なんじゃない?できてるようでマッピングできていないし、黒鬼と赤鬼は便利で楽しいけど、走破スピードはやすぎて、見落としてし待ってるような感が否めないのよ」
黒鬼と赤鬼とは、香澄に渡してある騎乗できるゴーレムのことである。
それぞれがパンサーとタイガーのフォルムをしている。
4トントラックサイズのクラウドとは異なるが、それでもミニバンサイズの大きさで、足も長く跳躍力が半端ないので、普通に走っても相当スピードがでる。
「でも魔力探知は使って探しているんだろ?」
「もちろん行軍中はずっと感知しているつもりだけど、これって接敵感知という性質が多いんで、本能的に自分に襲い掛からないか無害ととわかるものには、魔力が強くても意識しないと認識しずらいのよ」
「そうか....」
香澄のいうことも、すこしは感じていないわけではない北斗だったが、それ以外がいろいろ忙しすぎて気をまわしきれていないのも自覚していた。
香澄のいうとおり、なにか方法論を変える必要があるのかもしれない。
「たとえばさ、なんでもありのあんたのホクトキャラにさ、たとえばダンジョンだけでなくフィールドマップも自動的に生成できるスキルをもったサブ・キャラとかいないの?ただ走るだけで、その周辺のマップが自動登録されるような。できたらそのマップには魔力分布図なんかも表示されるような。ふつうにゲームとかでもそういう能力をメインキャラは持っているじゃない?ホクトキャラはどうなの?」
「いや、それはホクトのスキルにはないな。そしてたぶんだけど、いままで出たサブ・キャラやアイテムにもそういうのはなかったと思う」
「たぶんて、なによ?」
「ガチャチケットが事あるたびにバンバン発行されて、SSR確定やUR確定ガチャははなるべくすぐ使用して、有効なサブ・キャラが出ないかを見てるんだけど、レベルが異なるだけで似ているようなスキル持ちも多いんで、覚えてられないんだよ。ゲーム画面とかだったらステータス表スクショして一覧とかにできるんだけど、そうもいかないし...。ガチャで出る魔道具にしてもおんなじ。黒鬼や赤鬼みたいなすぐ使える実用的なタイプはイメージに残りやすいんだけど、一回HELPで説明を読んだだけでは理解できなくてそのまま放置のアイテムも多くて、もしいまいったような能力に該当するものがあっても気が付いていない可能性もある...」
北斗は『ネオアンバーソメイユワールド』にログインのたびに更新される特典は、初期だけだと思って当初はガチャやスキルポイントも丁寧に過剰使用ならないように気を使っていた。
だが、最近ではそれはないのかと思うくらい、強制ログインにもかかわらず、訳の分からない特典が続いている。
毎回ではないが、数回に一回はかならずあの『new』の文字が点滅している。
連続ログイン特典は10日ごとに、滞在特典については半年ごとにかならず『new』が点滅する。
そのほかでは、ホクトのLv.Upが500ごとにとか、『多重自我憑依』の利用日数とか、サブ・キャラの数が50を越えたとか何かに理由をつけて、無理やりガチャチケットとスキルポイントと特別なアイテムが付与され続けていた。
大きな節目でもない限り、さすがに当初にもらったスキルポイント3億点など突拍子もないものはないが、それでも回数が多いので地味に蓄積れさていって、いまでは北斗も使い方がルーズになっている。
最近も似たような大きな節目がふたつりあ、それが
『new 180日連続ログイン特典について』
『new ワールド滞在10年特典について』
であった。
180連続ログイン特典は、ガチャチケット30枚にSSR確定チケット2枚にスキルポイント10000点とまあ穏やかな内容だったが、10年滞在については、想定していた以上の盛りだくさんだった。
まずはガチャチケット200枚にSSR確定3枚、UR確定1枚にスキルポイント百万点、URアイテムとしてアダマンタイト・8本手巨人ゴーレム『ゴリアテ』、ワールドスキルとして『多重自我憑依』が2人から5人に拡充され、『異次元ストレージ』が7トンに拡充されるだけでなく、ユニットタイプも20追加された。
『異次元ストレージ』は重量もユニットも(松)属性のため、時間経過はまったくない上位タイプである。
加えてホクトのキャラをベースに、多人数のサブ・キャラ割り当てが可能なこちらもワールドスキルの『多重キャラ割当て』が一人ではあるが追加されたのだ。
このスキルをもってすれば、思考と記憶がワールド内で共有化できるキャラが自由に入れ替わり可能と、場面場面で割り当てられる便利さに加え、『多重自我憑依』の枠も実質ひとつ追加になるという利点もあった。
ホクトはこの最初の枠に、迷わず別行動させているマルティをはめる。
ベルゼ樹海探索ように別のキャラを選定する必要もあるが、当面は香澄隊にまかせてもいいような気もし始めていた。




