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第12話「アビゲイル・クロワ」 - 1

※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。

カルメサス伯爵家の地下室。

暗い石壁に囲まれた空間に緊張感が漂っていた。部屋の中央に設置された机の上には、一丁の魔核銃が鎮座している。トーマスはオリビア侍従と並んでその銃を凝視していた。


「呪詛を込めた者が死ねば、魔核銃は無力化される……そう聞いていた」


彼の低い声が静寂を破る。指先が銃に触れようと伸びる瞬間、オリビアがその手を掴んだ。


「大丈夫ですか? トーマス様が凶暴化したら私では止められません」


オリビアの声には、警戒と不安が滲んでいる。


「大丈夫。式典で呪詛が発動したのは舞台の上にいた村人たちだけだった。国境の村にいた人たちには何も起きていない」


トーマスは静かに応じると、銃を慎重に持ち上げた。その動きは、恐怖を押し隠しながらも観察者としての冷静さを保つものだった。


「ほらね。それよりもわからないことがある。この銃は未だに破壊力を保持しているんだ」


その言葉に、オリビアの眉が僅かに動いた。


「呪詛者であるアビゲイル枢機卿が死んだのにですか?」


「試してみよう」


トーマスは銃を構え、部屋の隅に設置された鉄製の標的に照準を定めた。トリガーを引くと、雷鳴のような轟音とともに閃光が走り、標的は粉々に砕け散った。地下室の壁が一瞬震え、粉塵が空中に漂う。


挿絵(By みてみん)


「……やはり威力が落ちていない」


彼は銃をじっと見つめ、呟く。


「呪詛を込めた者が複数いるのか、それともアビゲイルは死んでいない・・・いや、彼女の心臓は完全に止まっていた・・・分からないな」


トーマスは銃を机に戻し、険しい表情を浮かべた。


◇ ◇ ◇


マリアとグレースが歩く王宮の廊下の絨毯は足音を吸収し、静寂の中にわずかな響きが残る。

二人はウォルター新教皇の就任式に出席し終えたところだった。


大きな窓から差し込む午後の陽光が、廊下を暖かく照らし、壁に飾られた歴代の肖像画の輪郭を際立たせていた。


「事件から2週間。まさか、教皇が予定より早く引退することになるとはな」


マリアは絨毯を踏む足音を響かせながら呟いた。


「心臓のご持病があるとは伺っておりましたが、今回の負傷が直接の引き金となったのでしょうね」


グレースが少し後ろを歩きながら答える。


「だとしても、次期教皇がウォルターだなんて。消去法で決まったことは明白だ。治療中で床に伏せているんだろう? そんな状態で務まるのか?」


「はい……今もほとんど執務ができていないと聞きました。秘書官たちが必死に支えているようです」


マリアは肩をすくめ、窓の外に目をやった。


「それにしてもスカーレットの扱いだ。民衆にはあれほど慕われていたのに、一日にして罪人扱いだ。死してなお裁判にかけるという話も出ている。前代未聞だ」


「確かに、非常に厳しい判断です。教会も彼女の存在そのものを抹消しようとしているように見えます」


「一方でアビゲイルは殉教者だぞ。国葬までやるという話になっている。奴が事件の犯人かもしれないのに」


マリアの声に軽い苛立ちが混じる。


◇ ◇ ◇


馬車がカルメサス伯爵家の門をくぐると、夕日が石造りの外壁を橙色に染めていた。広い庭には木々の影が長く伸び、柔らかな風が芝生を撫でている。マリアとグレースが馬車を降りると、侍女たちが素早く駆け寄り、彼女たちを迎えた。


「トーマスが何か掴んでいればいいんだが…」


執務室に向かう途中、マリアがそう呟いた。


グレースが扉を開けると、中ではトーマスが立ち上がり、待ち構えていた。その隣にはタリーサが座っていたが、魂が抜けたように遠くを見つめている。


「トーマス、何か分かったか?」


マリアは椅子に腰掛けると、トーマスに視線を向けた。


「ええ、お待ちしておりました」


トーマスが一礼し、険しい表情で報告を始めた。


オリビアとの実験結果を淡々と説明するトーマスの声を、マリアとグレースは黙って聞いていた。


「つまり、呪詛を込めた者が死ねば魔核銃は無力化されるはずだが、現実にはそうなっていない、ということか」


マリアが前に乗り出し尋ねると、トーマスは頷いた。


「はい。しかし、ここからが問題です。呪詛者が複数・・・考えにくい。そしてアビゲイルは確かに死んでいました。そもそもドワーフ職人の言っていた話が間違っているのかも」


釈然としない答えにマリアは眉をひそめる。


「引き続き調べてくれ。ところでアンナの様子はどうだ?」


マリアが話題を変えるように尋ねた。


「……塞ぎ込んでいます。目の前でスカーレット様が命を落とした衝撃から立ち直れないようです。スカーレット様の愛情を今になって理解したことも大きいのでしょう」


マリアは深く頷くと、タリーサの方に目を向けた。


「タリーサ、お前はどうだ? 父を葬った真犯人が死んだことで、一区切りがついたのか?」


マリアの問いに、タリーサは虚ろな目で彼女を見つめた。その瞳には深い疲労と、どこか納得しきれない感情が入り混じっている。唇が微かに震えたが、声を発することはなかった。


「……分からないんです」


彼女がそう言ったように見えたが、それ以上の言葉は続かなかった。


(続く)

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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★あとがき★

事件から2週間経って、王国は立ち直ろうとしていますが、アビゲイルの謎は残っています。


次回、タリーサは自分のこれまでの人生を見つめ直します。

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