第10話「式典前日」 - 4
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
建国記念式典に向けてベレンニア王国諸地域の貴族たちも続々と王都ルオハンジェ入りを果たしていた。
街道沿いには華やかな馬車が連なり、どの屋敷でも普段以上の賑わいを見せている。宿屋は早々に満室になり、屋外の露店では色とりどりの旗や菓子が飛ぶように売れていた。
聖騎士団は各地域への遠征が多いため、お返しとばかりに貴族たちの訪問も多い。
早めに現れたのはニール・マルトゥリック侯爵だった。年の離れた弟フェリックスが聖騎士団にいるので、親代わりの気持ちで視察に訪れた形だ。
屋外練習場に現れた侯爵を二番隊隊長のアイバンが出迎える。
「マルトゥリック侯爵、ようこそいらっしゃいました。フェリックスは今、あちらで新人に乗馬の教育中です」
「弟が世話になっている。あのひよっこが人に物を教えるようになりましたか」
ニールは目を細め、弟フェリックスが大声で新人騎士たちに指示を飛ばしている様子を見守った。
「少しは成長したようだな。しかし、はりきり過ぎだ」
「確かに。時々、自分が馬よりも騎士たちを走らせている気がします」
アイバンの冗談に、ニールは思わず吹き出した。
訓練が終わった後、ニールはフェリックスに歩み寄ると、不躾に尋ねた。
「ところで、お前が仲良くしているという女性騎士はどなたなんだ? 会わせてくれ」
「なっ、何のことですか!」
突然の問いにフェリックスは思わず大声を上げてしまう。ニールはにやりと笑い、弟の動揺を楽しんでいるようだった。
実家のベンジャミン議事官が兄にタリーサのことを話したのか!?
しかしタリーサを兄に会わせるわけにはいかない。マルトゥリック家はタリーサのセルヴィオラ家を滅ぼした張本人かもしれない。タリーサはその可能性を知っている。
「シェリルさん!」
近くを歩いていた先輩騎士シェリルが振り向くと、フェリックスは駆け寄り、彼女の手を取りながら唐突に言った。
「最近、親しくさせていただいているシェリル先輩です!」
シェリルは一瞬呆気に取られたが、すぐに状況を察し、小声で囁いた。
「何考えてんだか知らないけど、恋人を演じさせるなら今度の給料日にフルーツパイを奢りなさいよ」
「絶対奢りますから! 助けてください…」
フェリックスが慌てて同意すると、シェリルはにっこり微笑み、ニールに挨拶をした。
「初めまして、マルトゥリック侯爵。弟さんには日頃から大変お世話になっております」
ニールは満足そうに頷きながら尋ねた。
「麗しい御方と親しくさせていただいて弟は幸せ者です。2人は結婚も考えているのかな?」
兄の問いかけに、フェリックスは一瞬言葉を失った。心臓が跳ねるような感覚とともに、冷や汗が背中を流れる。
沈黙は許されないと判断したフェリックスは、思わず勢いで答えてしまった。
「はい、もちろんです!」
その瞬間、シェリルが後ろからフェリックスの手をぐいっとつねり上げた。
「ほお・・・お前ちょっと調子に乗ってるんじゃないの? 他にも行きたい店がたくさんあるの。給料は全部なくなると思いなさいよ…」と耳元で囁く。
「は、はい……」
涙目になりながら頷くフェリックスを見て、ニールはさらに楽しそうに微笑んだ。
「それはめでたい! 次に来るときは婚約者として正式に紹介してくれるんだな?」
すると、シェリルが一歩前に出て、さらりと言った。
「それまでには、フェリックス様の頼りない部分をもう少し鍛えさせていただきますわ」
「おお、素晴らしい! フェリックス、お前は本当に幸せ者だな!」
そう言いながら満足げに頷くニールに、シェリルはさらなる笑みを浮かべた。その笑顔がフェリックスにとって、これ以上なく恐ろしいものに見えるのだった。
その後ろを、老騎士マクスウェルと真剣な表情のタリーサが通り過ぎていったが、彼らの会話には全く気づいていなかった。
(続く)
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★あとがき★
来たる建国記念式典に向けて、これまで登場した人物が次々と王都入りします。式典は相当にシリアスになる予定なのでまだもう少しほのぼの回を挟みます。
次回、次に王都入りしたのは大陸一の武人と知られるヴァリンドール公爵です。




