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第10話「式典前日」 - 2

※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。

「夜分に申し訳ない。おお、タリーサさん、いらしたか」


ウォルター枢機卿は執務室に入るなり、穏やかな笑みを浮かべながらタリーサに目を向けた。その視線は柔和に見えても、どこか鋭さを隠し切れていない。


彼はすぐにタリーサの様子に気づいた。濡れた髪が顔に張り付き、革鎧の一部から水滴が垂れている。


「…どうしたのです? タリーサさん、その濡れ鼠のような姿は」


タリーサは息を呑み、答えに詰まったが、マクスウェルが苦笑交じりに手を振った。


「ああ、ウォルター様。ちょっとした訓練の事故でして」


「そうですか…」


ウォルターは納得したようなしないような表情を浮かべたが、それ以上は追及しなかった。


「ウォルター様、聖騎士団は建国記念式典の警備準備で忙しくしています。お越しいただき恐縮ですが――」


グレース団長が言葉を挟んだ。


「すぐに帰りますよ」


ウォルターは軽く手を振り、ゆっくりと切り出した。


「村に信徒自衛団の銃を持った暴漢が現れたそうですね。式典も近いことですし、ちゃんと把握しておこうと思いまして」


その言葉にグレースが僅かにタリーサを見やる。タリーサは一瞬躊躇したが、グレースに話すよう促され、重い口調で語り出した。


「仮面を被った男が、新型の銃――魔核銃を所持していました。その威力は家の壁を貫通するほど強力です。さらにその男は呪いに侵されたかのように暴走し、怪物のように変貌したのです」


ウォルターは眉をひそめて深刻そうに聞いていたが、その目の奥には一瞬、喜びの色が灯ったように見えた。


「なんと恐ろしい……怪物になったのは魔核銃のせいなのですね?」


「たぶん……そうです」


タリーサは答えを誘導されているような気がしながらも、そう答えるしかなかった。


「ふむ、早急に現地を調査し、信徒自衛団の在り方も検証する必要がありますね」


ウォルターは満足げに頷くと、踵を返した。


「皆さん、忙しい中お時間をいただきありがとうございました。式典は厳重な警備をお願いしますね」


扉が静かに閉まると、重い沈黙が部屋を支配した。


「……枢機卿たちの駆け引きに巻き込まれたな」


グレースが低く呟くと、マクスウェルが重々しい声で言った。


「もう一人の枢機卿、アビゲイル様は『タリーサとはもう会えないかもしれない』と言いました。あれは明らかに宣戦布告です。式典までの間、タリーサは常に襲撃に警戒した方がいい」


「そうだな。タリーサ、今夜から私の屋敷に寝泊まりしろ」


グレースがすぐさま指示を出す。


「周囲にはペネロペや他の部下たちが住んでいる。私の家なら安全だ」


◇ ◇ ◇


翌朝、タリーサはグレース団長と共にカルメサス伯爵家を訪れた。荘厳な門をくぐり案内された応接室には、伯爵家当主のマリアと宮廷道化師のトーマスが待っていた。


「おはよう姉さん、遠征先の村で何か騒動があったらしいね。昨日からその話で持ちきりだよ」


トーマスは姉をからかうような調子で言ったが、その目は真剣だった。


「タリーサ、何があったのか聞かせてくれ」


マリア伯爵も真剣な眼差しだった。おおよその話は既に耳に入っているのだろう。


「魔核銃を持った男が村に現れました。あの銃は信徒自衛団以外にも渡っている。そして――」


「その銃を持った者がバケモノのように暴走したんでしょ?」


トーマスが先に言葉を継いだ。


「どうしてそれを?」


タリーサが驚くと、トーマスは微かに笑みを浮かべた。


「アンナがあの銃を作ったドワーフの職人から話を聞き出したんだ。魔核銃には“呪詛”が込められている。銃を使った者は力を引き出され、その呪詛を込めた者に操られてしまうらしい」


その言葉に、タリーサの目は大きく見開かれた。


昨日の出来事が脳裏を駆け巡る。仮面の男が凶暴化し暴れ狂った時、冷たく響いたアビゲイルの声。


「だ、だとしたら…呪詛を込めたのはアビゲイルです!」


タリーサの声が震え、強張る。室内の空気が一瞬で張り詰めた。


「あの時、アビゲイルが『やめろ』と叫ぶと、仮面の男はピタリと動きを止めたんです!」


「…それなら話は合うね」


だが、トーマスは首を傾げる。


「でも、魔核銃を持ち込んだのはスカーレット枢機卿だよね? 彼女はアビゲイル枢機卿と対立しているんじゃないの?」


「対立しているように見せかけて、共謀した真の計画を隠している――そういうことかもしれん」


マリアが低い声で言葉を挟む。その冷静な口調が余計に不安を掻き立てた。


「もう一つ聞きたい。姉さんがアビゲイル枢機卿に食ってかかったのは何故?」


トーマスが姉を真っ直ぐに見つめた。


タリーサはふっと息をつき、目を閉じる。一瞬の躊躇が過ぎ、再び目を開くと、彼女の瞳には迷いが消えていた。


「アビゲイルは……父を殺した黒幕です」


挿絵(By みてみん)


その一言に、室内が静まり返る。

マリアが目を細め、トーマスは僅かに息を飲んだ。グレースはゆっくりと目を伏せる。


タリーサは昨日、王宮の広場でアビゲイルと対峙したことを話した。ラルフの息子オリバーを暗に葬り去ったとも取れる言葉に、全員が言葉を失った。


「もちろん彼女は肝心なことを何一つ認めていない。でも、その本性をもう隠していない。何かに急いでいるように見えました」


「式典に照準を合わせている、ということか…一体何を企んでいるんだ…」


マリアが呟いた声が、重苦しい空気の中に静かに響いた。


(続く)

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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★あとがき★

遂にタリーサは確信を口にしました。そして枢機卿たちの動きがまだまだ活発です。


次回、式典前日の各所の模様をお送りします。

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