第9話「解放される呪詛」 - 7
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
「ああ!タリーサ様が!」
悲痛な叫びが広場に響いた。
地面には剣が転がり、そのそばには膝をついたタリーサが荒い息をついている。凶暴化した男がすぐそこに迫るが彼女はまだ立ち上がれないでいた。
「やめろ!! そっちに行かせないぞ!」
「タリーサ様を傷つけさせるものか!」
震えながらも数人の村人が勇気を振り絞り、仮面の男に向かって石を投げ始めた。鍬の柄や道具も次々と飛ぶ。力強い一撃ではなかったが、必死な抵抗だった。
仮面の男はその視線をタリーサから村人たちに移す。血走った目が次第に村人を捉え、激しい敵意が湧き上がるのが見て取れた。
「グアアアアアアッ!」
猛獣のような咆哮とともに、仮面の男が村人たちに向かって歩き始めた。
彼の異様な迫力に押され、村人たちは後ずさりしながらも必死に石を投げ続けた。しかし、次第に足がすくむ者も現れ始め、後退の輪が崩れていく。
「やめなさい!」
アビゲイルの鋭い叫びが広場全体に響いた。
その声に呼応するかのように、仮面の男の動きがピタリと止まる。村人たちはその異様な光景に足を止め、息を呑んだ。
男は困惑したように立ち尽くし、赤い目が虚ろに揺れる。そしてゆっくりと首を回し、再びタリーサの方へ振り向いた。
(アビゲイル様が…止めた!?)
タリーサは村人たちが奮闘してくれた隙に必死で体を起こす。肩で息をしながら、剣を探す手が地面を這う。
男の視線が再び自分に向けられるのを感じたタリーサは、冷たい汗が背中を流れるのを感じながら剣の柄を掴んだ。
男がタリーサに襲いかかる。あまりの速さに完全にはかわしきれず、肩に拳を受けてしまった。
「うっ…」
鎧の肩当てが砕け、タリーサは後ろに転がる。
「タリーサ! 大丈夫ですかっ!?」
アビゲイルが叫ぶ。
「この力…あの姿…魔族なの…?」
肩を押さえながら立ち上がるタリーサ。殴られた方の腕には力が入らないでいた。
男は赤黒い光に包まれながら、再び突進してきた。筋肉は異様に膨張し、目には獣のような凶光が宿っている。その力は、もはや人間の域を超えていた。
「グオオオオオオオオ!」
耳を裂くような咆哮とともに、巨大な拳をタリーサに振り下ろす。
彼女は剣を構えてその攻撃を受け止めるが、衝撃の重さに全身が痺れ、膝が震える。
「ぐっ……!」
なおも続く猛攻に、タリーサは防戦一方となり、徐々に後退させられる。
「…これくらいでいいでしょう」
誰にも聞こえない声でアビゲイルが呟いた。
その刹那、男の拳がタリーサの胸を直撃した。
一瞬の油断。タリーサの足元が一瞬ふらついたその時だった。
ドンッ!
鈍い音が広場に響き、タリーサの体は宙を舞った。壁に叩きつけられ、崩れた瓦礫の中に倒れ込む彼女の口元から血が零れ落ちる。
「タリーサ様っ!」
村人たちの悲痛な声が響く中、アビゲイルの声が鋭く広場全体に響き渡った。
「タリーサ、しっかりなさい!!」
アビゲイルは両手を突き出すと深い息を吸い込んで詠唱を始めた。その声に呼応するように、彼女の手のひらが輝き出す。
「祈りの神キラストリエよ、聖なる祈りによって悪虐の災いを遠ざけたまえ!!」
轟音とともに放たれた魔法が男を吹き飛ばす。もんどり打ちながら地面に転がる男は、それでも立ち上がろうとする。
「遠ざけたまえ!!」
アビゲイルは続けてもう一撃を放ち、男の動きを完全に封じた。
その間に、彼女は素早く別の詠唱に移る。
「タリーサ、起きなさい!」
祝福の魔法がタリーサを包み込むと、その傷が見る見るうちに癒えていく。高齢にもかかわらず、連続して強力な魔法を放つアビゲイル枢機卿の姿に、村人たちは息を呑んだ。
タリーサは意識を取り戻し、アビゲイルの姿に目を向けた。
「アビゲイル様……」
彼女は疲労の色を隠せないながらも静かに頷いた。
「まだ終わりではありません。我々でこの村を守るのです。父上が見ていますよ!」
その言葉は、タリーサの中に新たな決意を灯した。
タリーサの剣に青い輝きが宿る。
アビゲイルのさらなる聖魔法が剣に力を宿し、男の異常な力に対抗できる武器へと変わったのだ。
男は突進してきた。
赤黒い光がほとばしり、その速さと力は依然として圧倒的だった。しかし、加護を受けた剣がその拳を受け止め、火花を散らしながら押し返す。
「負けない!」
タリーサが叫ぶと同時に、アビゲイルの魔法が男を捕らえた。
「…あなたの力を持って、邪悪を封じ込めたまえ!」
すると男の動きが一瞬止まり、赤黒い光が揺らぐ。
その隙を逃さず、タリーサは渾身の力で剣を振り下ろした。
鋭い一閃が男の胴体を深く斬り裂いた。赤黒い光が大きく揺らぎ、男の動きは鈍くなる。しかし、それでも男は倒れず、断末魔の咆哮を上げながら腕を振り回して抵抗する。
「これで…終わりだっ!」
タリーサは全身の力を振り絞り、剣を胸元に向けて一直線に突き出した。その鋭い刃が男の赤黒く光る胸を深々と貫く。
男の体がビクッビクッと大きく痙攣し、口からかすれたうめき声が漏れる。
「グ…ガァァァァ……」
そのまま男の膝が崩れ、後ろに大きく倒れ込んだ。
その動きに引っ張られるように、タリーサも剣を握ったまま力なく崩れ落ちる。
男の体から漏れ出した赤黒い光が霧散するように消えていく。膨れ上がっていた筋肉は急速にしぼみ始め、異様に浮き出ていた血管も次第に元の形へと戻っていった。
タリーサは荒い息を吐きながら、剣をゆっくりと引き抜く。
顔を上げて天を仰ぐと、大きく息をついた。
(続く)
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★あとがき★
仮面の男との戦いが決着しました。思わず3回に渡って7000文字も書いてしまいました。
聖魔法使いとしてのアビゲイルの凄さも入れたくなったらだいぶ増えてしまいました。
次回、危機は去り、いくつかの疑念が残る・・・




