第9話「解放される呪詛」 - 3
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
風吟の探索者たちが闇市場の奥へと進んでいくと、向こうに立ち上る黒煙を見つけた。その煙は空へ螺旋を描くように立ち昇り、酸鼻な臭いが遠くまで漂っている。
「あっちだ、急ごう」
足を速め、その発生源へ向かう。やがて視界に入ったのは、赤々と燃え、轟轟と音を立てる建物だった。崩れた瓦礫からは時折火の粉が飛び散り、近隣の家々に延焼しそうな危険な様相を呈していた。
「まずい、このままでは周囲の建物も燃えてしまうな」
ロレンディスが荒い息を吐きながら呟いた。
だが、それ以上に彼らを立ちすくませたのは、その建物の前に広がる光景だった。
瓦礫と燃えさしの中、無数の遺体が散らばっている。斬られた者、刺された者、そして燃え尽きる寸前の者たち。生々しい戦闘の跡が、ここで何か恐ろしいことが起きたことを語っていた。
「そんな……ここは地獄か……」
エレサルが震える声で呟く。
ソフィアはその光景を直視することができず、目を閉じて肩を震わせた。だが、タラナーが彼女の肩をそっと抱き寄せたことで、彼女は深く息を吸い込み、再び目を開けた。
「大丈夫か?」
タラナーが低く問いかける。
ソフィアはただ呟くだけだった。
「トーマスは…ここにいない」
ロレンディスは周囲を注意深く観察していた。その鋭い目が血の跡を捉える。
「血痕が二種類ある。それぞれ別の方向に立ち去っている。生存者が近くにいるかもしれないな」
「おい! 誰か生きている者はいるか!?」
エレサルが声を張り上げたが、炎の唸り声がそれを飲み込んでしまう。
どこかに消えていたファエリエが戻ってきた。
「ここを離れよう。衛兵が向かってきてるよ。捕まると厄介だよ」
「こっちだよ」
ソフィアは迷うことなく1つの血痕を選び、歩き始めた。
燃えさかる炎の中で、彼らの影はゆらゆらと揺れていた。
◇ ◇ ◇
夕暮れ迫るカルメサス伯爵の館は、石造りの壁に薄暗い影を纏い、尖塔が茜色の空に黒い輪郭を浮かべていた。
静まり返った廊下では、濃紺の絨毯が足音を吸い込み、壁の甲冑が蝋燭の揺らぎに不気味な生気を帯びている。侍従たちは早足で動き、空気には重い緊張が漂っていた。
「トーマスたちが戻ってきていない? すぐに人を出して探せ!」
マリア・カルメサス伯爵の声が館内に鋭く響いた。
指示を受けて侍従のオリビアが慌てて部屋を出ていく。
その時、執事のレイモンドが部屋に入ってきて低頭しながら追加の報告をした。
「闇市場で数回の轟音が響き渡り、現場周辺は騒然としているとのことです。もしかしたら…」
マリアの鋭い目が彼を貫くように睨みつける。
「それは、まさか新型銃じゃないだろうな? あれが王都で使われたとなったら大変なことになるぞ」
「いや・・・そこまでは分かりません」
マリアは部屋を歩き回りながら苛立たしげに命じた。
「それもすぐに調べろ!」
◇ ◇ ◇
血痕が続く道を行く。
傷の深さを物語るように濃く染み付いた痕跡が、道端の石や瓦礫に点々と残されている。しかし、途中で途切れることもあり、立ち止まらざるを得なかった。
「ここで途切れてる。捕まったのか、それとも何かに隠れたのか?」
ファエリエが地面に膝をつき、指先で土の感触を探りながら呟いた。薄暗い光の中でも、彼女の鋭い目は微かな異常を見逃さない。
「うん、こっちだね。」
ファエリエは小さく息を吐き、再び足を進めた。
と、急にソフィアが話し始めた。
「トーマスは地下で眠ってるよ」
「埋葬されてる映像が見えたのか? ということは手遅れという事か…?」
「タラナー、それは早計だ」
エレサルがすぐに否定した。
「ソフィアが見たのはだいぶ先の未来かもしれない。しかし、トーマスが何故こんな物騒な場所にいるんだ?」
「あ、これかも」
ファエリエが目を細めて暗がりの中を指差す。そこには乾きかけた血の池が広がっていた。
鉄錆びたような臭いが鼻を刺し、目を凝らすと血の飛び散り方が激しく、何かが暴れた痕跡が生々しく残されている。
「これは…かなり出血してるね」
ファエリエが声を潜めながら歩み寄り、血痕の先に立てかけられた木板をじっと見つめた。彼女がそっと木板を倒すと、その背後に隠された扉が現れる。
「施錠されてるけど……問題ないよ」
ファエリエの指先が素早く鍵穴を探り、わずか数秒で小さな音を立てて鍵を外した。
扉の奥には地下へ続く階段が口を開けていた。石で作られた階段は湿気に覆われ、滑りやすそうに光っている。風吟の探索者たちは慎重に一歩ずつ降りていく。
階段の先の部屋からは、微かに人の声が聞こえてきた。壁越しに聞こえる声は断片的で、興奮した様子が伺える。
「・・・だからさ!・・・居るのはヤバいって」
「・・・にでも見つかったら・・・されちまうよ!」
「・・・からにせんか!」
「Zzz…」
ファエリエが静かに扉の下まで這うように進み、鍵が掛かっていないことを確認する。そして、無言の合図で扉を押し開けると、タラナーが先陣を切って部屋に飛び込んだ。その後にエレサルが短剣を構えて続く。
「動くな!!」
タラナーの怒号が室内に響き渡る。
「ひええええ!」
部屋の中には、ド派手な衣装を身に纏った若い女たちが3人と、老人が1人。そして、中央の粗末なベッドに横たわるトーマスの姿があった。
「武器を捨てろ! 変な動きをしたら首をへし折るぞ」
「ひえええ、何も持ってないよ! 助けてよ! アタシらは何もしてないんだよ!!」
女たちは驚きのあまり腰を抜かし、その場に座り込んでいる。
ファエリエが素早く部屋を見回し、彼女たちの手元や足元に危険物がないことを確認する。
「トーマス、居た……!」
エレサルが呟き、息を飲むようにベッドの方に歩み寄った。
そこには顔色の悪いトーマスが静かに横たわり、浅い呼吸を繰り返している。彼の体には包帯が巻かれているが、血が滲み、安静状態とは程遠い。
(続く)
ここまで読んでいただきありがとうございます!
「面白そう」「続きが気になる」と感じましたら、『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけますと嬉しいです!
皆様の応援が作者のモチベーションとなりますので、是非協力よろしくお願いいたします!
★あとがき★
トーマス発見には時間を掛けないことにしました。月影乱華の3人もこれで出番終了かな。
次回、トーマスは激しく動揺します。




