第9話「解放される呪詛」 - 2
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
3人はさらに市場の奥へ進んだ。
いくつか脇道を抜けると、視界の先に錆びた鉄板で補強された頑丈な扉が見えた。
「あの工場です」
アンナが指さした扉は静寂に包まれていたが、中から微かな物音が漏れてくる。エミリーが固く閉じられた扉をノックしたが、返事はない。
アーノルドが裏口に回り、忍び込む。次の瞬間、建物の中からはドワーフたちの驚きの声が響いた。彼は表口を開け、アンナたちを中に招き入れる。
「逃げる準備中だったようです」
薄暗い工場内、埃の匂いが鼻を突く。
部屋の中央には粗雑にまとめられた荷物が積まれ、その間からドワーフの職人と弟子が怯えた表情で顔を覗かせていた。アンナたちの姿を見ると、職人はほっとしたように息をつく。
「なんだ、お嬢ちゃんの仲間か。てっきり殺し屋かと思ったぜ」
声には震えが混じっている。
アーノルドが扉の前で警戒を続ける中、アンナは眉をひそめて尋ねた。
「何があったんですか?」
「ここ一週間くらい前から誰かに監視されてる気がしてよ。一昨日なんざ、見知らぬ男に市場の路地で追いかけられたんだ。こりゃ王宮で何か事情が変わったなと思って、ここを畳むことにしたんだが…」
職人の声は早口になり、目線が落ち着かない。
「例の新型銃が原因ですか?」
ドワーフ職人の表情が一変する。彼はわずかに声を震わせながら、荷物の山を見やった。
「そもそもあの銃はヤバいものだからな…」
「魔族から生きたまま取り出した魔核を使ってるんですよね?」
アンナが言葉を続けると、職人は驚きに目を見開き、その場にへたり込んだ。
「な! なんでそのことを…」
「エルフの魔法使いに教えてもらいました。『相当やばい代物だ、関わりたくない』って言われましたよ」
彼女の冷静な口調が、さらに職人の恐怖を煽る。
「その通りだ…オレは金を積まれて作っただけだが、それでも魔族にバレたら八つ裂きにされる」
アンナは一歩前に踏み出し、鋭い目で問い詰めた。
「誰がこれをおじさんに依頼したんですか?」
「ばかやろう! そんなの絶対に言えるわけないだろ。オレは殺されたかないぜ…」
「…枢機卿でしょ?」
アンナが静かに言い放つと、職人は固まり、驚いた表情で彼女を見上げた。
「そ、そうなのか!?」
「え? 知らないの?」
アンナは呆れたように首を振った。
「はは・・・実は依頼主が誰なのかは知らないんだ」
職人は肩をすくめ、アーノルドがため息混じりに突っ込む。
「なんだよ、紛らわしいな」
「オレに話を持ってきたのは小さい女の子だった。その子が口頭で伝えてきたが、何のことかは分からずに話してた。さらに商人が金を持ってきて、材料は別の奴が運び込んできた。相手はかなり周到に準備して身を隠してやがる」
職人は肩を落としながら荷物の山を見つめる。
「依頼主に辿り着くのは難しそうね」とアンナが呟くと、職人は怯えた目で懇願するように言った。
「もう勘弁してくれよ。ここに居たら殺し屋が来ちまうよ。お前らも無事じゃ済まないぞ」
アンナは少し考えた後、アーノルドとエミリーに向き直った。
「アーノルドさん、エミリーさん。この人たちを街の外まで護衛してください。私も途中まで同行します」
アーノルドが静かに頷く。
「承知しました。アンナ様を無事に市場の外までお送りした後、そのまま彼らを連れて行きます」
職人は目を輝かせ、力強く礼を言った。
「本当か! あんたたちが頼りになるのかは分からんが、ありがたい!」
その言葉にエミリーが意地悪そうに眉を上げる。
「お前、随分と失礼なことを言うのね。そういうこと言うドワーフは殺し屋に差し出そうかしら」
慌てた職人は手を振って訂正する。
「うそうそ、頼りにしてる。じゃあ御礼にとっておきの秘密を教えてやるよ」
興味を惹かれたアンナが促すように尋ねた。
「どんな秘密ですか?」
「魔核の銃は、破壊力が強くて魔族には必中ってだけじゃない恐ろしい力があるんだ。呪詛だ」
ドワーフの弟子も含め、その場の全員が息を呑む。初めて聞く言葉だった。
職人はしばし溜めを作り、おもむろに言葉を続けた。
「呪詛解放、ゼオラス」
「え、なに?」
アンナが眉をひそめる。
したり顔で職人が話を続ける。
「この言葉を発すると呪詛が解放されて、銃を持っている奴の力を異常なまでに引き出し、さらにそいつを支配して操ることが出来るんだ」
さっきまでの怯えた様子が嘘のように職人は胸を張って話す。
「呪詛を解放できるのは呪詛を込めた呪詛者だけ。オレのところには既に魔核を封じ込めた状態で魔鉱石が届いた。だから呪詛者はオレじゃない」
凍りつく空気の中、アンナは硬い声で尋ねた。
「そんな恐ろしいものを…あの銃はもう国境付近の村々に配りまくっちゃってるわよ!! どうやったらその呪詛を阻止できるの?」
「簡単なことだ」と職人は静かに言った。
「呪詛者が死んだら呪詛は発動しない。そして魔鉱石が壊れて普通の銃になるはずだ」
一同はしばらく言葉を失った。
「さあ。知ってることは全部話した。安全なところに連れてってくれ」
アンナは深呼吸をして気を取り直した。
「はあ…背筋が凍ったままだけど…行きましょう」
一行は闇市場の出口まで来た。
日差しが強まり、次第に市場の喧騒が遠ざかる。エミリーがアンナに一礼し、言葉を添える。
「それでは街の外まで送ってきます。数日後に戻ります」
「うん、よろしくお願いします。くれぐれも気をつけてね」
アンナの声には硬さが残っていた。頭の中では、魔核に込められた呪詛の言葉が繰り返し浮かんでいた。
(続く)
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★あとがき★
魔核の銃の新たな恐怖が明らかになりました。ハイファンタジーだけどファンタジーは控えめにしてきたこの物語でこういう設定が出てきたということは、いよいよ核心に近づいているということです笑
★この世界・物語の設定★
呪詛・・・不幸や災厄をもたらす行為や言葉。
次回、風吟の探索者たちはトーマスを探して奥へ。




