第8話「風吟ふたたび」 - 6
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
中に入るとそこは小部屋だった。
薄暗い室内に立つ男は執事の服装に身を包み、その顔は白い仮面で覆われていた。無機質な視線がトーマスたちを射抜き、その存在感だけで圧力を放っていた。
仮面の男は無言のままトーマスとジーナに仮面を差し出した。
2人がそれを受け取ると男は背後の扉を指し示した。
「仮面を着けるなんて貴族の舞踏会みたいだね」
話しかけてみたが、男は何も答えなかった。
扉を開けると、左に曲がる廊下が続いていた。2人は慎重に廊下を進む。
廊下の途中、左右にいくつもの扉が並ぶ。
その一つを見つめたトーマスが手を伸ばそうとすると、ジーナが鋭い声を上げた。
「待ってください。不用意に触ってはいけません」
静止した彼女の詠唱が耳に響き、ドアノブが淡く黄色に光った。
「大丈夫。罠は仕掛けられていません」
しかし、ノブを掴んで回してみたが扉は微動だにしなかった。
「仕方ありません。先に行きましょう」
遂に廊下は行き止まりに着いた。最後のドアがある。
罠がないことを確認し、ジーナがドアを開くと、広間が目の前に広がった。
足を踏み入れた瞬間、肌に感じる空気が違う。
広間の正面には仮面を着けた男が一人、立っている。その左右の壁際には、同じく仮面を纏った4人の影が控えていた。どの顔も読み取ることができない仮面の一団は、静かにこちらを見据えている。
正面の男が手を挙げ、ゆっくりと手招きをした。
その仕草はまるで獲物を誘う捕食者のようで、トーマスの背筋に冷たいものが走る。
「ようこそ。本物と寸分違わない聖典の模造品をご所望なのはあなたですね?」
仮面の男の声は驚くほど穏やかだった。しかしその柔らかさはむしろ不気味で、広間の高い天井にこだまするその響きが、緊張感を倍増させる。
トーマスは喉がひりつくのを感じながら、無理に軽い調子を装って応えた。
「ああ、そうだよ。今日はそれを見せてもらえるのかな?」
だが次の瞬間、男は乾いた笑いを漏らすと、まるで彼の存在を軽んじるかのように言い放った。
「おやおや、坊やは黙っていなさい」
男の言葉がトーマスの声を遮った。男は視線をジーナに向け、仮面の奥の目が笑っているかのような気配を漂わせた。
「私はそちらのレディに話してるのですよ…」
男の指がジーナを静かに指し示す。
「な…」
「なぜ、私に?」
ジーナは思わず声を漏らした。
仮面の男は肩を軽くすくめると、やけに親しげな声で応じた。
「だって、聖典を探しているのは貴女でしょう?」
その言葉を告げると、男はゆっくりとコートの前を開いた。そして腰に携えた剣を抜き放つ。
同時に、壁際に控えていた4人の仮面の者たちが一斉に剣を抜いた。刃先が照明を受けて鋭く煌めき、仮面の奥から覗く冷たい視線がジーナとトーマスを射抜く。
「!!」
ジーナは咄嗟にトーマスの前に出て、懐から2つの剣を抜く。
正面の男が前に歩み出て、低い声でこう言った。
「タリーサ…セルヴィオラ。ここが貴女の墓場です」
その言葉にジーナの眉が動き、次いで視線だけでトーマスを確認する。
(タリーサだって? ジーナを姉さんと勘違いしている!?)
仮面の男たちは左右から徐々に距離を詰めてきた。無言の圧力が2人を追い詰める。動揺するトーマスをジーナが鋭い声で叱咤する。
「トーマス様! 下がって!!」
ジーナは剣を構えながらじりじりと後退し、トーマスを背中で守る。
彼女が小声でトーマスに囁いた。
「後ろの扉にはたぶん鍵が掛かっています。蹴破ってください」
言葉を残すや否や、ジーナは再び敵に向き直る。鋭い目が仮面の奥に潜む敵意を睨みつけた。
詠唱が始まる。ジーナの声は廊下に響き、空気がざわめいた。
「火の精霊イシュナリエルよ! 我が剣にその力を宿し、敵を業火に包め!」
2本の刃が赤々と燃え盛る炎に包まれた。それに呼応して広間の燭台の炎も大きくなる。
ジーナが鋭く剣を振ると剣先から火球が放たれ、鋭い軌道を描き、正確に敵を捕らえた。
「ぐああああ」「何をしている! 消せ、早く消せ!」
仮面の男たちが火に包まれ、床に転がる。炎はまるで生き物のように彼らにまとわりつき、その叫び声が廊下にこだまする。
「今です!!」
ジーナの檄を受けてトーマスは背後のドアに走る。
助走をつけ、全力で蹴りを叩き込むと、ドアは鈍い音を立てて裂け、木片が飛び散った。
「小僧が逃げるぞ!」
背後で響く怒声と金属の衝突音がトーマスの鼓動をさらに速める。彼の耳にはジーナの声が届いた。
「走れ!!!」
その叫びは激戦の音にかき消されることなく、鋭く彼を突き動かした。振り返ると、ジーナが炎をまとった剣を振るいながら、敵の攻撃をいなし続けている。
「ジーナさん!」
ジーナの攻撃をかわした2人がトーマスに向かって走ってくる。
それを見て廊下に飛び出したトーマスは、息を切らして全力で駆け出す。
心臓の激しい鼓動を感じながらも、彼は振り返らずに走る。
背後では、ジーナの叫び声と激しい戦闘音が響き続けていた。
(続く)
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★あとがき★
聖典レプリカの取引情報は罠でした。しかもタリーサが現場に来たと勘違いされている。大きな陰謀が姿を現してきています。
次回、走るトーマス、守るジーナ、建物の外にいたニコラスたちにも魔の手が。




