第8話「風吟ふたたび」 - 5
※生成AIで作った画像を挿絵に使っています。その為一貫していない部分がありますが雰囲気モノとしてご容赦ください。
冒険者パーティ「風吟の探索者」は引き続き王都に滞在していた。
「なあ、もうトーマスに会って魔核の話を伝えたんだし、いいだろう? 早くこの石の牢屋みたいな街から出ようぜ」
修道僧のタラナーは、何日も都会暮らしが続いてイライラし始めていた。
エルフたちは元来、自然と調和した暮らしを好み、石造りの都会には馴染みにくい性分を持っている。
タラナーの苛立ちはその典型だったが、今回に限ってはただの都会暮らしのせいだけではないようだった。エレサルもロレンディスも、普段以上に神経質で落ち着きを欠いていた。
「耐えろ…私も辛い。だがソフィアがどうしてもまだ残ると言って聞かないんだ…」
弓使いエレサルはベッドの上で目を閉じ、正座して気を鎮めていた。
魔法使いロレンディスは窓際の椅子に腰掛け、外を眺めている。
彼はカルメサス伯爵家で魔核の話を聞いて以来、ずっと考えごとをしている。その指は速い調子で窓枠をトントンと叩き、苛つきを露骨に表していた。
そんな3人に構うことなくソフィアは、ロレンディスの隣の窓に日時計を置いて遊んでいる。
「♪〜」
イリアーデイの領主ヴァリンドール公爵から褒美でもらった日時計をソフィアは大事にしていた。
時間間隔が人と違うソフィアは、誰に対しても平等に時を刻む時計に強い関心があった。
「なんだか…エルフって生きるの大変だね〜」
「「「うるさいっ!!」」」
ファエリエの無邪気な発言はあまりに不用意だった。
「しっつれいしました〜」
ハーフリングはその小さい背をさらに縮めてドアの方に駆けると「ちょっと散歩してくるよ」と言い残して、雰囲気の悪い部屋から逃げ出した。
バタンと閉じたドアを振り返り、ソフィアは「トーマス、別れは悲しいね。でもだから手に入る物があるんだよ」と呟いた。
◇ ◇ ◇
教会グッズ屋の店員に教えてもらった場所は闇市場の中でも最奥のエリアだった。
「まずはオークションへの参加許可をもらう面接だそうです。2名しか入れないとの事。さすがに慎重ですね」
ヴェロニカの話を受けてジーナは計画を立てる。
「建物の中と外、両方で警戒する必要があるな。トーマス様と私が中に入り、私は秘書役を務めます。ニコラス隊長とヴェロニカは外で退路を確保してください」
「やった! 隊長と2人っきり。ジーナ、ナイスアシスト!!」
「おい、ジーナ、決めるのは私だぞ!」
仲の良いやり取りに、トーマスの緊張も少しほぐれた。
路地裏の石畳はところどころ壊れて土が剥き出しになっていたり、崩れた家屋が道の半分を塞いでいたりする。
盗まれた物と思われるカラの鞄が道端に捨ててあり、血痕の赤黒い汚れが広がっている壁がある。
明らかに表通りとは違うその様子に全員がひりつくものを感じていた。
このような空間では、ただ立っているだけの浮浪者も刺客か何かのように見えてくる。
「ハッキリとした敵が目の前にいない分、戦場より緊張しますね…」
ヴェロニカの声にもその緊張は表れていた。
と、そこへ何やら曲がり角の向こうから物騒な声が聞こえてきた。
「おい、じじい。ここはアタシらの縄張りだと知ってんだろう?」
「い、いや、ここが縄張りだなんて…」
「くだらないモノを並べて…こんなもん誰が買うんだよ」
ガシャーン!!
「あああ、やめてくれ…」
「アタシら月影乱華を舐めてると、こうなるのさ!」
曲がり角の先にいたのは、先日トーマスに絡んでアッサリ撃退された女ギャングたちだった。
彼女たちは老人の露店を蹴り倒し、商品や釣り銭などを撒き散らして勝ち誇った顔で立っていた。老人は散らかった金を必死に集めている。
ここは闇市場。落ちた金は誰のものでもなくなる――そんな暗黙の掟がまかり通る場所だ。老人は必死に地面に這いつくばり、散らばった金を体で覆うようにして守っていた。
「また、お前らか…」
ジーナがため息をつきながら一歩前に出る。
「なんだぁ? アタシらの商売…に口出す…のは…お前たち!! 逃げろっ!!!」
月影乱華の面々は、全速力で逃げていった。
「大丈夫ですか?」
トーマスが老人に駆け寄る。
ニコラスが金欲しさに集まってきた人たちを追い払い、みんなで落ちた金を拾い集めた。
「ありがとう、ありがとう…」
老人は感謝しながらも、トーマスたちにさえも警戒している様子だった。
それを察して彼らはすぐに身を引いた。
やがて目指す建物が見えてきた。
それは、この界隈では不思議なほど綺麗に管理されている石造りの建物で、入り口は狭いが奥行きはかなりあるようだった。
「あれだ。ジーナ、トーマス殿を頼んだぞ」
「御意」
ニコラスが指示を出すと、ヴェロニカと建物の周囲の偵察に出発した。
ジーナがトーマスの前に立って店の扉を開けた。
中は真っ暗だった。
「ここ…で、いいんだよね?」
「奥に扉があります。行きましょう」
暗い曲がりくねった廊下を進むと突き当たりに扉があった。
グッズ屋の店員に教えてもらった通りの回数、ノックをして待つ。
少しして中から「何人?」と声がした。
これも暗号だ。自分たちが何人だろうと答えは決まっている。
「8人」
ガチャっと鍵が外され、扉が開いた。
「中へどうぞ」
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★あとがき★
風吟再びとしているので彼らを登場させますが、エルフ3人がソワソワしていたり、ソフィアが意味深なことを発したりと不穏醸し出し役に回っています。
次回、トーマスたちが踏み込んだ場所は・・・




