第50話
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「さあて……始めますか、ねえ」
俺はゴキ、ゴキ、と首を鳴らすと、アルザに向けて手をかざした。
「っ! くそっ!」
すると、俺がアルザに何かすると思ったのか、公爵が剣を抜いて俺へと詰め寄ろうとする。
だが。
「行かせん!」
それにいち早く気づいたベルが、俺と公爵の間に立ちはだかった。
そして。
「メルザ様。一応お聞きしますが、弟君の意志ではないとはいえ、その存在がメルザ様を苦しめ、あまつさえ実の父親であるバルセロス公爵によって生贄にされようとしてたんです。それでも、弟君を助けたいですか?」
俺の傍まで来たメルザ様に、俺はあえて心にもない言葉を告げた。
答えなんて、分かり切っているのに。
「ジル……お願い、アルザを助けてあげて!」
ほら、な?
メルザ様は、こういう女の子なんだ。
だから、俺はメルザ様が大好きなんだ。
「分かりました……ではメルザ様、上手くいくようにお力をお貸しいただけますか?」
「どうすればいいの……?」
「簡単です。魔法適正の時と同じように、私の背中を押して欲しいのです」
「! う、うん! そんなこと、お安い御用だよ!」
そう言うと、メルザ様は両手を俺の背中にそっと当てる。
そして。
「「がんばれ! ジル!」」
ああ……俺のために、メルザ様とベルが応援してくれる。
だったら……やるしかねえ!
俺は改めてアルザに両手をかざし、“聖属性魔法”を念じた。
……あの時と同じように、背中が熱くなるのを感じる。
そしてその熱は、背中から肩、腕と伝っていき、掌へと集まっていく。
「これ、は……」
公爵の呟きが聞こえる。
それもそのはず。
公爵はこの“聖属性魔法”の光を、初めて見るんだから。
荘厳で温かい光が、アルザの全身を包む。
すると。
「っ! アルザ!」
アルザを見たメルザ様が叫ぶ。
だって、干からびた木のようだったアルザが、まるで水を吸い込むかのようにみるみると生気を取り戻していくのだから。
「……ふう」
もう、大丈夫だろう。
何せ、アルザはメルザ様と同じような姿を取り戻したんだから。
「終わりました」
俺はクルリ、と振り返ると……瞳に涙を溜めたメルザ様が、じっと俺を見つめていた。
「ジル……ジル、ありがとう……!」
「何を言ってるんですか。メルザ様が俺の背中を押してくれたから、ベルが俺を護ってくれたから、弟君を救えたんです」
そう言って、俺はニコリ、と微笑むと。
「「ジル!」」
「おわっとお!?」
メルザ様とベルから同時に抱きつかれ、俺は思わず尻もちをついてしまった。
「うふふ……さすがはジル、ね」
「……私は不本意ですが」
おい、聞こえてるぞテオ公。
ちょっとは殿下みたいに褒めろよ。
すると。
「お……おおおお……!」
突然、バルセロス公爵が号泣すると、フラフラとアルザの元へと近づいて行く。
それを見た俺は。
「メルザ様、さっさとこんなところ出ましょう」
「ジル……?」
俺の言葉に、メルザ様がその可愛い顔をくしゃくしゃにしながら覗き見る。
……この俺が、メルザ様のお気持ちに気づかない訳、ないだろう。
それに、俺だってはらわた煮えくりかえってるんだ。
だって、同じ子どもであるはずのメルザ様には平気でその命を差し出せとのたまうくせに、助かったアルザにはそんな態度見せるだと? ふざけるな!
だけど。
「いいえジル、あなた達はまだここから出ちゃダメよ?」
「っ! 殿下!」
殿下の言葉に、俺は声を荒げて睨みつける。
すると殿下は、クスクスと笑いだした。
「あらあらジル。あなた、これから楽しい余興が始まるのに、それを特等席で見たくないの?」
「余興?」
殿下は一体何を言っているんだ?
その時、ガチャガチャと騒がしい音が下の階から聞こえた。
「あら、お着きになられたようね?」
「「「?」」」
俺とメルザ様、ベルは状況が全く理解できず、思わず首を傾げる。
すると。
――バタン。
「国王陛下の御成りである! 控えよ!」
立派な甲冑を来た、髭を生やした屈強な中年の騎士が勢いよく部屋の扉を開け、とんでもないことを宣言したぞ!?
というか、あの騎士って……!?
「お、お父様!」
ベルが中年の騎士に向けて声を放つ
そう……この騎士こそ、エストレア王国最強とうたわれた騎士団長、アロンソ侯爵その人だった。
だけど騎士団長様、部屋に入るなり今にも俺を捻り殺してしまいそうなほど殺気を放ってくるのは何でですかね?
そして。
「陛下……お待ちしておりました」
「うむ」
エリザベッタ殿下が恭しく頭を下げると、威厳そのままに静かに頷いた人物こそ、入学式でもお目に掛かった、国王陛下がお越しになられた。何で? ねえ何で!?
「さて……バルセロス公」
「は……ははっ!」
突然の国王陛下のご登場に、さすがにバルセロス公爵も冷汗を流しながら膝をつく。
「我が娘、ベルナデットから聞いた話では、公は筆頭宮廷魔術師のアルバに“魔力供給”なるものの研究を依頼した。しかも、それによって我が国民に害が及ぶこともいとわず……間違いないか?」
「……は」
「他にも、フェルナンデス家から国外の毒薬などを買い求めていると聞いているぞ?」
「…………………………」
うわあ、まさに公開処刑状態だな……。
んで、殿下は顔面蒼白の公爵を見て、ニヤニヤと笑みをこぼしている……性格悪い。
「陛下……今回の件、まさに陛下の治世を脅かすような行為かと……」
「へ、陛下! 決してそのようなことは……!」
いや公爵、今さら言い逃れ無理だろ。
一応、殿下が陛下に伝えた体を取ってるけど、初めから陛下も色々とご存知だよね?
「ふむ……となると、いかに多大な功績がある公とはいえ、処分せぬわけにはいかぬな……」
ウーン、ともっともらしく唸り声を上げる陛下……ウソ臭い。
「うむ、ではバルセロス公については爵位を一つ落とし、侯爵とする。もちろん、一部の財産と領土も没収じゃ」
「っ! ……は」
王の沙汰に、バルセロス公爵は一瞬だけ目を見開いた後、静かに返事をした。
少し処分が甘いんじゃないかとも思ったが、その辺のさじ加減は俺には分からんからいいや。
「次に……ジルベルト、といったか?」
え!? 俺!?
「お主は聖属性魔法の使い手と聞くが……」
「は、恐れながら……」
う、うおお……緊張する……。
「陛下、そのことで申し上げておきたいことが……」
「なんじゃ、エリザベッタ?」
ここで殿下が横やりを入れてきた。
お、俺のことで何かあるの!?
「このジルベルト、聖属性魔法の発動には、条件がございまして……」
「ふむ? 条件とは?」
陛下は訝しげな表情で殿下に続きを促す。
「はい……どうやら、二人の女性の想いで発動するようです」
「「え!?」」
そう言うと、殿下はメルザ様とベルを見やった。
「国益を考えますと、ジルベルトの傍には常にこの二人をつけておく必要があるかと」
「おお、そうだな。うむ、そうするが良い」
「はい」
まるで妙案だとばかりに陛下が掌をポン、と叩く。
いや、やっぱりこれ、初めから出来レースだろ。
そして騎士団長様、お願いですからそんなに睨まないでください。
「「ジル……」」
メルザ様とベルが、膝をついて頭を下げたまま、頬を赤く染める。
い、いやその……お、俺だって二人といつも一緒にいられたら……うん……ねえ……?
「うむ。では詳細については改めて沙汰を出す」
そう言うと、陛下は踵を返し、部屋を出て行く。
「……貴様、娘は絶対にやらんからな(ボソッ)」
「ヒイイ」
騎士団長に完全にロックオンされてしまった……。
お読みいただき、ありがとうございました!
いよいよ次回で一区切り!
明日の夜投稿予定です!
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