第49話
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「うふふ、ごきげんようジル、そして……メル」
振り返ると、優雅に羽扇をあおぐエリザベッタ殿下が、そこにいた。
「…………………………」
で、その傍らにはテオ公が無言で控えている。
「で、殿下……一体どうしてここに……?」
俺は恐る恐る殿下に尋ねると。
「あらあら、今日一日、あれだけ仏頂面していながら、余に気づかれないとでも思っていたのかしら?」
羽扇で口元を隠しながら、目を細めて俺を見つめる殿下。
あれ、絶対俺のこと馬鹿にしてるだろ……。
「……絶対に諜報部には向かない」
うるせ。
テオ公だって、俺にすぐ正体ばらされたくらいで動揺してる時点で、お前も不合格なんだよ。
「っ! いたぞ! 早く捕まえ……エ、エリザベッタ殿下!?」
慌てて庭に降りてきた公爵がやってくると、ここにおわす殿下に気づいたのか、思わず棒立ちになった。
「あら、ごきげんよう。バルセロス公」
「……ご機嫌麗しゅう……殿下」
公爵は胸に手を当て、渋々会釈をした。
フフフ、さすがに殿下のいる手前、荒事みたいな真似ができねえよなあ。
「さて……余は婚約者である“アル”が実家に帰ったと聞いたものだから、心配になって急いで駆けつけてきたんだけど……バルセロス公、“アル”に会わせてもらえるかしら?」
「っ!?」
おおう、殿下ったら意地悪な要求するなあ。
メルザ様がここにいる以上、床に伏せるアルザに会わせることなんてできねーもんなあ。
「あ、そ、それが……アルトレーザは少々立て込んで……「バルセロス公?」……は、すぐに」
殿下に冷たい視線を向けられ、観念したバルセロス公は言い訳を止めてアルザに会わせることにしたようだ。
……さて。
「(メルザ様は、弟君のアルザ様とはどのような関係なのですか?)」
俺は抱きかかえるメルザ様の耳元でそっとささやくと。
「(う、うん……それはもちろん双子の姉弟、って、そういうことじゃないよね。一応、二、三度会ったことはあるけど、会話もしたことがないんだ……)」
「(そうですか……)」
そう言うと、メルザ様は少し悲しそうな表情を浮かべて視線を落とした。
ふむ……メルザ様自身はアルザとは仲が悪い、って訳じゃないんだな。
だったら……一度、試してみてもいいかもな。
「じゃあ、案内してくださる?」
「どうぞ……」
おっと、殿下がアルザの元へ向かうようだ。
俺達も……って。
「ベ、ベル!?」
「むむむむむむむむ! メルザ殿は別に一人で歩けるだろう! さっさとジルの腕から降りたらどうなんだ!」
お、おお……そりゃそうだな。
俺はメルザ様を下ろそうと、そっと地面へと近……って。
「メ、メルザ様!?」
「やだ」
メルザ様は顔を背けると、俺の首に両腕を回し、離れようとしないんだけど……。
「ほ、ほほう……? メルザ殿はジルが疲れているにもかかわらず、そのように迷惑を掛けるのが趣味のようだな……?」
「ジ、ジルは別に迷惑だと思ってないようだけど?」
う、ううう……メルザ様とベルが一触即発の状態なんだけど……。
「「ジル!」」
「は、はい!?」
「ジルはもちろん迷惑だよな!」
「ジル、そんなことないよね!」
あああああ! 俺にどうしろっつーんだよ!?
「うふふ、しばらくこのまま見ていたい気もするけど、今はそれどころじゃないから、メルはジルから降りなさい?」
殿下がニヤニヤしながらメルザ様を窘めた。殿下……ナイスアシスト!
「(……うふふ、後で余にも抱っこしなさい)」
……前言撤回。俺には修羅場しか用意されていないようだ……。
まあ冗談はさておき、俺達は公爵の案内の元、いよいよメルザ様の弟、アルザとご対面だ。
先行して前を歩くメイドの手によって、扉が開かれる。
そこには。
「っ!?」
「な、なんなのだこれは……」
「…………………………」
そこには、腐りかけた古木のようなものが、部屋の中央にあるベッドに横たわっていた。
「あ、あれが……アルトレーザ=エル=バルセロス……メルザ様の、弟……」
そのあまりの姿に、誰一人、満足に口を開くことができなかった。
ただ一人、バルセロス公爵を除いて。
「……殿下、ご満足いただけましたでしょうか?」
「え、ええ……」
いつもは堂々として不敵な笑みを湛えるあの殿下でさえ、ただアルザを見つめるだけ。
メルザ様は……。
俺は隣にいるメルザ様の顔を覗くと……とてもつらそうな表情を浮かべていた。
ご安心下さい……このジル、必ずや……!
「っ!? ジル!?」
メルザ様が驚きの声を上げる中、俺はツカツカと足を進める。
まるで、近所に買い物でも行くかのように軽い足取りで。
「貴様あっ! アルトレーザに近づくなあっ!」
ウルサイ。
俺は叫ぶ公爵を無視し、そのままアルザの傍に寄った。
「さあて……始めますか、ねえ」
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次回は明日の夜投稿予定です!
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