第45話
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「アルトレーザ様は、本日ご実家にお帰りになられました」
急いで寮に帰ってきた俺を無表情で出迎えたイザベルさんから、予想しない答えが返ってきて、俺の身体が固まった。
「イ、イザベルさん……今、何と……?」
「アルトレーザ様は、ご実家であるアルトレーザ家へとお帰りになられました」
聞き直しても、イザベルさんの表情は変わらない。
俺は、そんなイザベルさんの態度を見て、怒りだけがこみ上げてきた。
なんでアルザ様を行かせた! なんでアルザ様をお止めしなかった!
気がつけば。
「ふざけんなよ! アルザ様の一番傍にいたアンタがなんで……!」
俺はイザベルさんに詰め寄り、罵詈雑言を浴びせかけていた。
それでも、イザベルさんの表情は変わらない。
そして。
「ジルベルト様、こちらを」
イザベルさんは、ス、と俺に差し出した。
これは……手紙?
「“お嬢様”からのものです」
気勢をそがれた俺は、拍子抜けしたようにその手紙を受け取ると、封を開けた。
◇
——親愛なるジルへ
キミがこの手紙を読んでいる時には、僕はもうバルセロス領の敷地内に入っている頃だと思う。
せっかくキミが、ボクのためにそこまで心を砕いてくれたというのに、裏切るような真似をしてしまって、ごめんなさい。
でも、ボクはキミに迷惑を掛けたくなかったんだ。
もしキミの提案通りボクを匿ってしまったなら、キミのご実家がバルセロス家に勝利したとしても、少なからず失うものだってあるはずなんだ。
ボクには、それが耐えられない。
ジルがほんの少しでも不幸な目に遭うなんて、耐えられないんだ。
元々ボクの我儘でジルをエルシド寮に入寮させたり、大切なタキシードを汚したり、酷い言葉を投げかけたり……。
そんな最低なことばかりしてきたボクが、今さら何を言ってるんだって話だけどね。
それに、本当はボクはキミに逢ってはいけなかったんだ。
キミに……ずっと大好きだったキミに逢ってしまったら、ボクはただ迷惑しか掛けないことは分かっていたのに。
だから、ジルとはここでお別れします。
ジルはボクのことなんか忘れて、どうか幸せになってください。
遠くから、キミの幸せを願っています。
アルトレーザ=エル=バルセロス改め——
◇
「——“メルトレーザ=エル=バルセロス”……」
俺は最後まで読み終わると、手紙をクシャ、と乱暴に握り締めた。
そして。
——ゴガッ!
……寮の壁に、拳を思い切り叩きつけた。
「何だよ……何だよこれ! 俺がいつ迷惑だっつったんだよ! 俺と逢っちゃいけないって何なんだよ! 俺は……俺はずっと逢いたかったよ! 本当の……メルザ様に……!」
俺はその場で膝をつき、床を何度も叩く。
悔しくて、ただ、悔しくて。
すると。
「ジルベルト様」
いつの間にか俺の傍にきていたイザベルさんが、真剣な表情で俺を見据えた。
「……何だよ」
「お嬢様は既にバルセロス家のお屋敷に入られているかと」
「それが何だよ」
「……まもなく、お嬢様は弟君であらせられます“アルトレーザ”様にその魔力をお与えになります。その命とお引き換えに」
「っ!?」
弟!? アルトレーザ!?
「おい! それはどういうことだ!?」
「……全て、お話しいたします」
それから、イザベルさんは要点を掻い摘んで説明してくれた。
メルザたんにはアルトレーザという双子の弟がいること。
この弟のほうは生まれつき魔力がほとんどなく、常に床に臥せっていること。
そんな状態にもかかわらず、バルセロス公爵は権力拡大のために王家へ根回しし、エリザベッタ殿下とアルトレーザの婚約を取りつけたこと。
だが、病弱なアルトレーザが殿下と面談などできるはずもない。
そこでバルセロス公爵は、アルトレーザの“スペア”として、メルザたんをアルトレーザに偽装したこと。
その間に、アルトレーザの病状改善を図る手筈を進めていたが、魔力がほとんどないという根本的な問題を抱えており、その改善は不可能だったこと。
だが、今までメルザたんを“スペア”にして王家を騙していたことが露見すれば、権力拡大どころかその立場すら危うい。
そこでバルセロス公爵は、アルバ伯爵に頼った。
莫大な資金提供を行い、魔力の総量を増やすための研究を依頼したのだ。
そして、その資金と研究者としての欲から、アルバ公爵はその依頼を受諾した。
「……どのような研究なのか、詳細までは聞かされておりませんが、双子の姉であるお嬢様の魔力ならば、アルトレーザ様に魔力をお与えすることができる、公爵閣下はそうおっしゃいました……」
知っている全てを話し終え、イザベルさんが俯く。
「ジルベルト様……何もできなかった私がこんなことを申し上げるのはおかしいのですが……どうか……どうかお嬢様をお救いくださいませ……!」
……本当に、勝手なこと言いやがって。
だけど。
「ハナからそのつもりだ! アンタ、今すぐ馬を調達できるか?」
「っ! は、はい!」
俺は乱暴にイザベルさんに尋ねると、彼女はパッと顔を上げ、必死に首を縦に振った。
そして、俺はイザベルさんに寮の裏へと案内されると。
「どの馬でも、ご自由にお選びください」
「そんなモン、選んでる暇ねーよ! どれが一番速いんだ!」
「は、はい、その黒鹿毛の馬が……」
イザベルさんが言い切る前に、俺はサッサと鞍を乗せて馬に跨った。
そんな俺に向かって、イザベルさんはただ、深々と頭を下げていた。
「……行ってくる……!」
俺は馬首を返し、学園の門を目指して馬を走らせる。
そして、目の前に門が見えた、その時。
「ジル!」
俺を呼び止める声……それは、ベルの声だった。
お読みいただき、ありがとうございました!
次回は明日の夜投稿予定です!
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