第43話
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「ただいま帰りました」
エルシド寮に戻り、誰ともなく声を掛ける……うん、何の反応も返ってこない。
べ、別に寂しくなんかないんだからね!
そんな冗談は置いといて。
俺は真っ直ぐにアルザ様のお部屋へと足を進める。
すると。
「……ジルベルト様、アルトレーザ様は今、所用のためお会いできません」
なぜかアルザ様の部屋の前で佇んでいたイザベルさんが、無表情で一言そう告げた。
「あ、ああ……そうですか……」
俺はイザベルさんに特に抗議することもなく、ただ頷いて自分の部屋へと戻った。
というか。
「だったら、窓から直接お伺いすればいいだけだからな」
部屋に戻った俺はそう呟くと、部屋の窓を開けて身を乗り出す。
アルザ様の部屋は俺のすぐ隣だし、移動するなんてわけない。
何と言っても、船の上と違って揺れたりしないんだからな。
俺は建物のレンガの隙間やへりに指や足を掛けながら、蜘蛛みたいに伝ってアルザ様の部屋へと向かうと。
――コンコン。
アルザ様の部屋の窓をノックした。
さあて、アルザ様が出て来てくださるといいんだけど……。
すると。
――ガチャ、キイ……。
窓が開き、アルザ様が顔を出してキョロキョロと当たりを見回し、そして。
「っ!? ジ、ジル!?」
「はは、失礼いたします」
アルザ様が驚いて固まっている隙に、俺は開いた窓に手を掛けると、素早く部屋の中に入った。
「な……なな……!?」
アルザ様がわなわなしながら俺を指差す。
俺はというと、悪戯を成功させた子どものように、無邪気に笑って見せた。
このほうが、アルザ様も本当のアルザ様に戻ってくださるような気がしたから。
「……ぷ」
「クク」
「「あはははははははは!」」
ほら、やっぱりアルザ様は仮面を被れなかった。
「あー……負けた! 負けたよ! こんな登場の仕方、反則だよお!」
「お気に召していただけましたか?」
「最高!」
アルザ様はお腹を押さえながら、右手でサムズアップした。
ああ……本当の、アルザ様だ……。
「……はあ、本当にジルは……」
笑い過ぎて瞳に溜まった涙を指で掬うと、アルザ様は苦笑いした。
「俺はアルザ様の一の部下ですから、アルザ様のことは何だってお見通しですよ? それこそ、アルザ様をこうやって楽しませることだって、いくらでもできてしまいます」
そう言うと、俺は膝をつき、アルザ様に恭しく頭を下げた。
「あ……そ、そのことなんだけど……「アルザ様」」
すると、アルザ様は急に声のトーンを下げて何かを言おうとしたので、その名を呼んで遮った。
「俺は、アルザ様のお傍を離れるつもりはございませんので。それこそ、アルザ様のご意思を尊重するつもりもございません」
俺は顔を上げ、困った表情のアルザ様の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「なんで……」
「なんで、とは?」
唇を噛むアルザ様に、あえて俺は聞き返す。
「なんで……なんでジルはこんなボクに仕えようとしてくれるの? なんで、あんなにたくさんの酷いことをしたボクにそんなに優しく見つめてくれるの……?」
そう言うと、アルザ様の瞳から涙が零れた。
「決まってます。アルザ様が……本当は、誰よりもお優しいアルザ様が、俺には誰よりも大切だからです」
「っ!?」
俺がそう告げると、アルザ様は口元を押さえて息を飲む。
そんなアルザ様を見て、俺は……。
「アルザ様……」
「あ……」
立ち上がった俺は、アルザ様の小さくて華奢なそのお身体を……そっと抱き寄せた。
「アルザ様……お慕いしております」
そして、アルザ様の耳元でそっとささやいた。
すると。
「っ! ジル、今すぐ離れて……!」
俺の腕の中で、アルザ様が悲痛な表情で必死にもがき始めた。
まるで、自分が幸せになることから逃れるために……幸せになってはいけないと、自分に言い聞かせるために。
「いいえ、離しません! 絶対に……絶対に!」
俺はそんなアルザ様を抑え込むために、抱きしめる力を強めた。
しばらくすると、アルザ様はもがくのを止め、今度は……俺に抱きついてきた。
「じゃあ……じゃあ、どうすればいいの? ジルとずっと一緒にいられないのに、ボクはどうすれば良かったの……?」
アルザ様は胸の中で震えながら俺の顔を覗き込む。
そんなアルザ様の顔は涙で濡れて、くしゃくしゃで……。
だから、俺はそんなアルザ様に魔法をかける。
「アルザ様……俺はずっと、アルザ様のお傍におりますよ……?」
「ウソだ……そんなの無理だもん……」
どうやら魔法の効き目がいまいちだったようだ。
仕方ない……なら、もっと強力な魔法の言葉を投げかけよう。
「無理じゃありませんよ……だって、俺はあなたを攫うことにしましたので」
「……攫う、って……?」
魔法の言葉が効いたのか、アルザ様はまた俺の顔を見つめる。
「ええ、俺はあなたを攫って、フレイレ家にお招きしようと思います」
「っ!? そ、そんな! そんなことしたら、ジルの家が!」
俺の言葉に嘘がないことが分かったんだろう。アルザ様が必死で俺を窘める。
「ご心配なく。我がフレイレ家は、バルセロス公爵家ごときに負けるほど、弱くはありませんよ」
俺はアルザ様に心配させないように、わざとおどけてそう話す。
「ジルはうちの家のことを知らないからそんなことが言えるんだ! バルセロス家は……「関係ありませんよ。俺は、あなたを“魔力供給”などというくだらないものの犠牲にはさせない、それだけです」」
そう告げると、アルザ様は驚いた表情で俺を見る。
やっぱり……俺の推理は当たったみたいだ。
「あ、ど、どうして……」
「はは、どうです? あなたの部下は優秀でしょう?」
俺はアルザ様にウインクすると、アルザ様がそっと視線を落とした。
「ホントに……優秀過ぎるよ……」
「ええ、ですからアルザ様はご心配なさらず。アルザ様さえ頷いていただければ、俺が必ずアルザ様をお救いしますので……」
俺は決意を込め、アルザ様を抱き寄せると……。
「ジ、ジル……」
アルザ様の額に、そっとキスをした。
「俺はあなたに誓います。必ず、あなたをお救いすると……ですから、私と一緒に来ていただけますか……?」
俺はニコリ、と微笑みながらアルザ様にそう伝える。
すると。
「…………………………うん」
頬を赤らめ、アルザ様は静かに頷いた。
「ありがとう、ございます……」
俺は抱き締める腕をほどいてアルザ様を解放すると、アルザ様は名残惜しそうな表情をした。
そして、部屋の窓に手を掛けて身を乗り出すと。
「決行は明日の夜。今日と同じように、この窓からアルザ様をお迎えにあがります」
「分かった……」
「では……失礼します」
俺は窓から部屋を出ると、自分の部屋へと戻った。
お読みいただき、ありがとうございました!
次回は明日の夜投稿予定です!
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