第39話
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「ジ、ジル!」
突然、ベルが俺の頭を抱き締めた。
「ベル様……どうされたんですか……?」
そんなベルに、俺はただ静かに尋ねる。
すると。
「どうしたもこうしたもない! ……今、こうしないとダメだと思っただけだ」
そう言うと、ベルはギュ、と抱き締める力を強めた。
ああ、チクショウ……ベルのくせに俺の心の中、読み取るんじゃねえよ……。
しばらく抱き締められた後、俺はベルの背中をポンポン、と優しく叩いた。
「……ありがとうございます。もう、大丈夫ですから」
俺は彼女にそう告げると、ベルがまるで今にも泣き出しそうな表情で俺の顔を覗き込んだ。
「どうやら……本当のようだ、な」
そう言うと、ベルはフウ、と安堵の溜息を漏らした。
「それで……ジルはどうするつもりなんだ?」
「決まっています……バルセロス公爵が一体何を考えているのか、何の目的があってそんなものを求めているのか、突き止めるまでです」
俺は決意を込めた表情でベルに答えた。
「……では、アルトレーザ殿にこのことを?」
「いえ……別のルートから調べようかと」
「別のルート?」
かぶりを振って答えると、ベルが怪訝な表情を浮かべて聞き返した。
「ええ……こうなったら、どんな伝手も使いますよ。殿下やテオ様、そしてもちろん、トニア様も」
そう言うと、俺は俯いたままのトニアを見た。
すると、俺の視線に気づいたトニアは、真っ青な表情になってヒッ、と息を吸い込んだ。
「ジル、落ち着け……何も、トニアが悪いわけではないだろう……」
「ベル様……」
ベルが俺の肩に手を置き、優しく語り掛けるように窘める。
ああ、どうやら俺は冷静になり切れていなかったらしい。
「私もお父様を通じてバルセロス公爵様アルバ伯爵様に探りを入れてもらおうと思うが……?」
ベルがおずおずと尋ねる。
多分、騎士団長にこの話を伝えて良いか、確認のためだろう。
なら。
「はい……お願いできますか?」
「ああ! 任せろ!」
ベルは居住まいを正し、ドン、と胸を叩いた。
本当に頼もしい。
「で、トニア様」
「は、はい……」
「ご実家に一旦お戻りいただき、伯爵様の研究資料の一部……特に、いつ頃その“魔力供給”の成果を公爵様に披露するのか、それが分かるものを入手してください」
「っ!? そ、そんな! お父様は資料を厳重に管理なさってて、私じゃそれ「トニア様」……わ、分かりました……」
否定しようとしたトニアに俺は一睨みしながらその名を言うと、トニアは目を泳がせながらも渋々頷いた。
こうなった以上、トニアにできないだの何だの、そんなことは言わせない。
「私も私で、別に調べますが……お二人共、くれぐれもアルザ様や公爵家の方々に気づかれたりするような真似はしないでくださいね?」
「ああ、心得ているよ」
「……うん」
頷く二人を見ながら、俺は拳を強く握り締める。
アルザ様……。
俺が……俺が、あなたを必ず……!
◇
「ふう……」
その日の夜、俺は部屋で一通の手紙をしたためると、三つ折りにして封筒に入れ、蝋で封をした。
後は、これを実家に送るんだけど……。
「ああ……これ、ヘタすると最悪バルセロス公爵と戦争になるぞ……」
そう考えると、俺のお腹がキリキリ、と痛みだした。
「だけど……やるしかねえ。そうじゃないと、アルザ様が大変なことになる……!」
そう……俺はテオ公やトニアの話を聞いて、一つの結論に思い至った。
それは、バルセロス公爵が嫡子であるはずのアルザ様が、その“魔力供給”の犠牲になる可能性が極めて高い、ということ。
なぜ、俺がそう考えたか……それには二つ理由がある。
まず一つ目は、テオ公が俺に接触してきたこと。
もちろん、俺がテオ公の正体を看破したってのもあるが、恐らくテオ公は俺にそれとなく“魔力供給”の件について伝えるつもりでいたんだろう。
そうでなかったら、いくら公爵家の調査のためとはいえ、そんな重大な機密事項を俺に教えるはずがない。
そして、その“魔力供給”の件がアルザ様と密接に絡んでいることを、暗に伝えるために。
……まあ、この辺りはエリザベッタ殿下が裏から手を回して、テオ公にそう指示していそうだけど。
二つ目は、トニアの“魔力供給”に関する説明だ。
アルバ伯爵の行っている“魔力供給”の研究では、現在、親子や兄弟といった、近しい肉親でないと成功しないと言っていた。
にもかかわらず、バルセロス公爵はそれを喜んだとも。
つまり、肉親の誰かを犠牲にして、別の誰かに魔力を与えようとしているってことだ。
問題は、バルセロス公爵は家族の誰を犠牲にして、誰に魔力を与えるかって話なんだけど……。
「……普通に考えれば、バルセロス公爵の延命治療的なヤツ、かなあ……」
うん、それが一番しっくりくる。
で、その犠牲の対象となるのが……アルザ様。
親子か兄弟といった近しい肉親じゃないと駄目なんだから、アルザ様一択だろう。
この考えに至った時、俺はアルザ様があまりにもおいたわしくて、バルセロス公爵をブチ殺してやろうかと思った。
まあ、ベルが俺の気持ちを汲み取って、抱きしめてくれたから落ち着きを取り戻せたけど……。
とにかく。
「今は実家からの返事を待つしかない、か……」
お読みいただき、ありがとうございました!
次回は明日の夜投稿予定です!
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