第35話
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「ジル! 早く食堂に行こう!」
昼休みになり、隣の席のベルが嬉しそうに俺を昼メシに誘ってきた。
今日は殿下が公務でいらっしゃらないものだから、完全に羽を伸ばしてやがるな。
とはいえ。
「すいません。実は、別件で用事がございまして……」
そう言って丁重に断……れそうにないなこりゃ。
だってベルの奴、あからさまにシュン、としちまって、今にも泣きそうになってるんだから。
……まあ、ベルならいいか。
「私はこれから人と会うのですが……もしよろしければ、ベル様もご同席なさいますか?」
見かねた俺はベルにそう声を掛けると、ベルは俯いていた顔をガバ、と勢いよく上げた。
「い、行く! 私も一緒に行くぞ!」
「ええ、では参りましょうか」
そう言うと、俺はベルと並んで教室を出、目的の場所……中庭のベンチへとやってきた。
すると。
「あれ~? ジルベルトくんとベルさんじゃないですか~? どうしたんですかこんなところで~?」
とぼけた様子でテオ公が近付いてきた。
つか。
「いえいえ、私はテオ様とのお約束通り、昼休みに中庭に来ただけですが?」
「……あれ~? そうでしたっけ?」
俺はそんな皮肉めいた台詞を告げるが、当のテオ公はなおもとぼけやがる。
まあ、この場にベルがいるから、その正体を明かせないってのもあるんだろうけど。
「ああ、そうそう、こちらにいらっしゃるベル様のことでしたらお気になさらず」
「……え~? どういうことですか~?」
すると、とうとう痺れを切らしたテオ公が、口調はそのままに俺に鋭い視線を向けてきた。
そして、状況が全く分からない女の子が約一名。
「ジ、ジル!? これは一体なんなのだ!?」
「おおお、落ち着いてください!ちゃ、ちゃんと話しますから!」
俺は混乱したベルに胸倉をつかまれ、ガックンガックン揺らされた。
うん、昼メシ食った後だったら、確実に吐いてたな。
「とと、とにかく、ベル様は私にとって主君であるアルザ様に負けない程信頼を置く方。な、なので、この場にもご一緒したということです! お願いベル様! 止めてください!?」
とうとう耐え切れなくなった俺は、テオ公に事情を説明しつつベルに懇願すると、ベルはパッ、と話してくれた……というより、俺の言葉にフリーズした、が正解かも。
「ジジジジル!? いい、今の言葉は、ほほ本当か!?」
「ゲホゲホッ! ……え、ええ、本当です。私の中でベル様は、それ程までに大きな存在です……」
チクショウ、ベルの馬鹿力め……もう少しで実の母の元に旅立つところだったぞ……。
「あ……う……」
とはいえ、両手指をコチョコチョさせながらモジモジするベルは、アルザ様に匹敵するくらいに尊かった。
「はあ……勝手なことをしてくれますね」
呆れた表情で溜息を吐くテオ公。
そして、急に雰囲気が変わったテオ公を見て、浮かれた表情から一転、険しい表情で俺とテオ公の間に割って入るかのように身構えるベル。
ベルの危機察知能力と相手の力量を推し測る眼力は、見事としか言いようがない。
「……分かりました。こうなってしまっては、ベルさんを話に加えなかったら、余計に面倒になりそうですしね……」
観念したのか、テオ公はそう言って肩を竦め、かぶりを振った。
「それでジル……どういうことなのだ?」
「はい。実は……」
俺はベルに事情を掻い摘んで説明する。
まず、テオ公が王国諜報部“アヌビスの秤”のメンバーであること。
その任務は陰でエリザベッタ殿下をお護りすることであるとともに、先日の殿下を襲った賊の背後関係の調査をしていること。
そして。
「……賊の背後にいるのが“第二王妃”一派、特に、最大のパトロンであるバルセロス公爵が噛んでいると踏んでいること。ですよね?」
俺がそう投げかけると、テオ公は苦虫を噛み潰した表情になった。
ま、ここまでは話し過ぎかもしれねーけど、ベルにはちゃんと把握しておいてもらいたいからな。
「ほ、本当なのか……?」
「……ええ」
恐る恐る尋ねるベルに、テオ公は静かに頷いた。
「そ、それで、何でそんな大変なことにジルが関わっているんだ!?」
「ああ、それはこちらのテオ様が私に接触してきたからですよ」
「っ! ……言いますね。というか、単に探りを入れるだけだったのに、あなたが踏み込んできたからでしょう?」
忌々し気に俺を睨むテオ公。
だけど、そんな視線を俺は無視する。つか、俺は怒ってるんだよ。
「そんなくだらない政争に、あなたのくだらない一存でアルザ様を巻き込もうとしたからですよ。私に接触してきたのも、私経由でアルザ様の動向について探りを入れたかったから、ですよね?」
「…………………………」
フン、無言を貫いたところで、肯定してるのと同じなんだよ。
「……とりあえず、お前達の事情は分かった。それで、これからどうするつもりなんだ?」
そう言って、俺を鋭い視線で見つめるベル。
乙女だったその表情は、殿下を……王国を護る“騎士”の顔に変わっていた。
そして、そんな彼女に俺は告げる。
「それを話し合うのが、今日の目的なんです」
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次回は明日の夜投稿予定です!
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