第33話
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「あ! ジルベルトさんじゃないですか~!」
ベンチから立ち上がり、寮に帰ろうとしたところで、なぜかテオ公が手をブンブンと振りながら俺に声を掛けてきた。
「えへへー、今日はアルトレーザ様と一緒じゃないんですかー?」
テオ公の奴は呑気にそんなことを聞いて来やがるが……コノヤロウ……的確に俺の心を抉るような質問してくるじゃねえか。
「……今日だけ、ですがね。それよりも、殿下もいらっしゃらないのに私にテオ様がお声を掛けてくださるのも珍しいですね?」
俺は精一杯の皮肉を込めてテオに質問で返してやるが……チクショウ、全く気にした素振りを見せやがらねえ……。
「それより、ジルベルトさんはアルトレーザ様とケンカでもしたんですか~?」
ああもう! コイツ、絶対に俺とまともに会話する気ねーな!?
それより、やたらとアルザ様のことを聞いて……って。
〇『……特にお話しすることはございません』
〇『実はアルザ様が殿下やベル様と仲違いをされておりまして……』
〇『それより、殿下を狙った首謀者の足取りはつかんだのですか?』
ウーン、ここで三択かあ。
単純に好感度を上げるだけなら二つ目の選択肢なんだけど……今回、テオ公が接触してきたことには何か意図があると踏んだ俺は、あえてこの選択肢を選ぶことにした。
「それより、殿下を狙った首謀者の足取りはつかんだのですか?」
「っ! ……えー、ジルベルトさんの質問の意味が分からないですー」
嘘吐け。一瞬、眉毛がピクリ、と動いたぞ?
「本当ですか? おかしいなあ……王国直轄諜報部、通称“アヌビスの秤”のメンバーであらせられるテオ様なら、ご存知だと……っ!?」
台詞の全てを言い切る前に、テオ公は素早い動きで俺の背後に回ると、どこに隠し持っていたのか知らねーが、ダガーを俺の首筋へと当てていた。
「……なぜそれを?」
「さあ? 私がそれをあなたに答える義務はないかと存じますが?」
凄むテオ公に俺はとぼけながらそう言うと、テオ公の野郎……首筋にス、と薄皮一枚分の切り傷を入れやがった。
「……答えなくても良いですが、それだとあなたは毒で死ぬことになりますよ?」
「へえ……王国は聖属性魔法の使い手であるこの私を殺しても構わない……そう判断されたんですね?」
「…………………………」
フン、安い脅しだな。
その証拠に、ちょっとカマ掛けてやると、その良く回る舌が急に止まったぞ。
「別に、あなたと敵対しようなどと考えている訳ではないんですよ。むしろ、私はあなた手を結びたいと思っておりますし」
「……どういうこと?」
「なあに、簡単ですよ。あなたは、殿下の陰での護衛……これは、ひょっとしたら私も含まれているかもしれませんね。それと、アルザ様……というよりは、その上のバルセロス公爵についての調査をされている。ですよね?」
「…………………………」
この沈黙は、肯定として受け取ろう。
「一方、私の望みはアルザ様の幸せ、それのみです。正直申し上げると、それさえ保証されるのであれば、バルセロス公爵家の裏の顔によってお家がどうなろうと、私としてはどうでも良いんですよ」
「……つまり?」
「つまり、私はあなたに可能な限り協力……この場合、アルザ様やバルセロス公爵家に関する情報も含め、ご協力いたしますので、あなたもアルザ様について保証していただきたいのです」
「…………………………」
そう告げると、この場に沈黙が続く。
そして。
「分かりました~! それで手を打ちましょうか~!」
一瞬で普段の様子に戻ったテオ公は、ダガーを素早く制服の中にしまった。
「(……命拾いしましたね?)」
ポツリ、と俺の耳元で囁きながら。
だから。
「お互いに、ですね」
「っ!?」
そう言うと、テオ公は驚いた表情で一瞬のうちに俺から距離を取った。
「まあ、これからどうぞよろしくお願いします」
「こちらこそ~!」
俺は恭しく礼をすると、テオ公は手を振りながら笑顔で応えた。
といっても、口の端は少し引きつってやがるけどな。
「ではでは、これで失礼しますね~!」
「はい……あ、そうそう」
「はい~? まだ何か~?」
そそくさと立ち去ろうとするテオ公を引き留めると、彼女は訝しそうな表情を浮かべる。
「“実家”には伝えないほうがよろしいかと。もしそうなった時は、私では無理ですね」
「……分かりました~」
そして、テオ公は今度こそこの場から去って行った。
「ま、釘も刺しておいたし、これ以上変な真似はしないだろ」
そう呟くと、俺は左手に持つペンをしまい、寮へと帰った。
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次回は明日の夜投稿予定です!
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