第30話 アルトレーザ?
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■アルトレーザ?視点
「と、ところでダンスを踊るとなると、おお、音楽はどうしますか?」
突然ボクに抱きつかれてしどろもどろになるジルが、そう尋ねる。
「大丈夫、イザベルはバイオリンがすごく上手なんだ……だから、イザベルに弾いてもらうよ」
ジルから離れたくないボクは、ギュ、と抱き締める力を強くした。
はあ……ジルの匂いだ……。
「そそ、そうですか! でしたら今すぐ食堂に向かいましょう! そうしましょう!」
「あ……」
ジルはそう言うと、ボクの身体を押しやり、そそくさと部屋を出て行こうとした。
ボクがこんな格好じゃなかったら、ジルだってボクのことを……ううん、そんなことはない、か……。
そう思い直し、ジルに気づかれないようにかぶりを振る。
「うん、そうだね……ジル、キミは先に食堂に降りて、イザベルに事情を説明してきてくれないかな? ボクも準備ができたらすぐに降りるから」
「ハ、ハイ!」
そう指示すると、ジルは嬉しそうに笑顔で部屋を出た。
ジル、その笑顔はボクから離れられたからかな?
そんな自虐的なことを考えながら、僕はクローゼットにそっと忍ばせてあった、一着の服を取り出す。
うん……。
ボクは決意を込めて頷き、取り出したその服に着替える。
ジルは……こんなボクの姿、どう思うかな……?
気持ち悪いって言われちゃうかな?
可愛いって言ってくれるかな?
ボクは着替え終わると、胸襟をキュ、と握り締めた。
よし……行こう。
ボクは部屋を出て、ジルとイザベルがいる食堂へとゆっくり向かう。
「すー……はー……」
食堂の扉の前で深呼吸したボクは、ノブに手を掛けると……静かに扉を開いた。
「ジル、イザベル、お待たせ」
淑女らしく、背筋を伸ばして微かに微笑みを湛え、ボクはジルを見つめた。
「ア、アルザ様……その恰好は……!?」
ジルが目を丸くしながらボクを凝視する。
そうだよね。
こんな格好をしてたら、変に思っちゃうよね。
だって。
——ボクは、瞳の色と同じ、藍色のドレスを着ているんだから。
「ジル……何も言わないで、今日……ううん、たった一曲の演奏が終わるまでの、ほんの少しの時間だけでいいから……ボクと、踊ってください……」
そう告げると、ボクはジルにゆっくりとカーテシーを披露した。
すると。
「はい……俺でよろしければ……」
ジルはボクの手をそっと取ると、そのままボクを引き寄せた。
「あ……」
「……イザベルさん、お願いします」
「かしこまりました」
ジルの言葉を受け、イザベルがヴァイオリンを構え、弓を弦に当てる。
そして……食堂内に曲が優雅に鳴り響くと、ジルがボクの腰を抱きながら優しくリードしてくれた。
ボクの最低なサプライズと無茶なお願いから始まったジルとの夢のようなダンス。
ボクは……このたった一度きりの幸せを、永遠に忘れない。
◇
「それじゃ、行ってくるよ」
「行ってきます」
「行ってらっしゃいませ」
イザベルに見送られ、ボクとジルは学園に向かう。
といっても、同じ敷地内ではあるんだけど。
「アルザ様、昨日はよく眠れましたか?」
ボクの顔を覗き込みながら、ジルが尋ねる。
「うん、おかげさまで昨日はぐっすり眠れたよ」
嘘だ。
昨日は、ジルと一緒に踊った幸福と、その幸せが絶対手に入らないことへの絶望で、ボクはベッドに潜ったまま一晩中枕に顔をうずめていた。
「それは良かった……」
そう言うと、ジルはニコリ、と微笑んだ。
ああ……その笑顔も、ボクには眩しくて、手を伸ばしても届かなくて……。
胸が、苦しい。
すると。
「……なんて、嘘ですね」
そう言って、ジルが真剣な表情でボクを見つめた。
「アルザ様、何を悩んでおられるのですか?」
「……別に悩みなんてないよ」
「嘘です」
今日のジルは珍しく、ボクがそう言っても解放する気はないらしい。
だけど……だけど、こんなことジルには言えない。
ボクという存在が、“消えてなくなる”だなんて。
その時。
「あら……アル、ジルに許してもらえたようね?」
後ろからエリザベッタ殿下に声を掛けられ、ボクは振り返る。
「殿下……昨夜は申し訳ありませんでした」
ボクは膝をついて頭を垂れる。
「ふふ、ジルに許してもらえたのなら、余から言うこともないわ」
「……フン」
殿下の言葉を受けて顔を上げると、殿下はニヤリ、と口の端を上げ、後ろに控えるベルが不愉快そうに顔を背けながら鼻を鳴らした。
「ああ、そうそう……アル、二人きりで少し話があるの。ジルとベル、ミラは、先に教室に向かってくれるかしら?」
「で、殿下、ですが私はアルザ様と……」
困った表情を浮かべ、ジルがボクを見る。
だけど、これはボクにとっても好都合だ。
だって、これ以上ジルに追及されずに済むから。
「ジル、殿下の仰る通り、ベル達と先に向かってくれ」
「は、はあ……」
ボクがそう告げると、ジルは渋々ベル達と一緒に向かった。
まあ、ベルはすごく嬉しそうだったけど。
「……それで殿下、話、とは?」
ボクは殿下に尋ねると。
「ええ、大した話じゃないのよ? “メル”」
「っ!?」
え? ええ!?
「で、殿下、お戯れを……」
ボクは誤魔化すために片膝をついて顔を伏せた。
そうしないと、ますます殿に疑われてしまうから。
「ふふ、余が気づかないとでも思ったのかしら? それより、余としては第一王女である余を謀った理由が知りたいわね? ……といっても、理由なんて一つだけでしょうけど」
「…………………………」
殿下の言葉に、ボクは唇を噛むことしかできない。
駄目だ……殿下は全てご存知だ……!
「だけど……メルはそれで良いの?」
「……良い、とは?」
「決まっているわ。あなた、いなくなるのよ?」
殿下のその一言が、ボクの胸に突き刺さる。
じゃあ……じゃあ、どうすればいいんだよ!
ボクだってイヤだよ!
ボクも、もっとジルと一緒にいたいよ!
ジルの笑顔をたくさん見ていたいよ!
シルと……離れたくないよお……!
だけど。
「……そのために、お父様から許可をいただいて、ボクがここにおります」
「ふうん……納得、できるの?」
「それがボクの“役割”ですから」
ボクはそんな殿下の心無い言葉に、ただ静かに答えた。
そして。
「……本当に、クズね」
そんな一言を残して、殿下はその場から去って行った。
「う……うう……!」
誰もいなくなると、ボクはその場で膝を抱えてうずくまる。。
「やだよお……消えたくない、よお……!」
……ボクにできることは、嗚咽を漏らしてただ呟くことだけだった。
お読みいただき、ありがとうございました!
次回は明日の夜投稿予定です!
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