第27話
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「ご、ごめんなさい!」
アルザ様が、ぽろぽろと涙を零しながら地面に額を擦りつけて謝り出した!?
俺は目の前で繰り広げられているあまりの事態に、頭の中が真っ白になる。
とと、とりあえずアルザ様を……!
「ア、アルザ様! 俺は気にしてませんから、どうか顔をお上げください!」
俺は慌ててアルザ様へと駈け寄ると、その身体を抱き起こそうとした。
だけど。
「駄目だよ! ボクは……ボクはこんな最低なことをしたんだ! 謝ったって許されるようなことじゃないんだ! だから……だから!」
そう言って、頑なに頭を上げようとしないアルザ様。
どうしよう……。
い、いや、今回の件は完全に俺の失態なんだよ……。
“束縛のアゼリア”では、今日のパーティーでメルザたんがヒロインのドレスを台無しにするするシーンがあったこと、なんで忘れてたかなあ……。
それさえ思い出してたなら、それを回避のために色々と手を打っていたのに。
……アルザ様、殿下達との好感度は大丈夫だろうか……って、まずは目の前のアルザ様を何とかしないと!
俺はアルザ様の肩をギュ、と抱き寄せた。
「アルザ様……今回のこと、俺の不注意で申し訳ありません」
「っ! ち、違う! ボクがあんな真似をした……っ!?」
謝罪する俺に、なおも否定して謝ろうとするアルザ様の口元を人差し指で押さえた。
「アルザ様、お聞きください。俺には、アルザ様が好意であのようなことをされたのは存じております」
「っ!?」
「それに、アルザ様は事情を一切知らなかったのです。今回は、たまたま好意が空回りしてしまっただけ……アルザ様は何一つ気に病むことはないのですよ?」
俺はアルザ様を安心させようと、精一杯微笑みかけた。
だけど、どうやらそれは逆効果だったようで……。
「うう……」
「アルザ様?」
「うわあああああああああああん! ごめんなさい! ごめんなさあい!」
「うお!?」
アルザ様は俺に縋るように抱きつくと、大声で……まるで、子どものように泣いた。
一瞬驚いてしまったが、俺はそんなアルザ様をそっと抱き締める。
アルザ様……こんなに華奢、なんだな……。
◇
「ひっく……ぐす……」
抱き締め合ったまましばらくして、アルザ様が少しだけ落ち着きを取り戻したようだ。
「アルザ様……大丈夫ですか……?」
俺は胸の中にいるアルザ様に優しく声を掛けると、アルザ様は涙を湛えた藍色の瞳で俺の顔を覗き込んだ。
「ア……アルザ、様……」
その顔は、俺が推してやまないメルザたんのソレで、気がついたら俺はアルザ様に惹き込まれていた
アルザ様……。
そして、まるで引力に身を任せるかのように、俺は顔をその綺麗なアルザ様へと近づけ……って!?
「なあああああああ!?」
「キャッ!?」
俺はガバッとアルザ様の肩をつかんで引き離した。
つか、俺は一体何を考えてるんだよ!?
今、俺は何をしようとした!? キス!? そうキスだよ! 俺は今、アルザ様にキスしようと……あああああああ!
俺は自分の過ちに頭を抱えこみそうになって……まてよ?
そういえば、アルザ様も『キャッ!?』とか、カワイイ悲鳴を上げて……って。
「あ……」
なぜかアルザ様は俺へと手を伸ばしながら、何というかその……名残惜しいというか、残念というか、そんな表情を浮かべていた。
うう……と、とりあえず何とかして気持ちを切り替えて、アルザ様を意識しないようにしないと……!
「ア、アルザ様! こ、この服のワインの染みについては、落とす方法がございますので、ご安心ください!」
「え!? ほ、本当に!?」
俺の苦し紛れに放った言葉に、アルザ様はその綺麗な目を見開いた。
お、おおう……とりあえず雰囲気を変えることには成功したけど、自分の首を絞める結果になりそう……。
ま、まあ、後はここアレがあるかどうか次第ではあるんだけど……。
「え、ええ……とにかく、ここにいては風邪を引いてしまいますし、染みを落とすためにも、一旦寮に戻りましょう」
「う、うん……!」
俺がそう提案すると、アルザ様はまた涙を零しながら、俺に抱きついた。
あうう……つ、つらい……。
◇
「あ! お二人共、どうなさったのですか!?」
寮に戻ると、俺達の様子がおかしいことに気づいたイザベルさんが、心配そうな表情で見つめる。
「は、話は後です。それより、ここに“重曹”はありますか?」
そう……服に染みついたワインを落とす秘策、それは“重曹”だ。
転生前、テレビで観たことがあったんだけど、ワインは酸性だから、重曹との化学反応で染みが落とせるらしい。
「え、ええ……一応清掃用として置いてありますが……」
「ではそれと、あと熱湯と清潔な布を用意してください」
「は、はあ……」
事情が飲み込めないイザベルさんは、首を傾げながらキッチンへと向かう。
「ジ、ジル、本当に……?」
「ええ、大丈夫なはずです」
不安そうに見つめるアルザ様に、俺は自信ありげな顔で頷く。
「お、お持ちしました」
イザベルさんが重曹の入った袋と、湯気が出ているケトル、そして清潔な白い布を持ってきてくれた。
よし……それじゃ……。
俺はワインの染みがついた上着とシャツを脱ぎ、床に敷く。
そして。
「っ!? ジ、ジル!?」
驚くアルザ様を尻目に、俺は上着とシャツの染み部分がすっぽり隠れるくらいの重曹を振りかけ、さらにその上から熱湯を注ぐ。
で、俺は上着をつかむと、清潔な布で包みながら染みの部分を丁寧に揉んだ。
頼むから、落ちてくれよ……!
少し揉んだ後、服を広げて確認してみると……よし! 大分ワインの染みが落ちたぞ!
これを生地が傷まないように丁寧に繰り返せば……って!?
「ア、アルザ様!?」
「お、お願い! こっちのシャツはこのボクにさせて!」
そう言って、アルザ様はシャツをつかみ、染みの部分を丁寧にもみ洗いする。
アルザ様は、とても一生懸命で、そして、必死だった。
「……分かりました。では、一緒に染みを落としましょう」
「うん!」
そうして、ひたすらもみ洗いすること一時間。
「……うん! 綺麗に落ちましたね!」
服を広げて見れば、あれほど染みついていた赤ワインはすっかり落ちた。
や、むしろ元々あった汚れまで落ちたっぽい。
「はは、まるで新品みたいに……って、アルザ様!?」
「よかった……よかったよお……!」
安堵したからか、アルザ様はペタン、とその場で尻餅をついて脱力すると、ぽろぽろと涙を零した。
「はは……これは、アルザ様のお陰ですよ。本当に、ありがとうございました」
「ううん……元々はこのボクが「はい、それはもう無し、ですよ?」」
また自分のせいにしようといたアルザ様を、その口にそっと指を当てた。
「ジル……ジルウウウウウ!」
そして、またもやアルザ様は俺に抱きついてきた。
はあ……アルザ様、なんでこんな良い匂いがするんだろうか……。
だけど。
「アルザ様、ジルベルト様、ようございました!」
抱きつくアルザ様の髪を優しく撫でながら、俺は見てしまった。
アルザ様と俺を見て喜ぶイザベルさんの、何の感情も抱かないような、その無機質な瞳を。
お読みいただき、ありがとうございました!
次回は明日の夜投稿予定です!
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