第26話 アルトレーザ?
ご覧いただき、ありがとうございます!
■アルトレーザ?視点
「ああ……すまないな、ジル」
頭からワインを被ったジルに、ボクは笑顔で謝る。
だって、ジルの足を引っかけて、しかもこの赤ワインを用意したのは、他ならぬボクなんだから。
「フン、だがその恰好……殿下もいらっしゃるこのパーティーの席には相応しくないな」
「…………………………」
ボクの言葉に、ジルは俯く。
ち、違うんだよジル! ボクは本心でそんなこと言ってる訳じゃないんだからね!?
は、早くサプライズに取りかからないと!
「そうは言っても、キミの主であるボクは寛容なんだ。だから、今回の失態は不問にしてあげる。そして、このボク「……すいません、失礼します」……って、ジ、ジル!?」
ジルはワインで濡れたその髪や身体も拭かず、俯いたまま静かに会場の出口へと向かう。
「あ……ま、待っ……」
ボクはジルを引き留めようと腕を伸ばそうとするけど……ジルは、会場を出て行ってしまった。
え!? ど、どうして!?
ボク達の作戦は完璧だったんじゃないの!?
困惑のあまり、爪を噛みながらオロオロするボク。
すると。
「……アルトレーザ殿、失礼」
——パシン。
ベルに突然頬を叩かれ、会場中が静かになる。
「ベ、ベル……?」
「あなたは……あなたは! やってはいけないことをした! ジルを……ジルの想いを踏みにじったんだ!」
深緑の瞳に大粒の涙を湛え、怒りで震えるベルはボクを睨みつけた。
ち、違うんだよ! ボクは……ジルを……!
「はあ……アル」
後ろから、溜息とともに殿下から声を掛けられる。
「あなた、少々……いえ、かなり不快よ」
見ると、殿下はまるで仮面でも被ったかのように無表情だった……いや、違う。殿下は確かにお怒りだった。
「……とにかく、今すぐジルに許しを請うのね。ジルがあなたを許さない限り、余もあなたを許さない」
「っ!?」
なんで……なんでなんでなんで!?
ボクは上手にできたはずなのに! ちゃんと、言われた通りにしたのに!
こうすれば、ジルは喜ぶって言ったから!
「どうするのだ! ジルに謝るのか! 謝らないのか!」
「ヒッ!?」
ベルに怒鳴られ、ボクは思わずビクッとなった。
そ、そうだ! 今はジルを追いかけないと!
ボクは殿下もパーティーも、全てかなぐり捨てるかのように出口に向かって走る! 走る! 走る!
ジル……ジル……!
お願いだから……ボクのこと、嫌いにならないで……!
◇
「イザベル! イザベル!」
ボクは寮に戻るなり、玄関からイザベルの名を大声で呼び続ける。
「どうされました? “お嬢様”?」
イザベルは不思議そうな表情を浮かべながら、食堂のほうから出てきた。
「ああ……! イザベル、ジルは……ジルはどこ!?」
「え? ジルベルト様は“お嬢様”とご一緒ではないのですか?」
「ジルが……ジルが会場を飛び出しちゃったんだ!」
「っ!? そ、それはどうして……!?」
ボクの言葉に驚きを見せるイザベル。
だけど、今のボクにはそんなの構ってる余裕はないんだ!
「そんなことはどうでもいい! ここにジルは帰って来てないの!?」
「は、はい……」
「っ! クソオッ!」
「“お嬢様”!?」
ボクは寮を飛び出すと、ジルが行きそうな場所をしらみ潰しに探す。
ジル! ジル! どこに行ったの!?
お願いだから出てきてよ! お願いだから……お願いだから、ボクを一人にしないでよお……!
ボクはジルが行きそうなところを片っ端から探したけど、それでも、ジルは見つからない。
他に! 他にジルが行きそうなところ……………………あ!
そ、そうだった……ジルは方向音痴で、まだ学園内では迷ったりするんだった……!
だ、だったら、中庭の案内図のところにいる可能性が……!
ボクは中庭に向けて全力で走る。
そして、案内図が見えると……ジルは、中庭のベンチに頭を抱えて座っていた。
「ジ、ジル……」
ボクはすぐにでも駆け寄ろうとしたけど、どうしたんだろう……足が……足が動かない!?
なんで!? どうして!? ジルは目の前にいるのに!
ボクは必死で自分の足を叩いて、無理やり動かそうとしていると。
「え……? アルザ様……?」
ジルがボクを見つけた。
ジル……! ジル……!
ボクは叫んでるのに、精一杯叫んでるのに、どうしても声が出ない。
心では、張り裂けそうなくらい叫んでるのに……!
「あ、あはは……突然飛び出したりして、申し訳ありませんでした……」
ジルは苦笑いしながら、僕に頭を下げる。
違う! 謝らなきゃいけないのはボクのほうだ!
ボクがあんなイタズラじみたことをしたから!
「……実はこのタキシード、母上が買ってくださったものなんです……」
すると、ジルは静かに語り出した。
現当主であるルイス=フレイレ男爵と当時使用人だった実の母との間に生まれたジルは、その母親が幼い頃他界し、フレイレ領内にある貧しい孤児院で過ごしていたこと。
八歳の頃、フレイレ男爵の子どもであることが判明し、正妻……今のジルのお母様との間に子どもがいなかった男爵は、ジルを嫡子として迎え入れたこと。
フレイレ家は清貧を常としていて、家に蓄えもほとんどなかったことから、入用の時は、先祖伝来の家財を売り払って生計を立てていたこと。
ジルが十四歳になったある日、今のお母様が突然、ジルのためにとタキシード一式をプレゼントしてくれたこと。
ジルなりに調べてみると、どうもお母様が実家から持って来た、大切にしていた装飾品を売り払い、お金を工面したものだったこと。
「……本当の子どもじゃない、しかも、父上の不貞で生まれた俺なんかのために、母上はこの服を用意してくださったんです……俺が、今日のようなパーティー等に出ても、恥ずかしくないようにと、用意できるお金で、精一杯良いものをって……」
ジルが着ている服をまるで抱えるようにギュ、と両腕で巻く。
ああ……ボクは! ボクは……!
「ご、ごめんなさい!」
気がついたら、僕は地面に額を擦りつけ、涙を流してジルに謝罪していた。
ボクの勝手な思いつきで、余計なお世話のせいで、大切な……世界一大切なジルの想いを踏みにじって、こんなひどいことを……!
もちろん、謝って済まされるだなんて、これっぽっちも思っていない。
だけど……だけど、ボクにはこうするしか思いつかないんだ……!
こうするしか……!
お読みいただき、ありがとうございました!
次回は明日の夜投稿予定です!
少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、ブクマ、評価、感想をよろしくお願いします!




