第21話
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「……それで、私にどのようなご用件でしょうか?」
トレイに今日のランチのパンやおかずを乗せながら、後に続くミラ公ににこやかな表情を作りながら声を掛けた。
ここなら、アルザ様達に聞かれることもないだろうし、周囲からもクラスメイト同士が仲良く会話しているようにしか見えないだろうからな。
「はい。単刀直入に伺います。あなたは何者なのですか?」
「へ?」
ミラ公の問い掛けに、俺は思わず気の抜けた返事をしてしまった。
や、だって、『あなたは何者』って聞かれても、なあ……。
「いや、ミラ様もご存知の通り、漁師町のしがない男爵家の庶子ですが……」
うん、それ以外に特筆して話すようなことなんて……ひょっとして、女の子の趣味とかコイバナとか、ソッチ系か!?
イ、イヤイヤイヤ! ミラ公はゲームでは一番の堅物で融通の利かないキャラだったはずだぞ!?
そんな奴がそんな浮いた話…………………………ハッ!
ひょ、ひょっとして……ベル公のため、か……?
い、いや、それならミラ公がそんなことを聞いてきてもおかしくはない。
なんだかんだで、ベル公とミラ公は幼い頃から殿下に仕えていた親友同士だからな。
と、とにかく。
「わ、私はアルザ様に忠誠を誓っておりますので、その……私の身の周りのことについては、アルザ様にお伺いしませんと……」
そう告げると、俺は額から流れる冷や汗を制服の袖で拭った。
「? 何か勘違いされてませんか? 先程もお聞きした通り、私はあなたが何者なのかを知りたいのですが」
あ、違った。
だけど、そうじゃなかったら一体何が聞きてえんだよ……。
「ええと……すいません、私にはこれ以上お答えできるようなことはないと思うんですが……」
「いいえ、あるはずです。話しにくいのかもしれませんが、今回は殿下のお命にかかわる事態となってしまいました。もはや、あなたを気遣う余裕はこちらにもないんですよ」
ミラ公は鋭い視線を向けながら、俺を詰問する。
「と、とりあえずミラ様、そんな表情をされてはみんなから怪しまれますよ? それはあなたにとってもよろしくないのでは?」
「あ……そ、そうですね……」
俺の言葉に、ミラ公がアルザ様達に表情を読まれないようにするためにサッと顔を伏せた。
……ふうん、カマかけてみたけど、やっぱりベル公達には聞かれたくないのな。
まあ、そこはベル公の俺へのあからさまな好意を見れば当然か。
ただ。
「そうですね……少なくとも、私はミラ様に今のところ隠し事はしておりませんが?」
「とぼけないでください。じゃあお聞きしますが、殿下が賊の手によって毒に侵された時、あなたは誰よりも早く殿下の元へと飛び出しました」
「? それが?」
「ええ。普通に考えれば、王国への忠誠心の厚い貴族、と受け取るでしょう。ですが、私からすれば、あなたの行動は早すぎるんですよ」
ええと……つまりミラ公は、俺が殿下をお助けしたタイミングが良すぎるから疑ってるってことか?
「それはつまり、私が殿下を襲った賊のことを予め知っていた……最悪、あの賊あるいはその背後にいる者と繋がっていたのではないか、そう仰りたいんですね?」
「違いますか?」
眼鏡をクイ、と持ち上げながら、アルザ様達に悟れないように睨むベル公。なかなか器用だな。
というか。
「その推理、全然当たっていないですよ?」
「嘘を言わないでください!」
俺がミラ公の推理を否定すると、彼女は大声で叫んだ!?
オ、オイオイ、バカじゃねえの!?
「こ、声が大きいですよ!?」
「ハッ!?」
俺が慌てて指摘すると、ミラ公は焦ったように自分の口を塞いだ。
うん、ゲームでもそうだったけどコイツ、頭が切れるのにバカだ。
だけど……どう説明したもんか……。
その時。
〇『……今はまだ、話す時ではありません』
〇『ご自身の失態を、私に転嫁するおつもりですか?』
〇『殿下はご無事だったんです。良いではないですか?』
例のよっていつもの三択が現れたけど……ウーン、今回は悩むなあ……。
や、ミラ公のルートに入るならアレなんだけど、アルザ様のことを考えたら、逆に追い詰められてしまうことになるし……。
うん、今回はコレにしよう。
「ご自身の失態を、私に転嫁するおつもりですか?」
「なっ!? ふざけ「ふざけてなどおりませんよ。そもそも、あの時の私は殿下の悲鳴を聞いたため、慌てて飛び込んだんです。そして、アルザ様の婚約者でもある殿下をお救いするため、私は最善を尽くしたまでです。それを怪しまれる前に、一の側近であらせられるミラ様は、あの時一体何をされてたんですか?」
「っ!?」
俺の辛辣な言葉に、ミラ公は息を飲んで押し黙った。
少し言い過ぎたかな?
でも、これくらい言ってもバチは当たらないだろう。
だって、ベル公は自分自身の失態を素直に認めて悩んでいたのに比べ、コイツときたらあの時せっかくヒントを出してやった(ただし、コイツにではない)のに、見当はずれの推理して勝手にキレてるんだもんなあ。
これで、将来殿下の懐刀になろうってんだから、この国の将来が心配になっちまうぞ。
「とにかく……ミラ様が今すべきことは、そんな下らない推理をすることではなく、側近として、部下として……そして、殿下の数少ない友人の一人として、殿下の無事をお祈りすることではないでしょうか?」
全く……コイツがこんなんじゃ、殿下が浮かばれねーよ……って、まだ死んでないけど。
「……あなたに言われなくても分かっていますよ」
ミラ公は唇を噛みながらプイ、と顔を背けると、自分のランチを持ってとっとと席に戻って行った。
……ふう、これはミラ公のルートは諦めたほうがよさそうだな。
俺は頭をポリポリと掻きながら、ミラ公の背中を眺めていた。
お読みいただき、ありがとうございました!
次回は明日の夜投稿予定です!
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