第19話
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エリザベッタ殿下が何者かに襲われてから、次の日。
「それでは、行ってくる」
「行ってきます」
「行ってらっしゃいませ」
イザベルさんに見送られ、俺達は寮を出た。
「それにしても……殿下は無事だろうか……」
「さあ……何とも言えませんね……」
「ん? キミの魔法で一命はとりとめたはずじゃないのか?」
アルザ様がおもむろに尋ねる。
「いえ……あの時は俺も無我夢中で、よく覚えていないんです……」
はい、ウソです。
あの時、バッチリ聖属性魔法で殿下が助かったことは間違いないです。
ただ、何というか……ウーン、俺が魔法を使ったって気がしないんだよなあ……。
でも、殿下を包んだ光……あれは間違いなく聖属性魔法のエフェクトだった。
つまりそれは、俺が聖属性魔法を放ったということだろう。
だって、聖属性魔法は“聖女”でないと使えないのだから。
「そうか……」
俺の曖昧な言葉に、アルザ様はふう、と息を吐いた。
「とにかく、ボク達が考えたところでどうにもならない。殿下のご無事を祈ろう……」
「そうですね……」
さすがに昨日の今日で、とは思えないけど、多分二、三日もすれば殿下も元気に復帰するだろう。
その間に……はあ、アイツの面倒見なきゃな……。
◇
「はあ……」
教室に入るなり、見事にベル公が落ち込んでやがる。
まあ、それも仕方ないかあ。
何と言っても、本来はいの一番に殿下をお守りしないといけない立場のはずなのに、殿下が襲われるまで気づかず、さらには犯人を取り逃がしちまったんだからなあ……。
しゃーねー、慰めてやるか。
「おはようございます、ベル様」
「……ん? ああ、おはよう……」
うん、基本が脳筋、能天気なだけに、意気消沈してる時の落差が半端ない。
「昨日のこと、まだ……」
「……ふふ、騎士団長の娘で、しかも、殿下の護衛という立場にありながらこの体たらく……騎士失格、だな……」
ベル公は自嘲気味に微笑むと、また視線を下に落とす。
その時。
〇『結果に囚われる必要はないのでは?』
〇『そうですね。今回はベル様の失態です』
〇『私は、あなたの味方です』
ふむ、例によって三択が現れたぞ。
さてさて……普段だったら絶対にこのルートは選択しないけど、さすがにあのベル公がここまで落ち込んでたら気分が悪い。
それに、いざという時に使い物にならなかったら困るしな、うん。
ということで。
「そうですね。今回はベル様の失態です」
「っ!?」
俺がそう告げると、意外だったのかベル公は目を見開いて驚きの表情を見せた。
フフフ……俺が慰めの言葉を掛けると思ったのか? つか、慰めても勝手に自虐的になるだけのくせに。
「……ああ、お前の言う通りだ。私の失態だ」
「ですが、ベル様は幸運でした」
「幸運!? 幸運だと!」
視線を落とすベル公に対し、俺はまるで真逆の言葉を放つと、彼女が激高して勢い良く立ち上がった。
「殿下が危険な目に遭ったのに、ふざけたことを言うな!」
「ふざけてなどおりません。考えてください、確かに殿下は賊に襲われてしまいましたが、そのお命は守られました」
「ああ! お前の機転のお陰でな!」
おっと、まさかベル公が俺をここまで評価しているとは思わなかった。
まあ、今はそれは置いといて。
「ならば、ベル様は貴重な経験をされたのです。今後同じような場面があった場合、ベル様はどのように行動すれば良いのかという経験を」
「っ!?」
そう、人間なんだから失敗の一つや二つ、絶対にあるもんだ。
もちろん、失敗しちゃいけないことだって多々ある。今回の件もそうだ。
だが、今回は幸いにも殿下は救われた、はず。
なら。
「これから先、お立場上殿下が賊に襲われる場面が何度もあるでしょう。ですが、今回の件で一回りも二回りも大きくなられたベル様が殿下のお傍にいる限り、同じようなことは起こり得ることはないはずです。ただし」
「……ただし?」
「ベル様が、今回のことをしっかりと受け止め、前を向くことができるのであれば」
そう言うと、俺はエメラルドのようなベル公の深緑の瞳をまっすぐに見つめた。
うん……もう大丈夫、だな。
「フン! お前に言われなくても分かっている! この“ベルナデット=アロンソ”、同じ轍は踏まん!」
ギュ、とその拳を握り、ベル公は高らかに叫んだ。
や、ここ教室なんだけど? 静かにしろよ。
そして。
「……ありがとう、ジル」
そう言うと、ベル公はニコリ、と微笑んだ。
「……いえ」
「ふふ……」
俺が照れくさそうにしながらプイ、と顔を背けると、ベル公が笑い声を漏らした。
つか、ベル公のくせにその表情、反則だろ……。
お読みいただき、ありがとうございました!
次回は明日の夜投稿予定です!
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