第17話
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「すまん……賊を取り逃がしてしまった……」
悔しそうな表情を浮かべながら、ベル公が戻ってきた。
「いや、犯人も計画的だったと思われますので、当然、逃げる準備もしているはずですから、仕方ありませんよ」
「だ、だが! ……だが、殿下は護れず、挙句、賊まで逃がしては、殿下の護衛失格だ……」
ウーム……ベル公の奴、柄にもなく落ち込んでやがる。
まあ、それも仕方ないか。主君を護れなかったんだから。
そして、今後発生するベル公のイベントを思うと、疲れてるんだからそっとして欲しいと願うのは、俺のわがままだろうか……。
すると。
「そ、その! ジル君が使った魔法、あれって“聖属性魔法”だよね!?」
おおう、魔法オタクのトニアが、瞳をキラキラさせて詰め寄ってきた。
「あの魔法、元々使えてたり「そこまでだ」」
根掘り葉掘り聞こうとするトニアを、アルザ様が制した。
「ジルは殿下をお救いしたことで疲れてるんだ……そっとしてやってくれ」
「あうう……」
アルザ様に正論で窘められては、さすがのトニアも大人しくするしかないようだ。
アルザ様、ありがとうございます。
「……ですが、なぜ賊は殿下を狙ったのでしょうか……」
顎に手をやり、ミラ公が眉間に皺を寄せながら考え込む。
……つか、今回の件では俺、ちょっとキレてるんだよね。
犯人にも……そして、自分自身にも。
「ミラ様、一地方の男爵家であるため、政情に疎い私ですが、それでも噂で聞いたことがあります」
「……何を、ですか……?」
俺の言葉に、訝し気な表情を見せるミラ公。
といっても、先程の一件でそれなりに信頼を得たようではあるが。
「はい。“第二王妃”殿下が、幼い王子殿下に王位を継がせるために、色々と画策している、と……」
「「っ!」」
俺がそう告げると、ミラ公、そしてアルザ様の顔色が変わった。
「……滅多なことは言わないでください。死にたいんですか?」
「ですが、私みたいな者でもその噂を知っているんです。今さらですよ」
そう言って俺は肩を竦めると、ミラ公とアルザ様が顔をしかめた。
だけど……犯人は今言った通り、第二王妃の一派だ。
連中が殿下を亡き者にしようとしていることは、“束縛のアゼリア”でも出てくるからな。
んで、同じ第二王妃派の最大支援者であるバルセロス公爵家は、この一件を盾に窮地に追いやられ、メルザたんの婚約破棄の一因になるんだ。
といっても、メルザたんと第一王子の婚約は、公爵家にとって幼い第二王子が王位を継げなかった時の保険程度でしかないから、公爵家は婚約破棄も何とも思っていないけどな。
とにかく。
「恐らく、今回の犯人は証拠隠滅のために消されるでしょう。早ければ明日の朝にでも、王都の下水に捨てられているんじゃないですかね?」
「「「「「…………………………」」」」」
俺がそう言うと、アルザ様とミラ公だけじゃなく、全員が押し黙った。
だが、ここまでヒントを言ったんだ。これで何も手を打てなかったら、本当に無能だぞ?
なあ……“影”さんよ。
◇
結局、魔法適正の確認については中止となり、この日は授業も全て取りやめとなった。
なので、俺はアルザ様と一緒に、寮に戻っている最中だ。
だけど……俺とアルザ様はお互い一言もしゃべっていない。
「…………………………」
「…………………………」
校舎を出てからここまで、ずっと沈黙したままで、ただ俺達の歩く音だけが妙によく聞こえる。
でも、俺は今何かを話す気分じゃない。
俺が、聖属性魔法に覚醒したいがばっかりに、エリザベッタ殿下を危険に晒したのは事実だ。
俺は……どこか心の中で、ゲーム感覚でいたんだろうな……。
ここはゲームじゃなくて、現実だっていうのに。
そして、俺達はそのまま寮の入口まで来ると。
「……ジル」
「っ! ……はい」
ドアに手を掛けたまま立ち止まったアルザ様が、不意に俺の名前を呼んだ。
「……ジルは、第二王妃にどの貴族が組しているか、知っているか……?」
アルザ様は俺に背を向けたまま、少し震える声でそう尋ねた。
「……いえ、そこまでは……」
これも、嘘だ。
本当は、アルザ様の実家が最大のパトロンだってことは知っている。
「……第二王妃を支えているのは、うち……バルセロス公爵家、だよ……」
「……そうですか」
意外だった。
アルザ様が、まさかそのことを今、この俺に告げるだなんて。
ゲームでは、メルザたんはそのことを婚約破棄されて闇落ちし、ヒロインとの最後の闘いの場で初めて明かすのに。
「ふふ……軽蔑、したか……?」
消え入りそうなアルザ様の声を聞き、俺の胸がかあ、と熱くなる。
ああ……アルザ様は俺があなたを嫌いになるんじゃないかと、そんなことを気にして……。
だったら。
「まさか! この俺が、アルザ様を軽蔑するなんてことはありません! だって、アルザ様が暗殺を企てたわけではないですし、アルザ様が第二王妃殿下に加担しているわけではないじゃないですか!」
俺は勢いに任せ、アルザ様の言葉を否定した。
一人称が“俺”になっちまったけど、構うもんか。
「だが……「だがもへったくれもありませんよ!」」
それでもなお、何か言おうとするアルザ様の言葉を俺は遮る。
これ以上、自分自身を蔑む言葉を言わせない。
「アルザ様は素晴らしい御方です! 校門で倒れていた、ただの田舎の男爵家の庶子にしか過ぎない俺を医務室まで運んでくださり、その後も何かと俺のことを気に掛けてくださいました! それだけではありません! 俺がピンチの時も、いつも助けてくれたのはアルザ様です!」
「……………………っ!」
俺の言葉を聞き、アルザ様の肩が震える。
「俺に……俺にできることなんてたかが知れていますが、それでも! ……それでも、俺はあなた様のお力になりたい。あなた様を支えたい」
これは俺の本心。
まだほんの少しの付き合いでしかないけど、ゲームのメルザたんと同じ……いや、それ以上に、優しいアルザ様に俺は尊敬して惚れたんだ。
だから。
「俺が殿下に粗相をしてしまった時、アルザ様は俺を救うため、建前とはいえうちの家を“子”と仰ってくださいました」
「うん……」
「俺は……俺は、フレイレ家の家督を継ぐ者として……いえ、そうしたい俺自身の意思で、正式にあなた様の“子”となり、アルザ様に忠誠を誓います!」
俺は膝をつき、そして……アルザ様の靴に誓いのキスをした。
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次回は明日の夜投稿予定です!
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