第16話
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「ただ今から、魔法適正の確認を行う。各自、検査場所に並び、順次受けるように」
俺達は校庭に集められ、先生達の指示の元、各々で魔法適正の確認のためのブースの前に列を作る。
俺? 俺は予定通りエリザベッタ殿下と一緒にいるぞ?
だけど。
「フ、フン! 貴様も魔法適正が十分にあれば、こ、この私と一緒に殿下をお護りできるのだ! しっかりするのだぞ!」
や、なんで俺が殿下の護衛になるんだよ。
むしろそれはベル公の仕事なんだから、お前がちゃんと全うしろよ。
「ふう……有象無象の輩の適性を調べたところで、非効率でしかないですが……」
うっせ、ミラ公。俺の聖属性魔法を見て、恐れ慄くなよ?
「はふう……こんな面倒なことしなくても、自分の適性くらい知ってるのに……」
トニアはそうかも知れねーけど、俺達はそうじゃないの。
お前は少し社会性を身につけような。
そして。
「えへ、殿下とご一緒できるなんて、テオ感激です~!」
「ふふ、そう? 余もテオと一緒で嬉しいわよ? ねえ、ジル?」
「そ、そうですね……」
このテオ公、殿下の時とは打って変わって、俺が相槌を打ったら一瞥だけして無視しやがった。
完全に身分だけで対応を変えてやがる。
こんな奴一人くらい攻略しなくても、アルザ様は多分大丈夫だろう、うん。
「まあ、学園の先生方に、余の光属性魔法を披露するのも悪くないわね」
得意げに話す殿下。それもそうだろう。
だって、王族はすべからく光属性魔法の使い手なんだから。
むしろ、この適正確認自体不要ではある。
それでも他の学生と一緒に受けるのは、全員平等に扱うという校則第一条があるからと、単に殿下が魔法を見せびらかせてドヤ顔したいだけなんだろうけど。
なんてことを考えていると。
「殿下」
アルザ様が殿下に声を掛ける。
「あら? どうしたの、アル?」
「このたびの適正確認、このボクもご一緒してよろしいでしょうか?」
「ええ、構わないわよ?」
「ありがとうございます」
なんと、ここでまさかのアルザ様合流。
だけど……これはマズイ! 非常にマズイぞ!
だって、“あのイベント”が起きたら、下手をすれば……!
そしてアルザ様、俺の顔をそんな睨まないでください……。
◇
「次、エリザベッタ=フォン=エストレア殿下、お入りください」
「はい」
順番が来た殿下は、ブースの中にいる先生に呼ばれると得意げにカーテンをくぐった。
さて……俺はいつでも行けるように……って。
「ア、アルザ様?」
見ると、アルザ様が俺の制服の袖をつまんでいた。
「……ジルは……ジルは、殿下と一緒が……いい、のか……?」
アルザ様が瞳に涙を溜めながら、消え入りそうな声でそう尋ねる。
「え、ええと……何か誤解してませんでしょうか?」
「っ! 誤解など、してない……」
や、今の反応、完全に誤解してるでしょうが。
「……ふう。まず、私はアルザ様の“婚約者”あらせられる殿下に、そのような想いを抱いていてはおりません。ご安心ください」
全く……さすがにそんな真似したら、俺と家族の首が綺麗に飛ぶわ。
それに、そんなことしてアルザ様の不興を買いたくはないのだ。
「そ、そうか……それもそうだな……」
一応納得したような素振りは見せるけど……コレ、絶対に納得してないだろ。
その時。
「キャアアアア!?」
突然、ブースの中から悲鳴が聞こえる。
「クソッ!」
「ジル!?」
俺は誰よりも早くブースの中に飛び込むと、案の定、土気色をした殿下が地面でもがき苦しんでいた。
「貴様あ! これは一体どういうことだ!」
続けて入ってきたベル公が、ものすごい剣幕で狼狽する先生に詰め寄る。
だが。
「そ、それが! 魔法判定をするための石板に触れた途端、急に殿下が苦しみ出して!」
「そんな訳があるかあ!」
ベル公は先生の胸倉をつかみ、そのまま上へと持ち上げた。
つか、今はベル公や先生はどうでもいい!
それより、エリザベッタ殿下だ!
「失礼します!」
俺は一方的にそう告げると、殿下の身体を起こして首筋を確認すると。
……やっぱり。
「ジル!」
気丈に振舞うアルザ様が、その鋭い視線で俺に説明を要求する。
だけど……その手は、その足は震えていた。
「……殿下の首筋に、針が打ち込まれています。恐らくは、毒が塗られているものと……」
「「「「「っ!?」」」」」
俺の言葉に、この場にいる者達が一斉に息を飲む。
「貴様! 吐け! 何の毒を仕込んだのだ!」
先生が犯人と疑わないベル公が首を締めながら問い詰めるが、毒の種類を聞いたところで意味がない。
だって……この毒は、“聖女”の魔法でないと解毒できないんだから。
だからこそ、俺はこの場にいるんだ。
さあ……ゲームならここで選択肢が出る……出ねえ!?
「何でだよ! ここで出ないとおかしいだろ!」
「ジ、ジル!?」
俺は狼狽えるが、アルザ様に声を掛けられてハッ、となる。
そ、そうだ! 今はいちいち呆けてる場合じゃねえ!
聖属性魔法が覚醒しねえんだったら、なんとか……なんとかしねえと!
「クソッ! ベル! この左隣のブースに殿下を狙った犯人がいるはずだ! お前はすぐに探し出せ!」
「っ! わ。分かった!」
ベルがつかんでいた先生を押し退け、勢いよくブースを飛び出した。
「メル! お前は他の先生を呼びに行け! できれば回復魔法が使える水属性持ちの先生だ!」
「は、はい!」
メルも慌てて翻り、ブースを出る。
「トニア! お前の魔法で解毒できるか!?」
「あわわわわ! す、すいません! 私、解毒魔法は使えません!」
チクショウ! トニアが解毒魔法を使えない設定なのは分かってはいたけど、やっぱりか!
テオは……あの野郎! とっとと離脱しやがった!
「ジル! ボクにできることは!」
「アルザは俺のサポートだ!」
「っ! うん!」
さあ……最悪の事態だ。
とにかく、今の俺にできることを……!
俺は殿下の首筋に刺さっている針を慎重に抜き取ると。
「アルザ、持っていてくれ」
「うん!」
アルザがハンカチで針を受け取り、それを大事に包む。
「殿下……少々痛いですが、我慢してくださいね」
俺は殿下の首……針が刺さった箇所を咥えると、思い切り吸い出した。
「う……! ぐう……!」
毒を吸い出される痛みで殿下が呻くが、今はそれを気にしている余裕はない。
殿下の血と一緒にある程度毒を吸い出すと、ペッ、と地面に吐き出し、そして、再び俺は首元を咥えては、再度毒を吸い出す。
それを数回繰り返し、殿下の表情を窺うが……ダ、ダメだ……全然良くならねえ!
「ジル! がんばれ!」
アルザ様が俺の背中に両手を当て、精一杯励ましてくれる。
分かってる! 分かってるけど……!
クソッ! やっぱり聖属性魔法じゃないとダメなのか……!
諦めかけていた、その時。
——殿下の身体が、まばゆい光に包まれた。
すると、殿下のその土気色の顔が赤みを帯びていき、その表情も穏やかなものになっていく。
これは……聖属性、魔法……?
「先生達をお連れしました!」
「ミラ!」
俺はすぐに先生達にバトンタッチし、殿下を預けた。
後は……大人達が何とかしてくれるだろう。
「ふう……」
俺は安堵の息を漏らすと、緊張と疲労からか、壁にもたれかかった。
「ジル……!」
「ハハ……何とかなった、ようですね……」
泣きそうな表情で俺の胸に飛び込むアルザ様に、俺はこれ以上心配させまいと、彼に微笑みかけてその頭を撫でた。
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