自己嫌悪
(自分からのビデオレターとか…こういう危険な契約書にサインした奴だ。あんまり期待出来るような内容じゃないだろうな)
そう思いつつも少しばかり期待を膨らませながらしながら再生ボタンを押す。画面に、こちらを向き親指を立てたナルシストっぽい人物が映し出される。
「やあ!約束された勝利とはつまらんものだろう?頑張れよ(笑)」
(………)
即座に再生ストップボタンを押す。どう考えても「キ○○イだ」としか思えない。
自分自身の記憶がなくなる事を知った上で、そして自分に危険が及ぶことも承諾した上で、こんなワケが分からないビデオを録画したのだ。
自分がこんな阿呆だったなんて認めたくないが、悔しいことに感覚は正直だ。これは紛れもなく自分だと分かった。昔、「もしも自分が2人いた場合、お互いは決して仲良くなれない」という言葉を聞いたような気がする。本当にその通りだと、爽司は過去の自分に失望しながら、地面に両手両膝をついて落ち込む。
「では爽司様、今から現状について、そしてもうすぐ始まるテストとその後についての簡単なご説明をします。こちらの食事を召し上がりながらでも結構ですので、お聞き下さい」
「はあ~」
あの時の自分はどうかしていたんだ。そして、そんなイカれた自分にこれから付き合わなければならい、そう思うとため息以外が出てこない。
取り敢えず自分なりに丁寧使っているつもりだけど、どうしてもカチャカチャ音が出てしまう。
(たしか、ナイフやフォークは使うとき音を立てないのがマナーなんだよな。どこで知ったかは思い出せないけど…日本食が良かったな。ってか普通に旨いぞ?これが仮想なのか?意味分かんねぇ)
それから、作法がなっていないまま食事をしながらエリーゼの説明を受ける。まあ恥ずかしがることはない、エリーゼ曰く全て仮想なのだから。
エリーゼの説明を聞けば聞くほど、「ああ、言われればそうだったかもしれない」と、うっすらとだが記憶を思い出しているような感覚がした。
自分は高校2年生で、オンラインからこのゲームのテスターに応募して当選した。応募後、VRに対応出来るかどうかの診察を受け、契約書にサイン。
自分が記憶を失ったことに対する衝撃や未知への恐怖、VRというシステムに対して抵抗が少ないのは、元々爽司自身がそういうモノに対しての免疫が強いからだとエリーゼは説明してくれた。
今から行われるテストを兼ねたチュートリアルをクリア出来れば、そこから本編のゲームがスタートする。そこでゲームをクリア出来ればBETAテストは終了するとのこと。
ゲームをクリア出来るまでは、現実にある身体の安全と管理は会社が責任を持って保証してくれるらしい。
爽司が思い出したかったことは、自分自身や周りの環境、そしてトチ狂った遊びに手を出した動機についてだったが、爽司自身に関することはエリーゼも把握出来ていないようで、質問をしても回答はもらえなかった。
エリーゼの対応は淡々としていたが、即座にキチンと反応を返してくれるので好感が持てた。詳細は不明だが、自分が嫌いな人物像ではないみたいだ。
「…以上になります。他に何か質問はありますか?」
「ああ、もう十分です」
料理を全て食べ終え、水を飲みながら軽く一息つく。爽司の食事が終わったことを確認して、エリーゼが話しかける。
「爽司様は大変優秀ですね」
「えっ!?」
唐突な褒め言葉に爽司はきょとんとした。
「VRのシステムはまだ不安定な部分が多いので、初めての接続で現実と同じように身体を動かせる人は多くありません。大半の方はベットから起き上がることもままなりません。本来であれば、担当者から様々な指示やレクチャーを受けながらテストに移るのですが。爽司様にはその必要はなさそうで、大変驚かされます」
「そ、そうなんですか…」
なんだか、かなり久しぶりに人から褒めてもらった気がする。なんとなく照れくさい。ビデオで見たあの自分の顔。あれだけ調子に乗っているのだから、並大抵のことには慣れていると思っていた。
「ええ、きっと良いプレイヤーになれると思いますよ」
追い打ちをかけるようにエリーゼが評価を送ってくる。人から良い評価をもらうことは全然悪くない、むしろ良い気分だ。思わず口元が歪みそうになって、はっと気が付く。
(お調子者なのかな俺…ああ、この延長線が5時間前の俺なのか)
やはり自分は自分だという事を知って、良い気分はそのまま落ち込みモードへ。良い機会だ、すぐ浮き足にならないよう頑張ろう、と爽司は心に誓った。




