第9話:左右からの密着サンドイッチと、翌朝の包丁修羅場
「ちょっと小飛! あんた何、深夜に志明のベッドに潜り込んでるのよ! 安全管理の乱れよ、今すぐ出ていきなさい!」
ベニヤ板一枚に近い薄い壁越しにただならぬ気配を察知した小梅が、紺色のサイバータイトスーツを微かに乱して部屋へと乱入してきた。
顔を耳の先まで真っ赤に変形させ、氷のSPとしての威厳と焦りを激しく混在させている。
「えーっ、お姉ちゃんずるい! 私がおじさんを冷却看病してあげてたんだよ! おじさん助けてー!」
「暴力じゃないわよ、生存確認よ! 離しなさい!」
狭い物置部屋のベッドの上で、だぼだぼの青いパーカーを翻す小飛と、特殊スーツを軋ませる小梅の、激しい姉妹喧嘩が始まってしまった。
だが、その最大の被害を被るのは、寝台の中央に取り残された俺の肉体だ。
南国のじっとりとした湿気を帯びた熱帯夜の空気のなか、激しくもつれ合う二人の動きが、俺の全盛期の若くしなやかな肉体を容赦なく巻き込んでいく。
その結果、中央に挟まれた俺の全身に、小梅の規格外に豊かなGカップの胸元と、小飛のしなやかなくびれと生足の肉圧が、全方位から一切の隙間なくベッタリと平たく押し潰された。
(ア、アウトだ……これ完全にアウトだろ! 左右から異なる系統の規格外の柔らかさと体温が押し寄せてきやがる! 俺の理性の堤防が粉々に決壊するぞ!!)
ギチ……ギチギチ……と。
特殊ナノ繊維のタイトスーツが、三人の微かに汗ばんだ凄まじい肉圧の逃げ場をなくし、悲鳴のような生々しい軋む音を狭いベッドの中に響かせる。
ジ、ジ、チチチチチ……!
至近距離で交錯する女の子たちの熱い吐息に、俺の左目の青いレンズが、かつてないほどの焦りの駆動音を爆音で刻み続けた。
◆ ◆ ◆
翌朝。李家食堂の厨房。
眩しい南国の太陽の光が差し込むなか、白いエプロン姿の小梅が、涙目で耳の先まで真っ赤にしながら凄まじい速度でキャベツを刻んでいた。
トントントントントン!
まな板を親の仇のように叩く包丁の音が、明らかに殺気立って店内に響き渡る。
俺が使い込まれた飴色の木のカウンターに座ると、小梅はピタリと包丁の動きを止めた。
彼女は包丁を握ったまま、ギラギラとした涙目の怒形で振り返り、俺を強く睨みつけてくる。
その激しい呼吸に合わせて、エプロン越しでもわかる驚異的に豊かな胸元が、激しく上下に揺れていた。
「べ、別に、私はあんたが深夜に小飛と不純なことをしてないか、SPとして安全管理の添い寝をしただけなんだからね!! 勘違いしないでよバカァ!!」
(お、おい小梅、落ち着け! 包丁を握ったまま涙目で詰め寄ってくるのは、いくら全盛期の肉体でも命の危機を感じるぞ!)
そこへ、俺のテックウェアの通信端末が突如として強制起動した。
ホログラム映像とともに、日本の高市雲苗経済安保大臣の怒声が室内に鳴り響く。
「陸志明! あなた、なぜ初日の夜から、李家の姉妹に両脇から挟まれて添い寝監禁などという破廉恥な行為に及んでいるのですか!?」
画面の向こうの高市大臣は、黒髪のショートカットを激しく揺らし、顔を真っ赤にして怒り狂っていた。
「密室での過度な不純異性交遊は、海洋連盟の経済安全保障を内側から揺るがす深刻な規律違反です! 早く衣服の結合を正しなさい、この朴念仁!!」
(違うんだ……下心じゃないんだ……っ! あのクソ神の呪いのデバイスが完全沸騰して、不可抗力でサンドイッチにされただけなんだ大人たち……!!)
ジ、ジ、チチチ……!
俺の左目の深淵な青いレンズが、翌朝の修羅場の焦りに同期して、やはり切ない電子駆動音を鳴らし続けるのだった。
過去の亡霊として舞い戻った南国での同棲生活は、世界を救うより遥かに過酷な戦場だった。
(第二章・完)
◆ ◆ ◆
次回予告:第10話『VR空間は私の聖域!? 発光白バニーと黒バニーの特大サービス』
(次号、新章突入! 敵陣営の紅蓮ハッカー部隊が仕掛ける電子工作総攻撃を迎え撃つため、志明たちは量子戦闘領域へとダイブ! そこで彼を待ち受けていたのは、まばゆく発光するプラグインを纏った、恥ずかしすぎる衣装の姉妹バニーだった――!?)
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