第10話:紅蓮の電子工作総攻撃と、量子空間へのダイブ
李家食堂の穏やかな朝は、突如として鳴り響いたけたたましい警報電子音によって完全に破られた。
窓の外から聞こえていた、うるさいほどのスクーターの活気ある喧騒が、一瞬にして不気味な静寂へと塗り替えられる。
大陸の絶対独裁者・習孟平が率いる魏の帝国陣営が、大規模なサイバー総攻撃を仕掛けてきたのだ。
それは、無数の人民や兵士の脳を強制的に量子接続した非人道システム『紅蓮ネットワーク』の、圧倒的な物量演算だった。
台湾防衛の中枢である国家安全局の第一防壁が、血のように赤い六角形のポリゴン防壁に侵食され、紙クズ同然に突破されていく。
物理的な銃や格闘が一切通じない、電子の海からの不可視の侵略。
台北のインフラ回線がドミノ倒しのように次々とジャミングされ、通信回線が絶望的な速度で遮断されていった。
「魏の侵略ハッカー部隊が、台湾全土の基幹サーバーを強制暗号化しています!」
小梅は通信端末に表示される絶望的な進捗ログを前に、高めのポニーテールを激しく揺らして唇を強く噛み締めた。
紺色のサイバータイトスーツに包まれた彼女の胸元が、焦りと緊張で激しく上下している。
「このままでは瞬く間に総統府の指揮権が完全に遮断され、海洋連盟の防衛ラインが内側から崩壊します……っ!」
「お姉ちゃん焦りすぎ! こんなの、直接サイバー空間にダイブして、裏側のバックドアから侵入回線を力づくで引き剥きにいくしかないじゃん!」
だぼだぼの青いパーカーを揺らした小飛が、愛らしい八重歯を覗かせて冷静にハッキングのコンソールを立ち上げた。
(紅蓮ネットワークの並列演算か。相変わらず力任せで品性のないコードの書き方だ)
(だが、現在の海洋連盟の防壁では、あの物量の手前に大人しく喉元を差し出すことしかできないか)
俺は冷徹な死神の眼差しで赤く染まったモニターを見つめ、幾多の死線を潜り抜けた魂を、電子の海での戦闘モードへと完全に切り替えた。
◆ ◆ ◆
李家食堂の二階。南国のまとわりつくような湿気が微かに残る、狭い物置部屋。
そこには、重厚な排熱ファンを備えた居候たちそれぞれのダイブ用テックバイザーが並べられていた。
俺たち三人は、台湾の基幹ネットワークを食い破ろうとする魏の侵略部隊を止めるため、電子の海の最前線へ直接意識をジャンプさせる決意を固めた。
「お姉ちゃん、おじさん、準備はいい? 私のドッジのバイパス回線を通せば、魏の防壁の裏側まで一瞬でダイブできるよ!」
だぼだぼの青いパーカーを揺らし、小飛が愛らしい八重歯を覗かせてキーボードを叩く。
彼女が自作の群体AI『D.O.G.E.』の柴犬型ホログラムエフェクトを起動させると、ダイブシーケンスのコードが圧倒的な速度で書き換えられていく。
俺は無言のまま、幾多の死線を潜り抜けた死神の決意とともに、バイザーを深く被った。
視界が、まばゆいネオンブルーの光の濁流に完全に塗り潰される。
圧倒的な浮遊感と、データ変換のノイズ。
次の瞬間、三人の意識は、幾何学的な光のラインが無限に交錯する、美しくも危険な仮想VR戦闘空間『量子領域』へと着地した。
本来であれば、ミリタリー仕様の強固なデジタル装甲アバターに身を包んで戦うはずの、極限の電子戦のステージである。
仮想空間特有の、無機質で冷たいデジタルな風が、アバターの肌を掠めていった。
「ダイブ成功……! ここが魏の工作員どもの中枢侵入経路ね」
小梅の凛とした声が、量子空間の澄んだ空気に響き渡る。
「システム同期完了、これより迎撃を――って、え? なによこれ、私のアバターのグラフィックが、勝手に書き換えられて――」
だが、氷のSPとしての冷静な報告は、突如として激しい動揺の声へと裏返った。
◆ ◆ ◆
次回予告:第11話『お邪魔神の悪趣味プログラムと、純白バニーの誘惑』
(次号、緊迫したサイバー戦場に上空から乱入するゲームマスター、イーロン・孔明! 彼が仕込んだ最悪の悪ふざけコードにより、氷のSP・小梅のアバターが、とんでもなく破廉恥な姿へ強制上書きされてしまい――!?)
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