第5話:総統府の大人たちと、秒単位のサイバー予言劇
台北の中枢、総統府の最高機密作戦会議室。
重苦しい沈黙のなか、海洋連盟の英傑たちが大型モニターを見上げて絶望に表情を歪めていた。
モニターには、帝国陣営のハッカー部隊が仕掛けた凶悪なサイバー攻撃のログが流れている。
防衛システムの防壁が、秒単位で書き換えられていく絶望的な光景だ。
台湾の象徴である頼玄徳総統は深く椅子に腰掛け、日本の高市雲苗経済安保大臣は悔しげに唇を噛む。
彼女の身を包む青い龍のレリーフが施されたサイバー軽甲冑が、怒りでギリッと軋んだ。
手にした巨大なサイバー青龍偃月刀の刃が、主人の感情に呼応するように緑色の光を明滅させている。
「頼総統、我が国の高度電子防壁がコンマ数秒単位で突破されています」
「このままでは第一列島線の全指揮系統がジャミングされ、海洋連盟の防衛戦力は内側から完全に切り崩されます」
高市大臣は凛とした黒髪ショートを激しく揺らし、鋭い声を響かせた。
「台湾海峡は我が国のエネルギーと食料を運ぶ生存の命綱――文字通り、命のやり取りの最前線です!」
「ここが魏の独裁者に支配されれば、日本は戦わけにはいかず、ただ戦わずして干上がります!」
「これはアジアが『監視と統制』に屈するか、『自由と法治』を守り抜くかという、アイデンティティをかけた戦いなのです!」
その隣では、武骨な金色のサイバー鎧に身を包んだアメリカのドナルド・翼徳が苛立っていた。
赤いMAGAヘルメットを乱暴に叩きながら、蛇矛型のサイバー杖を床にドスンと突き立てる。
「ガハハハ! 北京のピエロどもめ、小窪な工作を!」
「弾道ミサイルさえ動けば、俺の関税障壁(咆哮)一発で粉砕してやるものを!」
「指揮回線を乗っ取られてはディール(取引)すらできん!」
「現代AIの心臓であるシリコンシールドを奪われれば、同盟ネットワークへの信用の境界線は一瞬で崩壊するぞ!」
(……大国の大人たちが集まって、ずいぶんと賑やかなお茶会だな)
重厚なセキュリティドアの向こう側。
幾多の死線を潜り抜けた死神の魂を持つ俺――陸志明は、大人たちの絶望と焦燥を冷徹に聞き流していた。
(シリコンの盾だろうが生存の命綱だろうが、どうでもいい。俺の目的は、独裁者の描いた完璧なディストピアのログをすべて叩き潰すことだけだ)
◆ ◆ ◆
防戦一方の大人たちの前に、会議室の重厚なセキュリティドアが強引に蹴り開けられた。
入ってきたのは、全盛期の若くしなやかな肉体にテックウェアを纏り、左目を青く発光させた俺だった。
「総統、申し訳ありません、不審者の侵入を――って、ちょっと待ちなさいよこの朴念仁!」
背後からは、顔を耳の先まで真っ赤にした小梅が、拳銃を構えたまま涙目で追ってくる。
紺色のサイバータイトスーツを軋ませ、SPとしての威厳とパニックの間で激しく動揺していた。
(……相変わらず騒がしい奴だ。だが、今は大人たちの無様な防衛戦を終わらせるのが先だな)
俺は居並ぶ英傑たちの驚愕の視線を冷徹にいなし、中央のホログラムキーボードへと迷いなく指を滑らせた。
未来知識を用いた、コンマ秒単位のサイバー予言劇の開始である。
「大人たちが集まって、緩やかな死を待つお茶会か? 敵の暗号化ラインの終着点はそこじゃない」
「あと三十秒後に、東シナ海の海底ケーブル経由で第三波のバックドアが仕掛けられる」
日本の高市雲苗大臣が、緑色に発光する巨大な青龍偃月刀を構え、目を見開いて鋭い声を上げた。
「なっ、何者ですかあなたは!? なぜ我が国の国家機密であるパケット回線の脆弱性を――」
「言ったはずだ。歴史を書き換えにきたと。――ほら、予言通りだ」
俺の言葉と全く同時に、一瞬の遅れもなく、モニターに日本の経済安保サーバーへの侵入痕跡を示すアラートが赤く点滅した。
「……高市大臣、あんたの偃月刀の暗号キーを今すぐ『GHOST_01』へ上書きしろ。一秒で押し潰してやる」
(泥水をすすり続けた地獄のような歳月で、あの独裁者のサイバー工作のパターンは脳ミソに直接焼き付いているんだ。今さら後れを取るはずがないだろ)
キーボードを叩く指先から、圧倒的な密度を誇るバイナリコードの濁流が放たれる。
それは敵の巨大な赤い防壁を紙クズのように飲み込み、瞬く間に作戦室のスクリーンを海洋連盟の緑色の完全掌握ログへと塗り替えていった。
◆ ◆ ◆
次回予告:第6話『魅惑の李家食堂と、脳髄を溶かす至高の魯肉飯』
(次号、総統府の危機を秒速で救った志明が案内されたのは、台北の熱気溢れる路地裏。そこで彼を待っていたのは、未亡人女将・李蘭が作る、胃袋を完全に破壊する究極の台湾グルメだった――!)
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