第45話:台北・李家食堂への凱旋と、ハーレム食堂の大団円の朝
振り返った俺のすぐ隣には、紺色のタイトスーツを纏った小梅が、高めのポニーテールをきゅっと引っ張りながら、耳の先まで真っ赤にして待っていた。
その隣では、小飛がだぼだぼの青いパーカーを揺らし、ニヤニヤと愛らしい八重歯を覗かせている。
「……終わったのね、朴念仁。もう、あの子の後ろ姿を追いかけるのは禁止よ?」
「これからは私の、私たちの安全管理下から一歩も出さないんだから」
「そうだよおじさん! 過去の思い出データより、現在の私たちの圧倒的な肉厚ボディの方が、人生のディール(取引)的にも大満足でしょ!」
(ああ。過去の亡霊なんかじゃなく、俺は今、この子たちの確かな体温のなかで生きているんだ)
◆ ◆ ◆
飛行機とスクーターを乗り継ぎ、俺たちが凱旋したのは、台北のあの懐かしい路地裏だった。
一歩足を踏み入れた瞬間、鼓膜を心地よく震わせる、信号が青に変わった瞬間の数千台のバイクが一斉に放つ凄まじい地鳴りの喧騒。
夜になっても気温が下がらず、じっとりと湿気を含んだ、まとわりつく熱帯の生暖かい夜風が路地裏を吹き抜けていく。
風に乗って鼻腔を暴力的に突き刺すのは、醤油と砂糖がじっくりと煮詰まった匂いに混ざり合う、八角のエキゾチックな熱気。
この、うるさいほどの人間の活気に満ちた平和な混沌こそが、俺が命を懸けて買い戻した、愛すべき現在の世界のノイズそのものだった。
(ただいま、台北。あの独裁者のディストピアに、この最高の匂いに満ちた世界を絶対に潰させはしないという誓いは、守り抜いたぞ)
◆ ◆ ◆
翌朝。まばゆい南国の太陽の光が、李家食堂の一階店舗へと燦々と降り注いでいた。
使い込まれた飴色の木のカウンター席。
俺がいつもの特等席に座ると、視界のすべてを、圧倒的な美少女たちと大人の母性が全方位から包み込んしてきた。
エプロン姿で厨房に立つ小梅、だぼだぼパーカーの袖から生足を露出させてカウンターに座る小飛、あるいは未亡人の色香を漂わせる女将の蘭さん。
かつて冷え切った戦場で、合成肉や冷たい配給物資だけで胃袋を壊してきた俺にとって、この賑やかで温かい日常は、この上ない至高の大団円だった。
俺の左目の青いレンズ(イーロン・リンク)は、すべてのアクセス制限が解除された最高権限のログを表示しながら、静かに、優しく明滅していた。
端末のホログラム画面からは、ドナルド・翼徳の豪快な全肯定と、高市雲苗大臣の真っ赤になった安保ツッコミが同時に響き渡る。
「ガハハハ! 最高の朝じゃないかキッド! 朝一番のアメリカ最高級ステーキを奢ってやろうと思ったが、そのハーレム食堂のディール(取引)には勝てそうにないな!」
「ドナルド、朝から通信に割り込んで悪ノリするのはやめなさい! ……それから陸志明、あなたも鼻の下を伸ばしていないで、早く朝食を摂りなさい、安保の乱れです!」
お気楽なコメディのトーンが店内に満ちていくなか、俺の前へと、少し照れくさそうに揺れる器が差し出された。
◆ ◆ ◆
次回予告:第46話『限界突破チョロインの特製牛肉麺と、小悪魔のパーソナルスペースゼロ夜這い』
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