第30話:神の悪ノリ同期プログラムと、怒れる李家食堂の超越者
「やあやあ、最高のクライマックスじゃないか、キッドたち。僕の特等席からの観賞を、もっとエキサイティングにしよう」
総統府作戦室の上空に、突如としてホログラムの巨大なサイバー羽扇が出現し、優雅にあおいだ。
時間再起動のゲームマスター、イーロン・孔明の通信ハックによる強制乱入である。
宇宙の特等席でポップコーンを片手につまむクソ神は、俺と、隣で九ミリ拳銃『梅花』を握りしめる小梅の端末回線へと、勝手に独自の電子戦コードを流し込んだ。
それは、二人の脳波と戦術データを分散接続し、伝達ラグを「コンマ零秒」にするための生体接続(同期手術)の建前を模した、神の最悪な悪ふざけプログラムだった。
「生体同期シーケンスを勝ために起動したよ! 戦闘の緊張感を一二〇パーセントで共有するため、お互いの『心拍数』と『痛覚』をリアルタイムで同期させてもらった!」
「痛みを分かち合う美しい絆のシステムさ!」
画面の向こうで親指を立てるイーロンの悪ノリに同期して、俺の左目の青いレンズが最悪のエラーを検知した。
『チチチ……』『チチチチチ』と、焦りの電子駆動音が脳内でけたたましく鳴り響き始める。
(あのクソ神孔明……! こんな第一列島線の生死を賭けた大決戦の最中に、また頭の悪い嫌がらせの縛りプレイを仕込みやがったな!?)
◆ ◆ ◆
「あらあら。イーロン、私の可愛い小梅と志郎くんに、ずいぶんと悪趣味なプログラムを流してくれたじゃない?」
総統府の作戦回線に、台北の路地裏から、穏やかだが底知れない絶対的威圧感を放つ大人の女性の通信音声が強制割り込み(マウントハック)してきた。
李家食堂のカウンターで、旧式のノートPC(に偽装した超越者用電脳端末)を叩く未亡人女将・李蘭である。
彼女は成熟しきった大人の色香をゆるい寝巻き姿に漂わせながら、右目の下の泣きぼくろを人差し指の先でトントンと軽く叩いた。
彼女の指先がキーボードを滑らかに掠めた瞬間、国家最高機密のセキュリティ防壁が、ミリ秒単位で完全に上書きされていく。
元世界最強の軍医としての脳神経シナプス結合を極限まで応用した、神すらも平伏させるマウント上書きだった。
「母親として、ちょっとお仕置きが必要かしらね。デバイスのバイパス出力を、私の方から少し『調整』してあげるわ」
「二人の心拍数とドキドキ、もっと深く繋げてあげましょうね」
蘭さんが極上の微笑みを浮かべながらエンターキーを静かにターンと叩いた瞬間、快感中枢バイパスが強制的に結合され、回線構造が物理的に捻じ曲げられた。
(蘭さん……!? 画面の向こうでイーロンのサイバー羽扇が完全に停止してやがる。この人、最初からすべてを手のひらで転がしてやがったのか……)
超越者の一撃によって、戦場のシステムは、軍事回線から前代未聞の領域へと強制的にハッキングされていくのだった。
◆ ◆ ◆
次回予告:第31話『快感一二〇パーセントの呪縛と、心拍数の凶悪な無限ループ』
(次号、最強の母親の調整ミス(?)により、痛覚同期プログラムがまさかの『快感パラメータ同期一二〇パーセント』に完全バグ暴走! 触れ合ってもいない二人の心拍数が、無限の相互ループを始めてしまい――!?)
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