第26話:後ろ姿へ告げる永遠の別れと、現在の居場所の確信
銀座のど真ん中で発生した、むさい男たちの突発的な全裸パニック。
周囲に響き渡る悲鳴とスマホを構える群衆の喧騒のなか、結城遥は友人に守られるようにして、足早に地下鉄の入口へと消えていった。
彼女の白い後ろ姿が、人混みの波に呑まれ、完全に雑踏の奥へと見えなくなる。
俺は彼女を追うことも、その名前を呼ぶこともせず、静かにテックウェアのフードの奥で瞳を閉じた。
自分を完全に忘れた世界で、彼女が傷つくことなく、ただ平和に生きていく。
その確定した歴史のログをこの両眼で完全に見届けた瞬間、胸の奥を重く締め付けていた狂気的な未練が、静かに、そして完全に霧散していった。
幾多の死線を潜り抜けた死神の魂は、もう二度と振り返らない。
俺は遥が去っていった灰色の虚空へ向けて、心の中で永遠の卒業を告げた。
(さらばだ、遥。お前のいる世界は、これで完璧に救われた。俺の復讐の歳月は、今ここで終わんだ)
◆ ◆ ◆
ゆっくりと目を開けた俺は、その場で静かに踵を返し、すぐ後ろで俺を食い入るように見つめていた小梅へと視線を向けた。
冷たい雨に濡れた彼女の高めのポニーテールが、白い首筋や紺色のサイバータイトスーツにピタリと張り付いている。
「……俺の役目は終わった。歴史の亡霊としての未練は、もうどこにもない」
俺の擦り切れていたはずの死神の心は、今、目の前で自分のために傷つき、冷たい雨のなかで激しく鼓動を刻んでいる小梅の確かな体温を強烈に認識していた。
救えなかった過去の残像データではなく、現在をともに泥をすすりながら泥臭く生きる、愛すべき李一家との居候空間。
それこそが、自分がこの全盛期の肉体と新しい命に代えてでも、絶対に守り抜くべき新しい居場所なのだと、魂の最奥から確信した。
「小梅。俺には、今の居場所がある」
「……この温かい日常を、独裁者の監視社会に絶対に潰させはしない」
俺が真っ直ぐに彼女の瞳を見つめてそう告げた瞬間、小梅の神聖な瞳が大きな動揺を孕んで細かく揺れ動いた。
しかし、一人ですべての因果を背負って冷酷に完結しようとする俺の横顔に、彼女の胸の奥で、張り裂けんばかりの激しい感情の決壊が始まろうとしていた。
◆ ◆ ◆
次回予告:第27話『決壊した特別警護官の堤防と、雨のホテルの胸ぐら激突』
(次号、志明の完璧すぎる覚悟を前に、小梅の理性の防壁が完全崩壊! 銀座の隠れ家ホテルへと逃げ込んだ直後、大粒の涙を流す小梅が、志明の胸ぐらを掴んで壁へと激しく叩きつける逆壁ドンハプニングが発生して――!?)
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