第21話:胸を締め付ける見えない影と、群体AIの過剰なる忖度
志明のそのどこか遠くを見つめる表情を、至近距離で静かに見つめていた小梅の胸が、今までにない冷たい感覚で激しく締め付けられた。
いつもは圧倒的なサイバー無双を見せる冷徹な男が、今、自分の目の前で、自分ではない「触れることすらできない誰か」を狂おしいほどに想っている。
それは、墾丁の夜に完璧に恋心を自覚した小梅にとって、輪郭を持たない見えないライバルへの、狂おしいほどの『嫉妬』の種火となった。
目の前に自分がいるのに、手の届かない深い孤独の闇に引きこもる志明に、置いてきぼりにされたような寂しさが胸の奥でじわじわと広がっていく。
小梅は感情の高ぶるままに、高めのポニーテールをきゅっと片手で掴んで下に引っ張った。
しかし、どれだけ強く髪を引っ張っても胸の奥のモヤモヤとした焦燥感は消えず、彼女の細い指先は切なさに微かに震えていた。
「……あんた、またそんな目をして。私の目の前にいるくせに、一体、誰のことを考えているのよ……」
小さな呟きは雨のノイズに消えそうだったが、そこにはSPとしての規律など一片もなく、ただ一人の男を想う少女の、剥き出しの独占欲が混ざり合っていた。
◆ ◆ ◆
二人の間に流れる、重く切ない沈黙の空気。
それを強引に遮るように、薄暗い廊下の隅の床から『ワン!』と可愛らしい柴犬型の電子音が響いた。
次女・李小飛が操る群体AI『D.O.G.E.』の小型自律ロボットが、ネオンブルーに目を光らせて二人の足元をすり抜けていく。
この高度な群体AIは、主人の「お姉ちゃんとおじさん、なんか気まずそう。早く仲直りしてくっついちゃえばいいのに」という雑な思考ログを最優先タスクとして受信していた。
二人がちょうど、二階の狭い物置部屋である予備の備品倉庫の前で、重なるように立ち尽くしていたその一瞬。
D.O.G.E.はお節介すぎる過剰忖度電脳介入を起動し、物置部屋のスマートロックの電子コードをコンマ秒で強制書き換えした。
カチャリ、と電子ロックが勝手に解除され、密閉されていた物置部屋の重い鉄扉が突然跳ね上がるように開く。
同時に、足元の自律ロボットが二人のふくらはぎを強烈に押し出すような物理的な体当たりを敢行した。
「きゃっ!?」
「おっと――」
シャワー上がりの無防備なYシャツ一枚の小梅と、大人の理性で踏みとどまっていた志明の肉体は、バランスを崩して狭い物置部屋のなかへと強制的に押し込まれていった。
◆ ◆ ◆
**次回予告:第22話『暗闇の監禁物置空間と、肉圧で擦れる薄手の布地』**
**(次号、外から完全に施錠された電子ロック! さらに電子ブレーカーが落とされ、二人は一寸先も見えない完全な暗闇の密室へと監禁されてしまう。暗闇の中で足元をすくわれた小梅を志明が受け止めた瞬間、薄手の布地越しに限界突破の肉圧が擦れ合い――!?)
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