第19話:まとわりつく雨季の熱帯夜と、シャワー上がりの白い幻影
台北の街に、じっとりと重く肌にまとわりつく雨季が到来していた。
窓の外からは、激しい雨音を切り裂くように、数千台のスクーターが一斉に放つ大地鳴りのような駆動音が絶え間なく響いてくる。
居候先である李家食堂の二階を包み込むのは、南国特有の限界まで湿気を含んだ、生暖かい不快な熱気。
追い打ちをかけるように、古びたエアコンが突如として沈黙し、室内の温度は一気に跳ね上がった。
俺――陸志明は、全盛期の若くしなやかな肉体にテックウェアの薄着姿で、額に微かな汗を浮かべていた。
かつて冷たい雨が降り注ぐ暗黒の処刑台に立たされていた俺にとって、このまとわりつく熱帯夜の不快感すらも、確かに生きている実感の証だった。
(サウナ状態だな。……冷え切った戦場で配給の泥水をすすっていた頃に比べれば贅沢な悩みだが、若い肉体のせいで、どうにも肌が火照って落ち着かないな)
◆ ◆ ◆
少しでも涼しい風を求めて、俺が自身の寝室である狭い物置部屋から薄暗い廊下へと一歩を踏み出した、その瞬間だった。
二階の薄暗い、魔の『L字型廊下』の直角の曲がり角。
死角から対向してきた影と、避ける間もなく正面衝突を起こした。
ドンッ、と。
鼓膜を揺らす衣擦れの音と、信じられないほどに柔らかく瑞々しい衝撃が、俺のバキバキに引き締まった胸板へと激突する。
突き飛ばされるようにぶつかってきたのは、シャワーを浴び終えたばかりの小梅だった。
ほのかに白い湯気を立ち上らせる彼女の綺麗な肌には、大粒の水滴がいくつも南国の夜光にキラキラと輝いている。
だが、何よりも驚くべきは、彼女が身に纏っているその衣装だった。
小梅が身に纏っていたのは、いつの間にか脱衣所に干されていたはずの、俺の『白い長袖Yシャツ』が一枚きり。
薄手の白い布地は、彼女の規格外に豊満なGカップの胸元によって限界まで押し広げられ、ボタンがちぎれんばかりに悲鳴を上げている。
さらに、シャツの裾からすらりと伸びる、少女特有の弾けるような瑞々しい生足の太ももが、何の防壁もなく無防備に剥き出しになっていた。
「ひゃんっ!? ……って、な、何よあんた! なんでこんな狭い廊下の角に突っ立ってるのよ!」
小梅はあまりの衝撃と恥ずかしさに、顔を耳の先まで真っ赤に変形させて声を上げた。
(お、おい待て。なんで俺のYシャツを一枚だけ羽織って出てくるんだ。しかも下、何も穿いてないだろそれ……っ!)
至近距離から漂う、シャワー上がりの狂おしいほど甘いハーブの香りと、男物のシャツに包まれた美少女の圧倒的な色香。
その暴力的な視覚テロをダイレクトに浴びて、擦り切れた死神の理性は、突如として訪れた日常のハプニングに激しく引き裂かれようとしていた。
◆ ◆ ◆
**次回予告:第20話『レンズの悲鳴と、遠い目をした死神の残像』**
**(次号、至近距離の圧倒的な色香に、志明の若い肉体が過剰反応! 左目のレンズが焦りの悲鳴『チチチ……』を刻むなか、窓の外の雨音が、彼の脳裏にある「絶対の聖域」を呼び覚ましてしまい――!?)
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