9話
朝方、周囲の騒がしい声で湊は目を覚ました。
入口のあたりが騒がしい。
どうしたんだろうと首を傾げていると、外から皆の話し声が聞こえてきた。
「おいっ、何しに来たんだよ」
「誰か声かけろよ」
「やだよっ、竜崎、一撃でぶっ飛ばしてたの見たろ?」
内容まではよく聞き取れなかったが、どうも穏やかな雰囲気ではなさそうだ。
皆、どこか慌てている。
湊は寝癖のついた髪を手ぐしで整えると、急いで服を着替えた。
洞窟の入口まで行くと、橋本が誰かの応対をしていた。
「おっ、メガネくん」
「橋本っす」
「ミナトンいる?」
その声に反応して、湊はすぐに洞窟の外に出た。
そこでは、柏木がいつもと変わらない笑顔で岩の上に腰掛けていた。
湊を見つけると手を振ってくる。
「おー、ミナトン、遊び来たぜ!」
「えっ、家に?」
思わずそんなことを口走ってしまった。
柏木と洞窟で遊ぶのだろうか?
だったら加藤くん、トランプ貸してくれるかな?
そんなことを考えて、湊は皆の方を振り返った。
それだけで意図は十分伝わったのだろう。
彼らは高速で首を横に振った。
──すぐに帰ってもらいなさい。
皆からそんな無言の圧を感じた。
どうしよう、何て答えたらいいかと悩んでいると、いつの間にか隣に来ていた橋本が、湊のリュックを手渡してきた。
「えっ?」
「すまん、お前なら大丈夫だ」
「橋本くん……」
「多分……」
腑に落ちないが、どうやらさっさと行けということらしい。
湊がリュックを受け取ると、柏木は初めからそのつもりだったかのように、岩からぴょんと飛び降りた。
「おーし、じゃあミナトンを家に案内するぜー」
柏木はまるで自分の庭でも歩いているように、森の中を迷いなく進んでいく。
湊は逆に周囲をきょろきょろと見回しながら、慎重にその後をついていった。
ふと気づくと、獣の鳴き声も、さっきまでよりずっと少ない気がした。
柏木が振り返って言う。
「ミナトン、ビックリするぜ」
「えっ? 何かあるの?」
「にっひっひっひっ、内緒」
柏木はひどく楽しそうだった。
そうして話しながら歩いているうちに、水場へ出た。
「えっ?」
湊は足を止めた。
洞窟から数分程度の場所だ。
まだ、それほど歩いていない。
なのに──。
地面が、いたるところでひび割れていた。
水辺に転がっていたはずの岩は砕け、木々の一部までへし折れている。
地面には深く抉れた跡が残り、何か巨大なものが暴れ回ったあとにしか見えなかった。
だが、柏木はまったく気にする様子もなく、すたすたと先へ進んでいく。
呆然としていた湊も、慌ててその後を追った。
よく見ると足元は、何か巨大なものを引きずったような跡の上だった。
湊としては、もう十分すぎるほど驚いている。
けれど、たぶん、これではないのだろう。
その後も、拠点に向かいながら他愛のない話をした。
柏木が話すのは、
やべえ魔獣に襲われたとか。
おもろいでっけえ鶏がいたとか。
狼の群れに囲まれたとか。
かなり物騒な話ばかりだった。
けれど、本人は目の前で楽しそうに笑っている。
どこにも怪我をした様子はない。
なら、まあいいのかな。
湊はそう思って、深くは追及しなかった。
一方、湊が話したのは、昨日クラスの皆で魔法について話し合ったことや、委員長が急にやる気を出して今後の取り決めをまとめて共有したことなど、物騒さのレベルが全く違う内容だったが、色々と話した。
それでも、柏木は「へー」「マジで?」と楽しそうに聞いてくれた。
だから湊も、いろいろなことを話した。
とても楽しかった。
傍から見たら、友だちみたいに見えるのかな、と湊は思った。
そうしているうちに、森を抜けた。
その瞬間──
「えっ……」
湊は目を疑った。
目の前に、大きな岩壁があった。
岩肌は巨大な階段のように段々になっていて、それぞれの窪みには、人が入れそうな穴がいくつも掘られている。
穴の入口には木材で作った枠まで取り付けられていた。
小高い丘のようになった場所では、木と木の間にいくつものハンモックが吊るされている。
少し離れたところにはバラックのような建物があり、その周囲にも、木や枝を組んで作った小屋らしきものが、いくつも並んでいた。
「えー……拠点」
「おう!」
「二日で?」
「二日で!」
「驚かせるって言ったろ?」
柏木が満足そうに笑った。




