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アンチ異世界ヒーローズ  作者: 木戸健雄


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10話

 岩壁の穴から、もそもそと人影が這い出てきた。

 寝起きのしょぼついた目で湊を見る。


「うるせーぞ。何時だと思ってんだ」


 かったるそうに言った。

 湊が頭を下げようとする前に、近くにいた不良生徒が反応する。


「何言ってんだ、もーとっくに日昇ってんぞ」

「マジか……夜中まであのクソ狼どもに追い込みかけてたから寝たりねーんだよ」

「ミナトン、招待してんだ」


 柏木が悪びれずに言う。

 不良は湊をじっと見る。


「ゆっくりしてけ……」


 ボソッと言って、もそもそと穴の中に戻っていった。


「ミナトン、こっち、こっち」


 特に気にした様子もなく、柏木は次の場所へ歩き始めていた。


 ──夜遅くに、この森で狼を……追い込む?


 湊はその言葉を理解するのに、少し時間を要した。

 すたすたと歩く柏木に気づき、急いで後を追う。


 それから、がやがやと騒ぎながら、大勢の不良たちがこちらへ歩いてきた。

 水浴びでもしていたのか、皆、上半身裸で、濡れた身体からまだ水滴を滴らせている。

 まったく同い年に見えない。

 不公平さをまざまざと見せつけられた気分になる。

 そんな不良たちと、すれ違うたびに柏木が湊を紹介するので嬉しいやら恥ずかしいやら、複雑な気持ちになった。


 柏木が連れてきたのは、東屋のような所だった。

 組まれた木材は蔦でしっかりと縛られており、かなり頑丈そうに見える。

 そこには、不良も何人かいたので、寝床とは別に皆で集まったりする場所なのだろう。


 柏木に紹介され、頭を下げる。

 その時、すぐそばのブルーシートが目に入った。

 何かが乗っている。

 仰向けになった鶏っぽい魔獣の死体に見えた。

 まん丸な羽毛の中には鋭い鉤爪が見える。

 嘴から舌がだらんと垂れ、腹を丸出しにしていた。


「うわっ」


 驚いた湊の声に反応して、鶏の魔獣がゴロンと動いた。


「……生きてる!?」


 えっ?えっ?魔獣だよね、と困惑する。


 そこを、荷物を抱えた不良が通りかかり、軽く足で小突いた。


「どけっ」


 キューン


 鶏の魔獣が小さく鳴く。

 その声を聞きつけ、別の不良がすっ飛んできて、魔獣の身体に覆い被さるように庇った。


「てめー、何しやがる。大丈夫か?権蔵さん」


 その名を初めて聞いた不良たちが、口々に言う。


「名前つけたのかよ。なんだよ、権蔵さんって」

「あいつな、昔、段ボールに捨てられてたオッサン猫拾ってさ。そいつが権蔵だったんだよ」

「2代目だとよ」

「昭和の不良みてーなことしてんな」


 別の不良が岩壁の上方を指さして面白そうに言う。


「番場が、あそこから落ちてよ。すっげー音がして、飛び起きたら、あいつ地面に転がったまま寝てやがってよ。全然起きねーんだよ。重くて上に戻せねーからよ。何人かで転がしてたらよ、このクソ鶏が襲ってきやがったんだよ」

「権蔵さんだ。権蔵さん」

「うるせえな。権蔵だろ」

「呼び捨てにすんなや、クソ野郎」

「ああ? 焼くぞテメー」

「やってみろや、クソ野郎」


 キューン!?


 そのやり取りを聞いて湊は驚く。


「あれ、普通に会話分かってる?権蔵、さん……」

「おー、分かってんぞ多分」

「そうなんだ。凄いね」


 湊が権蔵さんにそっと手を伸ばす。


 キュキュー


 権蔵さんは、唸って手を啄もうとした。


 慌てて手を引くと柏木たちが笑う。


「あれ、ミナトン動物苦手?」

「いや、そんなことないんだけど」


 湊は首を傾げた。


 名残惜しそうに権蔵さんを見ていると、柏木が聞いてくる。


「肉食える?」


 唐突だった。

 湊より権蔵さんが早く反応する。


 キューン!?


「大丈夫だけど……」


 湊はそう答えてチラッと権蔵さんを見る。


 キュキュー


 権蔵さんが抗議するように鳴いた。

 嘴を前後に振って威嚇している。

 その様子を見て不良が言う。


「あんま美味そうじゃねーな」


 キュキュキュー!


「なんだお前、食われたいのかよ」


 キューーーー


 権蔵さんが身を挺してかばってくれていた不良の胸に鳴きつく。


「違うぞー、権蔵さんを食べたりしないからなー」


 そんな権蔵さんを見ても、柏木は気にせずに言う。


「バーベキューだな」


 それを聞いて何故か全員微妙そうな顔をした。

 歓声が上がっても可笑しくないのに、と湊が疑問に思っていると、隣の不良がそっと耳打ちする。


「魔獣の肉、めちゃくちゃくせーんだよ」


 なるほどと頷く。

 獣臭が強くて血抜きしたくらいでは駄目なんだろうと思った。

 ただ、権蔵さんだけは喜ぶような声で鳴いた。


 キューーーン


「こいつ、まためちゃくちゃ食う気だぞ」

「あのクソでっけー猪もほとんど食いやがって」

「半日であんな臭くなるとかな。死ぬかと思ったわ」

「血まみれで肉貪ってやがってよ。あん時はさすがにヤッちまおうと思ったぜ」


 喜んでいた権蔵さんが、また先ほどの不良の背後に身を隠した。

 そこで、湊はふと疑問をもった。

 血抜きしてないのかな?

 いや、流石にそれだと新鮮でも臭くてたまらないはず。


「あの……」


 湊が控えめに手を上げる。


「はい、ミナトン」


 柏木がすかさず指で差す。


「血抜きとかしてないのかなーって」

「あぁんっ!」

「てめー、もういっぺん言ってみろ」

「ごめんなさい、ごめんなさい、そんな訳ないですよね」

「ミナトン、血抜きって?」

「えっ? ……皆さんも?」

「知ってるか?」

「知らねー」

「初耳だ」

「献血なら時々行ってんぞ」


 湊の予想が当たってしまった。

 血抜きしてないなら相当キツイ匂いだと何かで読んだし、病気の危険とかもあるらしい。


「で、てめーはやり方知ってんのか?」

「分かりませんとか、言うなよな」

「権蔵さんに襲わせんぞ」


 権蔵さんが、シャドーボクシングのつもりなのか、嘴で何度も宙をつついている。


「だ、大丈夫だと思います」

「どうやんだよ」

「えーとですね。殺した直後に、逆さにしてぶら下げて首の頚動脈を掻き切ります。あっ、喉元の太い血管です」


 湊は自分の首筋を右手の親指で押さえて示す。


「それでですね。数分で血だまりが出来るので、お腹を開きます。で両手を突っ込んで内臓を引っ張り……」


 そこで湊はようやく気づく。

 全員ドン引きしてる。

 いや、正確には腹を抱えて笑う柏木以外は、だが。

 特に権蔵さんは完全に背中を向けて不良に抱きついている。


「お前、やべえな」

「それやった後に肉食うのかよ。正気じゃねーな」


 湊は慌てて取り繕う。


「あ、あのですね。とても美味しくなるのでお肉もピンク色で脂も真っ白に……」

「お、おう」


 どうやら墓穴を掘ったようだと気づく。

 まだ腹を抱えて笑っている柏木がちょっと恨めしい。


「味がいいのは分かったけどよ。それ、誰がやるんだよ」

「無理だな」

「権蔵さんは血抜きなしでもいけっからよ」

「テメーその鶏は残飯で十分だろうが、くせー飯食わせとけ」

「何だテメー、そのくせー肉を食ってやるって言ってんだろうが、コラッ」


 不穏な空気の中、湊がまた手を上げて言う。


「あの、僕やりますよ」

「あん?」

「えっ?」

「ミナトン、マジで?」


 不良たちだけでなく、笑っていた柏木まで驚く。


「やったことないですけど、魚とかは捌くので多分そういうの平気です」


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