6話
戻ってすぐ、湊は橋本から声をかけられた。
「日向。お前はここな。俺の隣」
「うん」
橋本はすでに自分の寝床を作り終えたようだった。
荷物を置いて、地面に草や木を敷いて、その上にジャケットを被せている。
湊の場所にも結構な量の藁っぽい草やら枝やらが置いてある。
くすっと笑ってしまった。
「嫌がらせじゃないぞ」
「うん、ありがとう」
「邪魔なら隅に追いやっといてくれよ」
「ううん、本当にありがとう」
「……おう」
橋本は背中を向けてゴロンと横になる。
湊も煩くしないように気をつけながら、自分の寝床を整えていった。
気がつけば、あちこちから押し殺したすすり泣きの声が聞こえる。女子たちと離れた場所でよかったと思いながら、湊は足りない枯れ草を集めに、洞窟の外へ向かうことにした。
近くで枯れ草を集めながら、明日も柏木たちの所へ行きたいなと思う。
それに、橋本が自分の分まで寝床を残してくれていたのが嬉しかった。
顔が自然とニヤけてしまう。
こんな状況なのに鼻歌が出そうになって、湊は慌てて口を閉じた。
少しして、両腕いっぱいに枯れ草と枝を抱えて、洞窟へ戻った。
そのときだった。
ぼっ、という音とともに、洞窟の奥で赤い炎が上がった。
「うわっ! 火だ、火が出た」
「おい! 早く消せ!」
火は近くの枯れ枝に燃え移る。
騒ぎに気づいて、男子たちが集まり、上着やタオルを叩きつけて消火を始めた。
「もっと叩け!」
「消えたか?」
「ああ、大丈夫」
幸い怪我人もなく、すぐに鎮火した。
男子たちは上着を手にしたまま、焦げ跡を囲んで立ち尽くしている。
周囲には煙と焦げ臭さが漂っていた。
「男子、何騒いでるの?」
騒ぎを聞いて、女子生徒が数人やってきた。
火を出した男子生徒が、呆然としたまま女子たちの方を向く。
「魔法だ……。魔法が使える」
ボソリと言った。
「は? 何言ってんの」
「きっもっ」
「ちょっと、焦げ臭いんだけど。こんなとこで火遊びしないでよ」
「静かにして。みんな疲れてるんだから」
女子たちは、呆れた様子で自分たちの場所へ戻っていった。
しかし、男子たちはまったく気にする様子もなく、目を輝かせてあの火をもう一度出せないかと話し始める。
「魔法ってなんだよ?」
「さっきの火か?」
「ちょっ、もう一回やってみろよ」
「おい、こっち行こうぜ。入り口付近でやったほうがいい」
驚いて落とした枯れ草や枝を拾い集めている湊の所へ、生徒たちがやってくる。
「おう、わりぃな」
「う、うん。ごめんね、すぐどかすから」
「これ一本貰うぞ」
そう言って、別の男子生徒が湊の落とした枯れ草を手に取った。
「うん」
2本の指でつまみ、力を込めると、シュボッと燃えた。
「あちっ」
そう言って慌てて手を振る。
「マジかよ……見たか、日向?」
「うん、すごい」
「でも……何かしょぼいな」
「そう? でも、個人差とかあるのかも?」
様子を見ていた男子たちも、一斉に魔法を試し始めた。
やはり、威力は様々なようだった。
なかには、水を出す男子生徒も現れた。
「うわっ、水出た!」
「冷たっ! こっち向けんな!」
更に、別の男子生徒は小さな氷の礫を出した。
「見ろよ、氷!」
「すげえ! どうやったんだよ!」
みんなが子どものように盛り上がっていた。
一通り魔法を試して、湊はむふーっと満足そうに息を吐き、何かを思い出してハッと手を上げる。
「……あの」
「日向。なに?」
一斉に視線を向けられ、湊は少し怖気づいた。それでも、恐る恐る口を開く。
「あの、か、柏木くんたちもすごくて。力? なのかな? あれ」
湊は柏木と相澤のタイマンの様子を、ちょっと興奮して身振り手振りを交えながら話した。
「とんでもねーな」
「ち、近寄りたくねー」
みんなドン引きだった。
苦笑する湊に、橋本が言う。
「それ、身体強化ってやつじゃねえの?」
「魔法で身体を強くするってこと?」
「そ。そういうの」
「じゃあ、それ試してみようぜ」
そう言って、男子生徒が魔法を使った要領で身体に力を入れる。
しかし、火や水のように何かが出るわけでもなく、何か変わったようには見えない。
「……どうだ?」
「何かしてるのか?」
「駄目だ、全然わからん」
しばらく苦戦していたが、数人に変化が見えてくる。
「……なんか、身体が軽くなった気がする。気のせいかな?」
「いや、さっきより確実に高く跳んでるぞ」
「日向。柏木たちとは全然違うんだろ?」
「う、うん、何メートルも吹っ飛んでた。木とか地面もめちゃくちゃで……」
「ち、地形まで変わってんのかよ」
男子生徒は引きつった顔で座り込み、両手を振ってお手上げのポーズを取った。
「駄目だわ。流石にそれ聞いたらつづけてもしょうがないだろ」
「でもさ、魔法なら、獣とか魔物? なんとか出来そうじゃないか?」
しかし、別の男子が冷静な疑問を口にする。
「……いや、誰が戦うんだよ」
「お前、外に獣がいたとして戦えんのか?」
「俺はパス」
「だよなー。俺も厳しいわ。マシンガン渡すから熊の前に立てって言われてもな」
「獣って、誰か見たの?」
「見てねえよ。でも聞こえるだろ、あの気味悪ぃ鳴き声。何がいるかも分かんねえのに、うろうろできるかよ」
「取り敢えず、明日も検証はしてみるか」
「なんかすげー疲れたわ……もう寝ようぜ」
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