5話
湊が外へ出ると、柏木たちは見当たらなかった。だが、すぐに騒がしい声が聞こえてきたので、急いでその方へ走った。
少し開けた場所で、柏木と相澤が対峙している。
その横で不良たちが、観客のように地べたに座って二人を囃し立てていた。
番場は止めるつもりもないのだろう。
我関せずといった様子で、端にひとり座り、何やら石を組み合わせている。
とりあえず、湊に喧嘩の仲裁なんてできるはずがないので、番場の方へ近づいていった。
何をしているのか、背後からそっと覗いてみると、石の板を立てかけて、何かに見立てているようだった。
まるで墓のようで、表面には文字が見える。
目を凝らすと、少し不格好に「野地先生」と彫られていた。
「亡くなったの?」
思わず声に出した湊は慌てて口を塞ぐ。
番場は振り返り、不思議そうに首を傾げた。
「日向か。何を言ってる?」
「えっ?だってそれ」
湊は番場が立てかけていた石を指さす。
その時、数人の不良が湊の横から番場の手元を覗き込んだ。
「おいっ、てめー何してやがる!」
「縁起でもねぇー、死んでねーぞ」
「手を合わせようとするなっ!」
「おいっ、ぶっ壊せ」
不良たちが口々に騒ぎ出したその時、柏木たちの方から物凄い衝撃音がした。
「なんだ?」
抵抗しようとしていた番場も含め、その場にいた全員が一斉に振り返る。
すると、相澤が吹っ飛び、数本の木をなぎ倒していった。折れた木々が相澤に覆いかぶさり、土埃が舞う。
激しい破壊音とは対照的に、場が静まり返った。
「やっべっ」
その静寂を切り裂くように、柏木が呟いた。
いや、そんな次元ではないだろう。
「おいおいおい……死んだんじゃねーか」
「流石にヤベーだろ」
全員が固まる。
しかし、相澤は何事もなかったかのように折れた木々を押し退け、すくっと立ち上がった。
「おっ、おい大丈夫かよ」
不良がそう言って駆け寄ったが、相澤は返事をしない。
ボロボロになったシャツを剥ぎ捨てると、片手で首をゴキッと鳴らし、土混じりの唾を吐き出す。
相澤は顔を上げ、柏木を見る。その目がすっと細くなる。雰囲気が変わったのが湊にも分かった。
「……殺してやるよ」
柏木がニヤッと笑い、拳を握りしめる。
だが、次の瞬間、数人の不良が相澤に飛びかかった。
「ストップ」
「終わりだ、終わり」
「いい加減にしろよ。てめーら」
数人がそう言いながら、相澤を押さえ込む。
「おいっ! 番場、てめーも柏木を抑えろや!」
番場が「むっ」と声を漏らして柏木の方へ向き直ると、その隙をついて不良が墓石もどきを破壊した。
ひざまずく番場を無視して、皆、柏木の方へ行く。
だが、当の柏木は湊に気づいて嬉しそうに駆け寄ってきた。
「おっ、ミナトンどうした?」
湊は相澤を心配そうに見ていたが、けろりとした様子の柏木にほっとする。
「だ、大丈夫? なんか凄かったけど……」
「ああ? いつもこんな感じだからな」
「そ、そう、なんだ」
何処の修羅の国だろうと思うが、一応相槌を返す。
だが、平然と答える柏木の後ろで不良たちは激しく両手を左右に振っていた。
その様子がおかしくて、湊はクスッと笑ってしまう。
笑った拍子に、背中の重みを思い出した。湊はリュックを下ろす。
パンパンになったリュックの口紐を緩めて、中を見せた。
大量の菓子が目に入る。
「うわっ、すっげー、菓子」
「は、半分どうぞ」
「えっ?なんで? ミナトン?」
「えっと……勝手に洞窟を使っちゃってるし」
「ミナトン、関係ねーじゃん」
「ぼ、僕も普通科だし、ああいうのは嫌だなって」
「あー、いーよ。俺らはなんとかなっから取っとけよ。必要だろ?食料」
「あ……」
言葉に詰まり、俯いてしまう。
「貰っとけ。そうしたいんだろう?」
墓石の一部を持った番場がリュックから一袋取り出す。
「これいいか?」
「ど、どうぞ」
番場に頷くと側にいた不良たちが寄ってくる。
飴の袋やスナック、細かい駄菓子などを控えめに取り出し湊に礼を言う。
「サンキューな。あいつらと後で食うわ」
「じゃっ、ミナトン俺はこれで」
柏木が取り出したのは湊も好きな菓子だ。
「あ、それ美味しいよね」
「ガキの頃からよく食ってたからな」
「じゃ、戻るね。みんなが心配だから」
「ミナトン、何かあったらこっち来いよ」
「えへへ、ありがとう」
湊は嬉しそうに笑って軽くなったリュックを背負う。
そして、洞窟に向かって戻ろうとして、振り返る。
「あ、あの、また顔出してもいいかな?」
「ああ、いつでも来いよ」
柏木が頷く。
「待ってるぞ」
番場も。
そうして湊はまた洞窟へ戻っていった。
恐れ入りますが、作品にご興味を持っていただけましたら、ブックマークや評価をいただけると嬉しいです!




