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アンチ異世界ヒーローズ  作者: 木戸健雄


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4話

「んぁっ」


 口元から垂れた涎を拭きながら、湊は目を覚ました。

 最初に見えたのは、冷たく湿った地面だった。

 けれど一帯に白い霧は漂っていない。

 今度は洞窟の中だった。

 さっきとは明らかに違う場所だとすぐに分かった。

 どこからか、薄っすらと陽の光が差し込んでいる。


 頭がぼんやりとする。

 やたら騒がしい声が聞こえた。

 そっちを見ると、委員長に数人の女子生徒が詰め寄って何やら文句を言ってるようだった。


「だから、あんな人たちと一緒は無理だって言ってるの」

「先生も、竜崎君たちもいないんだよ。何されるか分からないでしょ」

「何かあったら委員長が責任取ってくれるんだよね?」


 凄い剣幕である。

 誰のことを言っているんだろう。そこまで考えて、はっとした。


「柏木くんと番場くんは? あの男は?」


 思わず声に出していた。


「不良たちは外。あの男は、俺たちが起きたときにはいなかった」


 答えたのは、隣の橋本太一だった。

 親しいわけではないが、顔を合わせれば挨拶くらいはするクラスメートだ。

 湊はほっと胸を撫で下ろした。

 続けて橋本はボソッと言う。


「委員長に文句を言っても仕方ねーのにな」


 湊も本当にそうだと思う。

 声には出さずにコクリと頷いた。


「ああ、先生や竜崎たちも何処にもいないって」


 橋本がついでのように付け加えた。


「えっ?」


 湊は驚いて周囲を見回した。見える範囲にはたしかにいない。

 その時、洞窟の出口の方が騒がしくなる。

 見ると、柏木たちだった。


 湊を見て、柏木が満面の笑みを浮かべて近寄ってくる。

 先ほどと変わらないその態度が、湊には少し嬉しかった。

 何をしたわけでもないのに、何故か純粋な好意を向けてくれる。

 友達と言っていいか分からないが、少なくとも竜崎たちに絡まれるようになってからは、クラスメートよりも柏木の方が親しげに接してくれているように思えた。


「ミナトン起きた? 何度か揺らしたんだけどぜんぜん起きねーからさ、近くにいたメガネくんに任せて外の様子見に行っててよ」

「橋本っす」


 橋本が横から訂正した。

 けれど、柏木はあまり気にした様子はなく、湊に話を続ける。


「すっげーの外、やべーやべー」

「何が?ヤバいの?」

「変なもんばっかなんだよ。見たことねー植物がそこら中に生えてて、すっげー森の中。見たことねー鳥とか飛んでんし、他にもなんかいるかもな」


 それを聞いた湊の脳裏にも間違いなくヤバいという単語が浮かんだが、柏木の言う意味とは明らかに違う。

 絶対に外に出たくないと思ったのだから。


 そんな会話を遮るように、委員長が意を決した様子で声をかけてきた。


「あ、あの、少し良いですか?」

「誰?」


 柏木が興味なさそうに聞く。


「さ、三組の委員長をやっています。鏑木舞子です」

「ふーん。で、何?」


 見るからに塩対応だった。湊との温度差が酷い。


「あ、あの、申し訳ないんですけど、み、皆さんには、こ、この洞窟から出ていってほしい、です」


 それでもめげずに、委員長が勢いよく頭を下げ、どもりながらも一息に言いきった。


「あぁっ? てめー何いってんだ?」

「おう、姉ちゃん。ここはてめーの家か?こらっ」

「ふざけたこと言ってんじゃねーぞ」


 不良たちが口々に文句を言う。

 湊でさえ、怒るのも無理はないと思った。

 自分たちから離れていてほしいというならまだ分かるが、さすがに洞窟から出ていけとまで言うとは思わなかった。


 だが、柏木は委員長を威嚇する不良たちに、手をすっと上げて止めさせた。

 面倒くさそうに頭をがしがしと掻いて返事をした。


「あー、分かった。出て行ってやるよ。言いたいのはそれだけか?」

「え?本当……ですか」

「出てくのはいいけどよ。後になって、助けてくれってのはなしだぞ」

「……はい」

「何があっても、だぞ。それでいいな?」


 委員長の返事が詰まった。


「それでいいから、早く出ていってもらってよ」


 背後の女子生徒に急かされ、委員長はうつむいた。


「……はい。約束します」

「おう、聞いたな、てめーら。行くぞ」

「鬼だな、舞子」

「ひでー女だ、舞子」

「ドSかよ、舞子」


 本気とも冗談ともつかない調子で、不良たちはぞろぞろと出口へ向かった。

 顔を真っ赤にした委員長を残して。


 最後尾の柏木が洞窟を出ようとすると、出口を塞ぐように、数人の不良を引き連れた長身の男が立っていた。番場にも劣らない体格だ。重戦車のような番場に対し、男は筋肉の鎧をまとった海外の格闘家を思わせた。

 柏木は、男を見て分かりやすく顔を歪める。


「相澤かよ、なんだよ」


 相澤賢知。柏木に次ぐ分校一年のナンバー2で、複数ある派閥の一つを率いている。柏木とは犬猿の仲だった。


「てめー、柏木。勝手に仕切ってんじゃねーぞ。なに勝手に決めてんだ」

「なんか文句あんのか?」

「あるに決まってんだろ」

「あー? いいぜ。これでケリつけてやるよ。表でろ」


 そう言って柏木は、拳を軽く前へ突き出してみせた。


「上等だ。今日こそケリつけてやる。行くぞ、てめーら」


 柏木と相澤が並んで出て行った。

 それについていく不良たちがぼやく。


「結局、外行くんじゃねーかよ」

「こういうとこあんだよな、ケンちゃんはよ」

「まー、そこが憎めねーんだけどな」


 あれだけ騒がしかった不良たちが、ひとり残らず出ていった。普通科の生徒たちは、要求した委員長本人も含めて、呆気に取られていた。

 だが、静かになったのも束の間、今度は洞窟内の場所取りをめぐって数人が言い争いを始めた。委員長が慌てて止めに入る。

 その隙に、湊は自分の荷物を掴み、柏木たちの後を追った。


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