2話
霧の奥から続々と不良が出てくる。
先頭にいた金髪ロン毛の生徒が、湊を見て足を止めた。視線がぴたりと重なった瞬間、まずいと思った。
いつもならそばに寄らないよう数メートルは距離を取るし、視線は自分のつま先を見るように、斜め下45度に落とす。そのまま、息を殺して道の端を通り過ぎるのだ。
それが、今はまじまじと見つめてしまっている。
金髪の生徒は眉間にしわを寄せ、値踏みするように下から上まで視線を這わせると、ポケットに手を突っ込んだまま、じりじりとにじり寄ってきた。
はっと我に返った湊は、慌てて数歩後ずさると、つま先に目線を落とす。
「あ、ごめ──」
何も悪いことはしていないのに、謝ろうとしてしまうのはいつもの悲しい性だった。
だが、言い終わる前に、少年が言葉を被せてくる。
「おいっ!」
その一言だけ。
だが、それだけで金髪の生徒の動きがぴたっと止まった。
湊が恐る恐る顔を上げると、金髪の生徒は分かりやすく口をへの字に曲げていた。
けれど、さっきまでの威圧感は感じない。
「けっ」と吐き捨てるように言って、離れていった。
ほっとする間もなく、アフロやコーンロウの生徒まで霧の奥から次々と姿を現した。
服装も統一性がなく、一応制服に見えなくはなかったが、丈が短かったり、異様に長かったりしていて、ヒラリと捲れた裾から刺繍が見え隠れしていた。
あれを制服と言っていいなら、湊たちの制服とはまるで違った。
柄物のシャツを着た生徒は気だるそうに欠伸をし、湊の横を通り過ぎていった。その後をタンクトップの生徒がシルバーのウォレットチェーンをジャラつかせながらついていった。
二人はそのまま、コーンロウの生徒とアフロの生徒と合流した。
不良たちは思い思いの場所に散っていった。
気づいたときには、湊の周りを取り囲むような形になっていた。
とはいえ、誰も湊のことなど気にしていない。
話しかけられることも、威圧されることもなかった。
ただ、その辺でだべってるだけだ。
街の裏路地でたむろしている不良そのものだった。
当然、普段なら遠巻きにするだけで、近寄りもしない。
ふと視線を感じて目を向けると、いつの間にか解放されていた竜崎が、取り巻きの連中と少し離れた場所から湊を睨みつけていた。
睨むなら自分ではなく、竜崎に絡んだ二人を睨めばいいのに。
ひょっとしたら、湊以外からは相手にされなかっただけかもしれない。
そんなことを考えていると、竜崎たちの背後が騒がしくなった。
湊がそっちを見ると、クラスメートたちが集まってきていた。霧で見えなかっただけで、周りにはいたのだろう。
まだ、具合が悪そうだった。青ざめ、声を震わせながら互いの無事を確かめ合っている。泣いている女子もいた。
その中の何人かが、不良たちの姿に気づいて言葉を止めた。
男子生徒たちがざわついていた。
「おい、あれ五中の玉田だろ」
「え? まじで? あの玉田?」
「あいつ、大橋一帯シメてた真島だぜ」
「うわっ、あれ二中の頭だった相澤じゃないか」
あちこちから名前が挙がり、ざわめきが広がっていった。
この手の話に疎い湊でも、挙がっている名前には聞き覚えがあった。
彼らは、湊の通う私立鳳鳴学園高等学校の分校の生徒たちだ。本校から二駅離れた彼らの学び舎は、生徒たちから侮蔑を込めて「鑑別」と呼ばれていた。
中でも、今年の一年はかなりヤバい連中が集まったと噂になっていた。
特に、要注意人物として真っ先に名前が挙がる生徒がいる。
入学初日、当時の頭とナンバー2を相手に乱闘事件を起こし、即日停学。停学明けには、教室へ向かうより先に二人を襲撃し、また停学。三度目の登校で分校の頂点に立ったという一年生。
人懐っこい犬のような見た目をしているが、一度キレれば手がつけられないという。
確か、名前は──
「柏木、ヨウ……?」
思わず声に出していた。
目の前の少年が太陽のような笑顔を浮かべた。
「おー、俺のこと知ってる?」
少年は隣の巨漢へ顔を向けた。
「聞いたー? ばんちゃん、俺も有名になってんな」
「はっ、悪名が広まってるだけだろう」
「んなことねーし。まーいいや、改めて自己紹介な。柏木ヨウ。よろしくー」
柏木は、また人懐っこい笑顔を浮かべた。先ほどのやり取りを見ていなければ、彼が凶暴だと言われても誰も信じないだろう。
続いて、隣にいた巨漢が名乗った。
「番場隆二だ」
柏木とは対照的に、どこぞの組の親分を思わせる貫禄があった。
二人の視線を感じ、湊は慌てて頭を下げた。
「ひ、日向湊です。よろしくお願いします」
「ミナトンな。覚えた」
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